ラムネ菓子
錠剤みたいなラムネ菓子、
口の中で崩れるように溶けていく。
ただ甘いだけじゃない、
ほのかに舌がピリリとする。
粉っぽい後味を消したくて、
ついつい次を口に入れる。
錠剤みたいなラムネ菓子、
夢の世界に行けたらいいのに・・・。
「最近冷たいんじゃない、わたし何かしたのかな。」
少女の長い髪が静かに揺れる。
向かいの少年は目を合わせようとはしない。
それでも少女はじっと少年をみつめている。
大きな瞳は今にも涙で滲みそうだ。
「べつに、ただオレ、部活に集中したいというか、なんも考えられないんだよね。」
少年は、言葉を探るようにゆっくりと話す。
少女は一言たりとも逃さぬように、噛みしめるように頷いた。
「応援するから、わたしは隣で応援するから。いつまでも待っているから。」
少年は目を合わせないまま、耳の後ろを軽く指で掻いた。
そして教室の窓から、グラウンドを見下ろした。
「ヤベッ、もう先輩来てるし。悪い、オレ行くわ。」
教室から出ようとする少年、少女はそれを引き留めて、スカートのポケットからラムネ菓子を取り出した。
「これ、疲れたときは甘いものがいいから。」
しかし少年は受け取らない。
「オレ、その粉っぽい後味がいやなんだよね。」
「でも・・・前に好きだって・・・。」
少年はしばらく黙っていた。
ほんの数秒であったが、少女には時が凍りついたようだった。
「まあ、昔好きでも嫌いになることってあるよな。」
少年はそう言い残して、振り返らずに教室を出た。
少女は自分自身にも聞こえるか怪しい程の声でつぶやく。
「そうか、もう昔のことなんだ。」
少女はラムネ菓子を一粒口にした。
ほろほろと崩れ溶けてゆき、そして涙が溢れ出た。
とても、とても甘いのに、一瞬で消えてしまうラムネ菓子。
甘いだけじゃないなんて、知らずにすめば良かったのに。
読んで下さり、有難うございました。