まずはお付き合いを
「俺とまずはお付き合いをしてください。」
私にとって初めての事件である。
お付き合いだなんて言葉、一生聞けないと思っていた。
かれこれもう二十五歳だ、今まで浮いた話がない方がおかしかった。
いやそうなのか、ほかの人たちはどういう経緯で付き合っているんだ。
ずっと女子高だったから、麻痺ってたかもしれない。
ああ、でもウチらのグループがそうであって、彼氏いたやつは多かったな。
「聞こえましたか、まずはお付き合いをお願いします。」
ああごめん、ごめん、おいてきぼりにしてしまったね。
彼は会社の一年後輩で、なかなかのイケメン君だ。
ちょっと固い感じがして、私とは合わないと思ってたんだよね。
きょどるな私、大人の対応ってやつだ。
「ああ、君の考える『お付き合い』っていうのはどんな感じかね。」
やっちゃった、何その口調、私ゃ上司か。
イケメン君、ぽかんとしてるよ。
「えへへへ、ちょっと課長のモノマネしてみました。似てるかな。」
我ながら苦しい言い訳。
イケメン君の表情が、露骨に険しくなっちまってるよ。
「俺は真剣なんですよ。」
いやまあ、私も真剣なんだが、なにぶん不慣れなものでして。
まずはお付き合いって言ってるんだから、『はい。』って言えばいいんだよね。
「ぁぁい。」
喉から出たのは上擦った声。
いやむしろ、どこから出たんだって声だった。
「今のはナシ、ナシの方向でお願いします。」
さすがにちょっとカッコ悪い。
「わかりました、今のことは無かったことにします。」
そう言ってイケメン君は踵を返し、立ち去ってしまった。
え、このやりとり全部が無かったことになっちゃってるの。
そんなあ、まずはお付き合いだけでもお願いしますよぉ。
読んで下さり、有難うございました。




