優しい人が好き
「よく女子が『優しい人がいい』なんて言うけど、あれは間違っているよな。」
「それを女子である私に言うのは間違ってないのかな。」
友達以上、恋人未満とよく言うが、二人は友達かどうかも危うい。
「だいたい好きな人には優しくするものだ。」
「まあ一理あるかな。」
「誰にでも優しいと、かえって信用できないだろう。」
「そうかな。」
身振り手振りを交えて力説する男。
一方で女は冷ややかだ。
「例えば、お年寄りに席を譲るし、動物も大好きだ。しかしお前には冷たい。そんな男は優しいと言えるのか。」
「言えるんじゃない。誰にでも優しいと、何だか偽善者っぽいし。」
男はしてやったりとふんぞり返る。
「そうだろう。優しい、けれどお前には優しくない。それはつまりどういうことだ。」
「どうって・・・私のことが好きじゃないんでしょう。」
「そこだ。」
男は女を指さした。
女はその指を避けるように向きを変える。
「逆ならどうだ。他の人には優しくないが、お前にだけは優しい。それはどういうことだと思う。」
「下心があるんじゃないの。」
男は大きく首を振った。
「それは違うな。すべての愛と優しさをお前一人に注ぐんだ。それは純粋なる愛だ。」
女はため息交じりにつぶやいた。
「だから下心丸出しじゃない。私は帰るね。」
そして男は一人残された。