ポリス WHY THE KILL
廊下を歩く1人の女がいた。
髪はやや蒼みがかった黒髪でウルフカットになっていて、
長身の女は迷いなく廊下を進んでいる。
顔は彫刻のように美しいが、目は柔らかく穏やかな雰囲気を漂わさせている。
スーツ姿も似合っていてスラッとした体型だ。
彼女は廊下の突き当たりの扉に来たところで
「失礼します。」
言いとまるで女は初めて来たかのように扉をあける。
その扉の向こうにはまたも女がいた。
髪は伸び放題でありながらも不潔には見えず、
烏のような綺麗な黒髪だった。
体型は女性らしく、顔は端正だが目は鋭く相手を見通すようだ。
それだけ言えばただの美人なのだろうが
腕には手錠をかけられ
黒いパーカーにジーパンを着て、
椅子に腰掛けている。
まるで今から取り調べを受けているようだ。
否、実際に取り調べである。
「えーっと罪状は…」
スーツを着た女はわざとらしく芝居がかかった口調で
「あちゃー殺人か…しかも5人もそりゃまあ…どうしたらそんなことになるのお?」
まるでふざけているような口調だが彼女にはこれが普通なのだ。
なんなら5人も殺した殺人者に対する声掛けとしては親しみを感じる。
「よくもまあそんなに殺せるねえ……私にはわかんないよ…。」
スーツの女は煙草を取り出して自然な流れで火をつける。
普通なら取り調べの最中にこんなことをしたら同僚に叱られるにだが、
今回は一対一である。
「……………………………………………」
容疑者の女はまるで品定めをしているように沈黙を続ける。
「えっと被害者の死亡推定時刻はそれぞれ昨夜………一時間おきってあんたすごいね……私ならそんな小刻みに人殺せないわ…場所も全員自宅だし…凶器は実銃と包丁か、実銃で弱らせてから器用に一時間おきに殺した感じか。」
「…………………………………………………」
女は沈黙を続ける。
「一時間おきの理由は勇気が出なかったのかな?それともじわじわ次はお前だあ…みたいな感じでビビらせたかったのかな?あんたの場合は後者かな?だってあんたを痛みつけてた連中だもんね。」
「……………………………」
無表情だった。
「体中に痣があるしまだ虐待は続いてたのかな?まああるあるだよね悲しいけど、子が肉親をやっちゃう奴。でも兄と2人の妹までやる必要ある?」
「……………………………………………」
まるで上の空のように見える。
「まあでも実際はあんたにしかもうわかんないけどね。もしかしたら一家総出であんたを虐めてたのかもしれないし…」
「…………………………………」
少し顔が歪む。
「なんであんたから自白した癖にずっと黙ってんのさ…。あっそう言えば私の名前言ってなかったね。私は葬屋鏡子っていうんだ。えっとあんたは善下君子ちゃんか、17歳で家族殺しかあ……私はその歳の時は学校でカチコミしてたなあ…ほら相手をばったばったと倒してさ…地元じゃ負け知らずの女番長…みたいな?それがこんな警察になってまあ。」
「……………………………なんで」
「ん?」
女……否、少女が口を開く。
「なんでそんな馴れ馴れしいのさ?私は自分の家族皆殺しにしたんだよ?ビビるとかさ、怒るとかさ、なんかないの?」
手を振るわせながら君子は質問する。
「んーっとね。結局私からしたらあんたなんてガキなわけよ。そんなガキが何かしたところでうぇぇぇぇん怖ああああい殺されるぅぅぅとはならないのよ、なんか理由あんの?ってまず最初に思うの。」
「…………助けたいってこと?」
「いや?全然そんなことないけど。殺人者は殺人者な訳だしね、私は動機に興味があるのよ。
私にはわからないからね。なんで人が人を殺すのかとか。だって人を殺すのって利益よりも損失の方が大きい訳じゃん?もし嫌いな奴がいなくなっても今度は警察に追われるわけじゃん。それで刑務所に入って人生を潰すってw死んで全部捨てて楽になった方がマシじゃない?」
「…………そうかもね」
「でもあんたはそれをしなかった訳じゃん?私はその理由を知りたいの。じゃあ聞くけどなんで?」
「そうですね……いざ聞かれるとわからないがその質問の答えですね」
「はい?」
鏡子は拍子抜けしてしまう。
わからない?
「ほんとにわからないんですよ。殺そうとした時はもうほんとに衝動的だったんです、もうやだな全部無かったことにしたいなって思った時はほんと早かったんです。気がついたら実銃をダークウェブで購入してました。」
「……………そう。」
「それで実銃が届いた時私は高揚感に包まれたんです。あんな嬉しかったの何年振りだったでしょうね。本当に興奮しました、これからすることもこれからのこともまるでワクワクするような冒険譚のように思っていました。」
「へぇ………」
鏡子は何故か少しニヤついてしまった。
何故だ?
「そして殺すときも解放されていました。恐怖にのたまう顔最高でしたよ最初は一瞬で殺すつもりだったんですけどえっちなことをしてきた父親の怖がる顔を見て考えが変わりました、じっくり苦しめてやろうって」
「ところでなんでお兄ちゃんと妹ちゃん達も殺したの?」
もうなんの疑問も感じてないような口調で鏡子は聞く。
「別に何かされた訳でもないし兄は庇ってくれたりしたんですけどね、あの時は全部終わらせてやろうって気持ちが強かったんですよ。まあ今となっては兄妹は恐怖で苦しめる必要はなかったので可哀想でしたね。きっと私がMなんでしょう。」
「自白したのは?」
もう諦めたように聞く。
「悪いことをしたんです。法的機関に身を委ねるのは普通でしょう?」
「………あっそ、あんたはきっと自分の事なんかどうでも良いんだろうね。そうじゃなかったら生粋の殺人鬼なんだろうよ。」
「そうですね。もうこんな人生終わらせたいですよ、本当にどうでも良いんです。」
本当に興味がなさそうに君子は言う。
「んーなるほどねだから自殺もしないと。」
「別に自殺をしても良かったんですけどね、でもここでこの命を捨てるのは勿体無い気がして。」
「勿体無いねえ…もうここまでイカれてると精神鑑定で無罪いけそうだよ…あんた。」
煙草の煙をフーッと吹く。
「まあ学びにはなったかな。あんたのは最初銃を買ったところまでは復讐だったんだろうけどさ、もうその後は誰でも良かったんじゃないの?兄と妹も流れで殺してるじゃん。もう一度聞くけどなんで自首したんだよ?」
「さっきとは別の答えをご所望ですか?刑事さん?……そうですね、自分が怖かったんですよ。正直なところ確かに殺している時は快感でした。しかし、その後は恐怖心に心が覆われました。私はなんでこんな風に感じているんだろうって………………
だからこんな悲劇はこれで終わりにしようと思ったんです、別に私が死んだところで殺人が無くなる訳では無いですが私が誰かを殺すことは無くなります。だから、できれば死刑がいいんですよね。」
「そっか……じゃあ私がお前を殺してやろうか?」
鏡子は君子に問う。
「そうですね、できるならお願いします。少年法で刑が軽くなるとか地獄ですからね。」
「あっそ。」
と言い鏡子は事前に用意していたのだろうか、ズボンの中に入っている実銃を取り出し、君子の額に銃先を当てる。
そして、
「あばよ、勉強になったぜ。」
「そうですね、ありがとうございます。」
少女は目をぎゅっと瞑りながらそう答える。
君子と別れを口にする
そして、鏡子は引き金を……
「……はあ。」
鏡子はため息をつく。
そして、引き金を引かないまま実銃をポケットにしまう。
「えっ?」
君子は素っ頓狂な声をあげる。
「本当にお前つまんねえな、さっきまでのガチだったのかよ…。本当は引き金を引いて弾入ってねえよ、怖かった?命は大切だってわかったか?って言うつもりだったのによ…あーもう……ここで殺したら私多分首どころじゃすまねえんだけど。ガチの狂人相手なら許せるんだろな、私が私自身を。」
「………えーっとなんて言うかすみません。」
「良いんだよ人は人がいなきゃ死ねないし、生きれないんだから。」
「じゃあ、あばよ。割と学びになったぜ。」
「え?殺してくれないんですか?」
君子はジト目で鏡子を見つめる。
「そりゃそうだろ、わざわざお前のために職を失えるかよ。」
「そうですか。じゃあ、また。」
「もう二度会いたくねえよばーか。」
そして、鏡子は部屋から出る。
そして、顔を歪めながら、
「っち…あんたのことは少しも理解できなかったよ……君子ちゃん。」
と鏡子は呟いた。
煙草はもうぐしゃぐしゃだ。
短編です。




