5・覇道論
しばしば手が止まった。
昼食と休憩の間も、高星は舌戦の作戦を考え続けていた。それは向こうも同じ事だろう。
だが自分は一人で作戦を考えなければならない。向こうがどうかは解らないが、自分の本拠で今後の展望や駆け引きについて話し合える臣下が、一人も居ないとは考えにくい。
自分は全て一人でやらねばならない、それが高星の大きな弱点だった。エステルは文武に有能な副官だが、広い視野で情勢を見る目は持たないし、軍勢の指揮も任せられない。親衛隊長は配下が気心の知れた二十人だから務まっているのだ。
それはそういう経験を積む機会が得られなかった以上、やむを得ない事であり、それを求める気は無い。今でも十分に自分の力になっているのだ。
だがやはりこういう時に相談できる相手が居ないのは厳しいと感じた。家中に決して人が居ない訳ではなく、提督をはじめ商取引に携わり交渉事に慣れた者は居る。
しかし彼らは普段から仕事を抱えており、高星に同行して新しい事業に携わる余裕は無い。
そもそも安東家家中において、あらゆる面で随一の実績と能力と経験を持つ提督を、留守居役から動かせない時点で人材の不足は明らかである。
かと言って自分が外に出る以上、内を固める役は提督以外に務まらない。せめてもう一人頼れる将が居ればと思う。
有望な者は居る。ジャンなどは目端も機転も利き、将来有望だと思えた。だから何かにつけてジャンに自分の考えを言わせてみたりする。
だがやはり圧倒的に知識も経験も足りなかった。自分が言うのもおかしいが、皆若すぎて未知の部分が多すぎる。即戦力になる人材が圧倒的に足りなかった。
そんな事に思いを巡らせているうちに、時間が迫っていた。やはりしばらくは全て自分一人で乗り切るしかない。
すっかり冷めた茶を一気にあおって、高星は立ち上がった。
◇
「アンドウ殿、昼食はお口に合いましたかな?」
「ええ、大変結構でした。腕の良い料理人をお抱えの様ですな」
「あれは私の考案した献立なのですよ、喜んでいただいた様で何よりです」
「ほう、シュヤ殿は料理をなされるか」
「兵糧の開発の一種を兼ねた趣味です。まあ、それは置いて、先程の続きから述べさせていただきます」
先手を取られた。雑談の流れから先に発言する事を許してしまった。
今の情況から言えば、こちらが先手を取って相手の論説を断ち切ってしまいたいところだった。
だが今の短いやり取りで、いや、短いからこそこちらに余計な事を言わせずに、先手を取られた。
強か者め。高星はナリチカに最大限の評価と警戒で向かう事を、改めて決めた。
「さて、乱世に覇を唱えるためには父母を殺し、主君を弑してもそれはやむを得ないという者が居るが、果たしてそうだろうか?
こんな例がある、かつてある国に五人の王子がいた。長兄が王位に就いている間は平穏だったが、不幸にも長兄が早く死ぬと二番目の王子は兄の子を殺し王位を奪った。
王位を得た二番目の王子は外征を繰り返し、連戦連勝を重ね国土を大いに広げたが、簒奪と度重なる外征による負担に国内の不満が高まり、ついに外征に出ている間にクーデターが起き、頼みの軍勢も雲散霧消し、王でありながら一人孤独に山中を彷徨い、ついに餓死するに至った。
また一番年下の王子も腹黒い人物で、二番目の王子の手先として働いておきながら、不満が高まってくると三番目と四番目の王子、それに数人の有力貴族と図ってクーデターを起こし兄を餓死に追い込んだ。
その後、死んだはずの王が大軍を率いて復讐に来るという偽報を巧みに流して、兄二人と貴族を死に追いやり王位に奪ったが、奸臣を重用し多くの恨みを買ったため死後も恨まれ、ついに墓を暴かれ屍を粉々になるまで鞭打たれた。
この様な例を見る限り、乱世であっても人の道に外れた行いをする者は、結局は滅ぶというのが世の理であり、我らが倣うべき先例ではないのか?」
「ぐっ……しかし軍においては一人を殺して百人に軍法を守らせる。百人を救うために一人の犠牲を払うしかないならば、それはやむを得ない事。
大義のためならば小義を犠牲にしても仕方が無く、多くの民を救うためには自分の父母を殺して過ちを止めても罪とは言えないのではないか?」
「何を言う、乱臣賊子に大義があるか。
平気で親を殺す者に、親を殺された子の気持ちが解るのか。平気で主君を殺す者に、一体誰が忠を尽くす気になるというのか。
大義を名乗っておきながら実際には畜生にも劣るふるまいをする、それは大義の皮を被った我利我利亡者の極悪人であろう」
痛烈な一撃だった。表向きは故事を語っているが、その真意は明らかに高星の行為を非難している。
高星自身、当主の座を奪った事を後悔してはいないが、こういう場でその事を責められると弁解に困る。父母を死に追いやり、当主の座を簒奪したのは動かしようも無い事実なのだ。
いくら弁解しようにも、あれは仕方が無かったという結論に持っていくのがせいぜいであり、マイナスをゼロにするのが限界である。だがナリチカはそうさせてくれるほど甘い相手ではない、この負けは必然だった。
だから、ここから巻き返さなくてはいけない。このタイミングで絶対に勝てるカードを切ってきたという事は、このまま押し切る気でいるはずだ。そうさせてはならない。
「あなたの発言は軽率だ、悪逆の限りを尽くし無残な最期を遂げた者は確かに多い。だが全ての者がそうでは無い。
古代の共和国に生まれたある男は、市民の中でも最も貧しい者として生まれた。彼は持って生まれた肉体を武器に軍隊で栄達を重ね、ついに将軍となった。
将軍になった男は自分の栄光を永遠のものにしようと考え、ある日敵国との戦争に関して重要な会議を開きたいと言って共和国の主だった者達を集め、これを皆殺しにして王位に就く事を宣言した。
その混乱に付け込んで敵国の攻撃を受け、二度敗れたが、自分の地位が固まると反撃に出て敵を打ち破り、逆に敵国を窮地に追い込んで有利な条件で講和を結ぶ事に成功した。
こうして悪逆の限りを尽くして至尊の地位を得たが、彼は内外から有能な将軍にして王として一目置かれ、天寿を全うした。
この様な例もある以上、必ずしも悪逆が破滅をもたらすとは言えず、むしろ栄光を掴むのに有効な手段である事もあるのではないか」
さあどうだ、これは論破できまい。高星は会心の一撃を食らわせたと思った。午前中の会談の内容から言って、無道を非難する論法で攻めてくる事は予想していた。それが高星には痛いところを突かれるものならばなおさらだ。
だからそれに対抗するカードを用意してきた、これはかなり苦しいはずである。これで一気に流れを引き戻せるはずだ。
さらに言うなら相手はこれまで多くの故事を引いて自分の意見は見せずに来た、だがそうそう都合の良い故事が有る訳も無い。そろそろ種切れのはずだ。
だからここから先は自分の言葉を話してくるはずだ、それを故事を引いて潰していく。それは論戦ではなく、文章の穴を埋める様な作業である。それで一気に勝ちを積み重ねられるはずだ。
向かい合うナリチカの顔を見る、汗が一筋流れていた。追い込んだ、これで不用意な反論をすれば、それこそ絶好の好機である。
だが、次に口を開いたのはナリチカではなかった。これまでナリチカの隣に座るだけのノギが、ここに来て初めて言葉を発したのだ。
「悪逆を尽くしても身を全うした例があるからと言って、悪逆を尽くす事が肯定される訳ではない。また行為は同じでもその動機や情況が違えば一概に悪逆とは言えまい。
『君、君足らざれば、臣、臣足らず』という言葉もある。暴君に君主の資格無く、これを殺す事は主君を弑したのではなく、罪人を誅殺することである。
貴殿の挙げた例は、悪逆を尽くした者の例とは言い切れない」
詭弁だ、思わずそう叫びたくなったが寸でのところで飲み込んだ。発言したのはナリチカではない、ナリチカの家臣だ。ここでそれに反応すれば、ナリチカが仲裁し家臣の無礼を詫びるだろう。そして肝心の論戦の内容はうやむやにされる。
詭弁としてもかなり無理をしたものだが、本人ではなく臣下が発言する事で無理を通した。最悪咎められてこの場から退出すれば済んでしまう。
今のは図った事ではないだろう。ナリチカの苦境を察してとっさに救いを入れたのだろう、やはりこのノギと言う男、油断ならない腹心と見るべきか。
だが今の詭弁でこちらが一転して窮地に陥った事は確かだ。何と言ってももう有力な手札が無い。
高星は、机の下で握り拳を震わせて必死に打開策を見つけ出そうと頭を巡らした。
◇
不意に、ナリチカが笑い出した。
初めは堪える様な笑いだったが、やがて誰の目をはばかる事も無く大声を上げて笑い出した。
「ミツツナ、今のは助かったぞ。正直ここまで追い込まれるとは思わなかった」
「殿!」
突然何を言い出すかと言いたそうなミツツナを手で制し、ナリチカは高星をまっすぐ見すえる。
「アンドウ殿、いやタカアキ殿、もうつまらん腹の探り合いはここまでにしようではないか。
お互い相手はよく見たはずだ、そして腹の内では同盟を結ぶ事自体はもう決めている。そうだろう?」
ニヤリと笑みを浮かべるナリチカに、高星も同じ笑みを返した。
「そうですな。それで、腹を割って何を話そうと言うので?」
「あくまでそれをこちらに言わせるか、やはり強かだな。ならば言おう、この同盟でお互いどれだけの価値ある物を相手に提供し、どれほどその見返りを要求するかと言う、取引の話だ。
これが定まれば、必然的にこの同盟がどういう関係になるかも決まるだろう」
儀礼を廃したこの口調が、ナリチカ・シュヤという目の前の若者の地なのだろう。
「なるほど、それであなたは同盟を組む利益として、どんなものを我々に提示するので?」
お互い腹の内は見せずに相手の意思を探り、優位な関係を築く事を狙う舌戦は確かに放棄した。
だが交渉自体が終わった訳ではない。そこを見誤って気を抜くと痛い目を見る。ここからは自分をいかに高く売り込むかの勝負である、そしてより高く売った方が同盟の主導権を握る。
それにしてもナリチカの交渉センスはやはり侮れない。勝っているとは言えなくても、優位に進めている舌戦を放棄して引き分けにしたのだ。
優位に進めているとは言え自分も苦しい以上、逆転負けの危険を冒すよりも引き分けで終わらせる方を選ぶ。戦術的には正しいし、比較的ありふれたものだ。
さらにこの引き分けでこちらの油断を誘い、重要度で言えばはるかに上回るこれからの交渉を有利に進めるための布石でもある。
だが、だからと言って有利な勝負を捨てるのは容易にできる事ではない。そのあたりの見切りの速さ、余計な執着の無さは実に判断が早い。それでいて高星の痛いところを執拗に攻めてくる執念深さも持ち合わせている。
だが、これまでのやり取りが白紙に戻ったという事でもある。それはこちらに有利である、なにより同盟する利益として提示できるものはこちらの方が格段に大きいはずだ。
ここで勝つ、それで何も問題は無い。その思いを秘めながら、高星は相手側に先に条件を提示させた。
「当家の先代はユウキ合戦以降、蒼州の諸勢力に広く人脈を築いていて、私もそれを受け継いでいる」
「昌国君の威光はいまだ健在ですか」
「そうだ。そしてその蒼州の人脈から得た軍事技術をまず提示する。即ち鉄砲技術」
「鉄砲……すでに実用化が?」
「蒼州の戦ではすでに数十丁単位で実戦投入され、それなりに戦果も上げている。戦乱がどこよりも早く、どこよりも長く続いたため、鉄砲の構造や運用法に関しても蒼州のものは最先端と言って良い。
その最先端の鉄砲技術を当家も取り入れ、さらなる独自研究も進めている。同盟の暁にはまずこの鉄砲技術を提供しよう。
これから強大な敵に挑もうという者には、価値の高い物だと思うが?」
「ふん、なるほど鉄砲か。確かに実戦で運用した経験に基づく軍事技術は貴重だ。
だが戦の勝敗を決定するのは結局は人であり、物や技術は戦略戦術よりも下位に位置するものだ。正確な情報があればなおさらだ。
鉄砲の有無が必ずしも勝敗を分けるという訳ではない、それを思えばどれほど価値があるか――」
「では要らないのか?」
「いや、そうは言っていないだろう。私はただ鳴り物入りの新兵器が必ずしも期待通りの活躍を見せるとは限らないという事を言っているのであり――」
「では別に技術提供しなくていいのか? それならそれで無理に押しつけて迷惑をかけるような事はせぬが?」
「……欲しいか欲しくないかで言えば、欲しい技術だ」
「そうだろうとも。同盟の際はこちらは鉄砲技術を提供する、これでこちらの貸し一つだ」
下手な値切りの目論見は逆効果という事か。高星はいきなり足元を見られた格好だが、軍事技術はいくらでも欲しいので、鼻先にチラつかせる様な事をされては強い事は言えない。
同盟国に吹っかけもしないだろう、わざわざ同盟を結んでおいて関係を悪化させる様な事をする意味は無い。
そう思い定め、こちらはまず何を見せるべきか考える。交易という大きな武器を持つ安東家にとって、用意できるもの、提供できるものは多いが、この場で提示するべきものを考えると、なかなかこれという物が浮かばなかった。
しばしの黙考の末、高星は自分が今向き合っている男に最も有効なものは、利益などでは無いのではないかと思った。
そして利益よりも大きなものを、高星は持っていた。それは誰にも明かした事は無かったが、今それを言葉にすべきではないかと言う気がした。
「一つ、同盟の交渉ではなく、タカアキ・アンドウ。いや安東高星という一人の男の言葉として、聞いて欲しい事がある。少しばかり長くなるかもしれんが」
「男として……か。そう言われては俺も男だ、聞こう。話してみろ」
◇
「この土地は古来より『長城の向こう側』などと言われ、中央とは別の世界として人々に認識されていた。実際、中央に興った歴代国家も長城より北はあくまで外国と言う認識だった。
それは今の帝国の初代武帝も同じだ。武帝は軍政共に卓越した稀代の英雄だったが、その武帝にして長城より北の世界を版図に組み込もうとはしなかった。
あの壁を隔てて、世界は違いすぎる。それを無理に一つの国にまとめれば軋轢が生まれる。そう認識していたからこそ、武帝はこの地を征服しようとはしなかったのではないかと思う。
やろうと思えばできた事は、明帝がこの地を征服して変州とした事からも明らかだ。だからできないのではなく、やらなかったのだと思う。
だから私は、この土地をあるべき姿に戻そうと思う」
「あるべき姿に……それは変州を帝国から切り離して、一つの独立国家とするという事か?」
「そうだ」
「それでお前はその国の皇帝にでもなるつもりか? 蒼州で皇帝を名乗ったジギスムントみたいに」
「違う。私は皇帝にはならない、王にもならない。王も皇帝も、我らの国には無かったものだ、だから要らない。
私は覇者の国を創ろうと考えている」
「覇者の国?」
「本来の、最も古い意味での覇者だ。即ち、貴族領主の中から最も優れた者が選ばれ、盟主となる。盟主は国の中心だが、頂点ではない。あくまで対等な関係の貴族連合の中の、第一人者だ。
そして内は国土を開発し、実力に基づいて人材を採用する。外は弱国を助け、無道の国は討ち、見返りは求めず、領土は増やさない。それは覇者と、覇者候補の地位を持つ者の義務だ」
「そんな国が可能なのか?」
「むしろ、そうあるべきだろう。海が荒れれば船は転覆する、馬が暴れれば人は振り落される。同様に、民が暴れだしたら上に立つ者は、上に居られず転げ落ちる。
民こそが土台であって、我々はそれに認められ、支えられてここに居るのだ。下から認められた者が、下から支えられて上に立つ。それは一見上に立っている様で、本質的には対等なのだ。
この土地にかつてあったのは、そういう対等者の国であって、血筋によってその地位を得て、上から押さえつける王も皇帝も無かった」
「待て、この土地にも古くから貴族はいたし、王だっていた」
「確かに貴族の血筋という物はあった。貴族の統治者もいた。しかし全ての貴族が統治者ではない。統治者の地位は血筋ではなく、実力に基づくものだった。
上に立つ優れた者は、次代の上に立つ者を育てなければならない。その時まず育てるのは、自分の子だ。その繰り返しの結果、先祖代々地位を得る事にはなったが、それはあくまで実力に基づいていた。
実際、優れた実力で統治者として認められ、その子孫も力量を持っていたために新たに貴族となった家もある。
王もそんな代々治者の器量を見せた貴族の、特に優れたものでしかない。貴族と一線を画す、天意を受けた神聖不可侵で唯一絶対の存在というものは無かった。
我が安東家がその実例だ。私の先祖達はその実力次第で栄枯盛衰を繰り返してきたが、愚かな当主は辛うじて家を保つに留まり、優れた者はこの地に覇を唱えた。
安東家と言う家自体は貴族として常に存続したが、その手に掴む地位と権力と栄光は、ただ実力のみに依っていた。
そもそも貴族の語源は『先陣を切る者』であり、転じて『先頭に立つ者・最も優れた者』の意味を持った。
つまり、衆に認められる実力の持ち主が本来の意味の貴族であり、血筋は関係無い」
「しかし、そうなると必然的にその国は有力者の連合政権になる。多数の有力者による連合政権が弱体なのは、歴史上に多くの例がある事実だ。
中心に立つ名目上の君主権力が弱体で、統制が取れない。有力者同士が地位を巡って内乱を起こす。
強力な中心が無い事で起こるそれらの欠陥を、どうするつもりだ?」
「私もまだ明確な答えが有る訳ではない。今考えている限りの事を言うならば、覇者の座を巡る争いを明確なシステムとして定め、内乱を防ぐ。一度覇者を選んだら、名目上対等な貴族たちも実務上覇者に従う事を義務付ける。このくらいだ」
「たとえ覇者の選び方を明確に定めても、それに従わず強引な方法で意を通そうとする者がいずれ現れる」
「そういう者をどう捌くかもまた覇者たる者に問われる資質だろう。どんな国を創ろうともどのみちいずれ腐敗し、堕落するのは避けられない。それはその時に生きる者が悩むべき事だ。
私はただ、今とは違う道を示したいのだ。この地がこの巨大な、巨大すぎる帝国の一部として生きる道は必ずしも幸福ではない。
大きな国ほどより優れた制度と統治者が必要になる。今の帝国は大きすぎて、制度も統治者の能力も追いついていない。その歪みがこの土地に集まっている。
だから、我らの力量で治められる大きさの国に作り直す。我らが生きるのに最も良い形の国に作り直す。それが、私の考える国の姿だ」
「そしてその国の最初の覇者にお前が就いて、それを成そうというのか?」
「いや、むしろ私はお前を……失礼、ナリチカ殿を推そうと思う。今はな」
「俺? いや、私を?」
「私より若く、それでいて恐るべき見識を持っている。人にも慕われている様だし、何より経歴にも人格にも、暗いところが無い。私の様にな」
高星が少し自嘲する様に笑う。
「長話をしてしまいました。しかしこれはつまらない話ではありません。この思いを言葉にしたのはこれが初めてです。この場には私を含めて四人いますが、私はナリチカ殿にだけ話したつもりでいます」




