ワシ、海坊主を見たんや!
今日は怖い話するで。
いまから20年も前や……
職場の先輩おっちゃん二人と、ワシら後輩男女あわせて六人で釣り行ったときの話や。
一舟三人に分かれて海出たんやけどな、
台風のあとで、鯛がもう入れ食いや。
その日は民宿泊まって、
うまい飯食って、男女部屋分かれて寝たんや。
朝も早かったし、すぐ寝落ちや。
――ほんでな。
夜中の三時頃やったろか……
ふっと目ぇ覚めたんや。
トイレ行こか思て、横見たんよ。
……うわっ!
横で寝とるおっさんの顔が、二つあるんや。
一瞬、息止まった。
心臓、変な音した。
……やっぱり、二つある。
しかもな――
その“もう一つの顔”が、こっちじーっと見とるんや。
薄暗い部屋のなかで、目ぇだけ白く浮いとる気ぃした。
――なんやこれ……なんやこれ……
ワシ、知らんふりして布団出て、トイレ行った。
戻ってきた。
……まだおる。
――どっか行けや……はよ行けや……
――なんで夜中に“顔の数”増えとんねん……
そう思いながら、もう一回よう見たんや。
……?
……なんか、位置おかしないか?
顔、ちょっとズレとる。
頭の上に……乗ってる?
……え?
……カツラ?
その瞬間や。
「ぐふっ」
笑いが、込み上げてきた。
――あかんあかんあかん!!
――ここで笑ったら終わりや!!
必死でこらえた。
だってな、
そのカツラ、
完全に“もう一人の顔”みたいに乗っとるんや。
……ヘルメットや。
――あかん……無理や……
ワシ、音出さんように布団潜り込んで、
もう一回だけ見た。
やっぱり顔や。
転がっとる顔や。
――あかん……死ぬ……
笑いこらえながら、そのまま寝てもうた。
――朝や。
起きたら、おっさんおらん。
カツラもない。
なんや夢かい……
そう思ったんや。
顔洗って、歯磨いて、食堂行った。
みんな、なんかちょっと疲れた顔しとる。
「おはよう」
先輩が入ってきた。
……その瞬間や。
ワシ、固まった……
先輩……その頭……!?
―了―




