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ワシ、海坊主を見たんや!

作者: 天音空
掲載日:2026/10/10

今日は怖い話するで。


いまから20年も前や……


職場の先輩おっちゃん二人と、ワシら後輩男女あわせて六人で釣り行ったときの話や。


一舟三人に分かれて海出たんやけどな、

台風のあとで、鯛がもう入れ食いや。


その日は民宿泊まって、

うまい飯食って、男女部屋分かれて寝たんや。


朝も早かったし、すぐ寝落ちや。


――ほんでな。


夜中の三時頃やったろか……


ふっと目ぇ覚めたんや。


トイレ行こか思て、横見たんよ。


……うわっ!


横で寝とるおっさんの顔が、二つあるんや。


一瞬、息止まった。


心臓、変な音した。


……やっぱり、二つある。


しかもな――


その“もう一つの顔”が、こっちじーっと見とるんや。


薄暗い部屋のなかで、目ぇだけ白く浮いとる気ぃした。


――なんやこれ……なんやこれ……


ワシ、知らんふりして布団出て、トイレ行った。


戻ってきた。


……まだおる。


――どっか行けや……はよ行けや……


――なんで夜中に“顔の数”増えとんねん……


そう思いながら、もう一回よう見たんや。


……?


……なんか、位置おかしないか?


顔、ちょっとズレとる。


頭の上に……乗ってる?


……え?


……カツラ?


その瞬間や。


「ぐふっ」


笑いが、込み上げてきた。


――あかんあかんあかん!!


――ここで笑ったら終わりや!!


必死でこらえた。


だってな、

そのカツラ、

完全に“もう一人の顔”みたいに乗っとるんや。


……ヘルメットや。


――あかん……無理や……


ワシ、音出さんように布団潜り込んで、

もう一回だけ見た。


やっぱり顔や。


転がっとる顔や。


――あかん……死ぬ……


笑いこらえながら、そのまま寝てもうた。


――朝や。


起きたら、おっさんおらん。


カツラもない。


なんや夢かい……


そう思ったんや。


顔洗って、歯磨いて、食堂行った。


みんな、なんかちょっと疲れた顔しとる。


「おはよう」


先輩が入ってきた。


……その瞬間や。


ワシ、固まった……


先輩……その頭……!?



―了―

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