三言で失恋
「俺と付き合わないか。」
人気のない教室で向かい合う男の子と女の子。
西日が黒板を照らし輝いている。
「このままじゃダメかな。」
女の子は伏し目がちにつぶやいた。
男の子は少し口を開けたものの、言葉が出てこない。
暫しの沈黙が流れた。
時を刻む音だけが響いている。
「じゃあ、このままでいいよ。」
男の子は足早に教室を後にした。
ボーイズサイド:
憧れのあの子を呼び出すことに成功した。
彼女の友達と俺の友達を通じて、やっとここまで来た。
間近で見るとホントに可愛い。
肩まであるサラサラの髪が西日を受けて輝いている。
目が合ってしまった。早く何か言わないと・・・。
その服似合うね、って制服だし・・・。
趣味は何ですか、って呼び出しといておかしいか・・・。
そういえば会話らしい会話ってしたことないよ。
こうなったら真っ向勝負だ。
「俺と付き合わないか。」
言った、言ったぞ、言ってやったぞ。
「このままじゃダメかな。」
伏し目がちになった彼女の表情がうまく読み取れない。
このままって、どのままなんだ。
せめて友達なら、とかじゃないのか。
これってなんだ、マルバツどっちだ。
友達にさえなれないのか。
ああもう時計の音が頭に響いている。
なんだこれ、
もうだめだ、
逃げたい、
逃げたい、
逃げ出したい。
いや、ここは踏ん張って男気を見せてやる。
「じゃあ、このままでいいよ。」
どうだ、大人の余裕ってやつだ。
受け入れたよ。
未練なく、彼女の顔も見ずに帰ろう。
でも、これってフラれたのか。
すっきりしないよ。
ガールズサイド:
友達から頼まれて、仕方なく応じたけれど、この人だれだっけ。
背は高いし、顔だちもまあまあかな。
でもあたしのどこが好きなんだろう。
顔か、顔なのか、話したことないから、やっぱり顔だよね。
「俺と付き合わないか。」
おっといきなりですかい。あたしのどこが好きとか、自己紹介的なものとかないんだ。
判断材料がないよね。面倒くさい君だ。
「このままじゃダメかな。」
このままってどのままだよ。
こいつそれなりのルックスだから、下手に振ると厄介だな。
こいつのこと好きな娘がいたりしたら逆恨みされたり。
まあ、食い下がってくるなら考えてやらないことはない。
判断材料くれよぉ。
黙り込むなよぉ。
気まずいよぉ。
「じゃあ、このままでいいよ。」
このままってどのままだよ。
終わりなの、帰っていいの、どっちなの。
て、先に帰っちゃったよ。
何なのこれ、せめてあたしの顔くらい褒めとけよ。
好きとも言われてないじゃないの。
あたしが振ったってことになっちゃうの。
すっきりしないよ。
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他にも書いていますので、よろしければ読んでみてください。
重ねまして、ありがとうございました。