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恋愛綴り  作者: 茶太朗
21/91

お試し期間

「オレと付き合ってくれないかな。」

 同じクラスのよく知らない男子から告られた。

「私、あなたのことをよく知らないんだけど。」

「オレだってそうだ。だからお試し期間って感じでどうかな。」

 お互いよく知らないのに付き合うなんて、ちょっと変わった人だなあ。

「それじゃあお試し期間ってことで、あわないと思ったらすぐに断るからね。」

「ありがとう。」

 彼は満面の笑みを浮かべた。

 『すぐに断る』なんて、ちょっときつい言い方だったかなって思ったのに、そんな顔されたら益々自己嫌悪に陥っちゃうよ。

「でも、どうして私なの。」

 これだけは聞いておきたい。

「えっと、まあそのなんだ、物事をはっきり言う人だからかな。お試し期間で合わなかったら、はっきりと断ってくれそうだから。」

 なんだろう、この人は断られたいのかな。

 Mっ気があるとか。

 だとしたらドン引きなんだけど。


 それから私たちのお試し期間が始まった。

「まずは映画行こうよ。」

 まあ無難かな。

「いいよ、ナニ観る。」

「そっちから選んでいいよ。」

 それじゃあ遠慮なく。

「恋愛ものでもいいかな。」

「喜んで。」

 友達が恋愛もの苦手なんで、観たいけど一人で行くには気が引けていた。

 悪いけどダシに使わせてもらいます。

 そして隣に彼がいるのなんて、忘れてしまう位に満喫。

 でもこれって思いっきり女性向きだったな。

 ちょっと申し訳なかった。

「どうだった。」

 私はおそるおそる聞いてみた。

「うん、こういうのって初めてだったけど、二人で観ると何かいいなって思えた。」

 そう言って嬉しそうに笑う彼に、私は胸をなでおろした。

「何か食べようか。今度は選んでいいよ。」

「ありがとう、でもオレこの辺ナニがあるか知らないんだ。だから君の好きなとこでいいよ。」

 えっと、それじゃあパンケーキとかでもいいのかな。

 それって完全に女子だよね。

 でも男の子が行くようなとこって知らないし。

「パンケーキのおいしいとこがあるんだけどいいかな。」

「オレ甘いの大好きだから行くよ。」

 初デートはこんな感じだった。

 会話も私が一方的に話すことが多く、彼は頷くばかりだった。


 それからも、『君が選んで』『君が好きなら』ばかりで、彼は自分から選ぶことはなかった。

 お試し期間だなんて言ったけど、試されているのは私だけみたいだ。

「あなたには、自分ってものがないの。お互いが同等だから付き合ってるって言えるんじゃないの。これじゃあ付き合ってるって言うより付き添っているって感じじゃない。」

 今までずっと笑顔だった彼が、この時ばかりは口をへの字に曲げていた。

「オレは、どうしたらいいか分からなくって、だから君に決めて欲しかったんだ。」

「私だって男の子と付き合ったことないし、どうしたらいいかなんて分かんないよ。それでも二人で話し合ったり分かり合えたりして距離を縮めるものじゃないの。こんな一方的なのっておかしいよ。」

「ごめん、それじゃあもうお試し期間は終了だね。」

 彼はかろうじて聞こえる位の小さな声でつぶやくと、振り返ることなく立ち去った。

 これで良かったんだろうか。

 お試し期間中が楽しくなかったわけじゃない。

 でもこんなのは違う。

 ただそう思っただけだ。

「ちょっといいかな。」

 そう言って話かけてきたのは、同じクラスの友人だ。

「聞く気はなかったけど聞こえたからさ。」

 友人は目が泳いでいる。

 別に気を遣う必要なんてないのに。

「あいつのどこが嫌だった。」

「嫌じゃないよ。でも自分がなくて、いつも私に合わせてばかりだったから。」

 友人は深くため息をついた。

「まあこうなるとは思ってたけど。あんた結構ハッキリ物事言うからね。でも、あいつはあんたに合わせてたわけじゃないんだよ。本当にどうしたらいいか分からなかったんだ。」

「私だって男の子のことなんて分からないよ。」

 友人はもう一度ため息をつく。

「そうじゃなくて、あいつは学校入るなり、事故で半年休んでたんだ。それで友達もできないまま、同世代のみんなが何に興味を持ってるかなんてのもよく分かってないんだよ。」

 私は目をぱちくりさせた。

 そんなの初耳である。

 そういえば友人は去年あいつと同じクラスだったんだ。

「あいつのこと詳しいんだね。」

 あれ、なんかちょっと悔しいのかな私。

「相談受けたんだよ。あんたと付き合いたいけど同世代のことが良くわからないってね。でも恋愛事は自分が思うままにやった方がいいよって答えたらあいつはこう言ったんだ。『だったらオレは好きな人に染まる』ってね。」

 なんて古臭い女子のような発言だろう。

 私は彼にとって、彼女であって友人でもあったんだ。

 誰かが隣にいるだけで嬉しかったんだ。

 私も彼の笑顔が嬉しかった。

 なんだ、お試し期間は有効だったんだ。

「ありがとう、彼にメールするよ。」

「お試し期間は継続かな。」

「教えない、私より彼のこと知ってて悔しかったもん。」

 そして私はスマホを取り出した。

 そして彼にメールを送る。


ーお試し期間は終了です。


 これからは正式にお付き合いをお願いします。

 








読んでいただきありがとうございました。

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