表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレイジーマンと呼ばれる高校生  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

第六章 奪還のロジック

 爆発現場は炎よりも煙が濃かった。

 A室の地上出入口が半壊し、周囲は封鎖線で囲まれている。サイレンが重なり、怒号が飛び交う。だが本丸は地下だ。観測者が狙うなら、物理破壊は陽動に過ぎない。

 俺と澪は身分証を見せて中へ入る。階段を駆け下りるたび、焦げた匂いが強くなる。


 地下フロアは一部が停電していた。非常灯の赤が壁を染める。坂東は血を流しながらも立っていた。「相良……来たか」

 「状況は?」

 「サーバー室に侵入。だが奇妙だ。データは奪われていない」

 御堂が奥から叫ぶ。「違う、コピーされた形跡がある!」

 久瀬は無言で壊れた端末を拾い上げる。


 俺は理解する。

 観測者は破壊しない。収集する。

 都市実験、俺の拒否、全てがデータだ。


 サーバー室に入ると、中央のラックに小型端末が挿し込まれていた。見覚えのある黒い筐体。

 澪が息を呑む。「また……」

 画面には一文。


 ――次の最適解:信頼を切り捨てよ。


 坂東が苛立つ。「何のことだ」

 俺は端末を抜き取り、解析を始める。

 表示が続く。


 ――あなたが拒否したことで、観測は深化した。

 ――対象:如月澪。


 空気が凍る。

 澪の名前が、赤く点滅する。


 ――彼女はあなたの最大の不確定要素。

 ――合理的に考えれば、排除が最適。


 坂東が低く唸る。「ふざけやがって」

 御堂が震える声で言う。「これ、彼女の個人情報が……全部抜かれてる」


 俺は無言で画面を見つめる。

 観測者は俺の弱点を突いた。

 都市でも国家でもない。俺の“選択”そのものを。


 澪は静かだった。

 「ねえ相良」

 「なんだ」

 「合理的に考えたら、どうするの?」


 合理的に考える。

 澪を遠ざければ、観測者は攻撃手段を一つ失う。

 彼女を守るために、関係を断つ。

 計算上は正しい。


 だが、それは観測者の提示した枠内だ。

 俺が最も嫌う“提示された最適解”。


 「排除はしない」

 俺は即答した。

 坂東が驚く。「即断か?」

 「合理性は枠組み次第だ。枠を壊せば、最適解は変わる」


 澪が小さく笑う。「難しい言い方しないでよ」

 俺は彼女を見る。「簡単だ。お前は排除対象じゃない。共犯だ」

 「共犯?」

 「観測者を逆観測する」


 鷹宮が到着し、状況を把握する。「相良くん、彼女を安全な場所へ移す」

 「意味がない」

 「何?」

 「観測者は物理距離を気にしない。問題は心理距離だ」


 俺は端末に向き直る。

 「観測者、聞いてるだろ」

 沈黙。だが確実に“向こう”は見ている。

 「排除はしない。むしろ強化する」


 御堂が戸惑う。「強化?」

 「澪をA室の正式メンバーにする。アクセス権限を最大化。俺の隣に置く」

 坂東が怒鳴る。「危険すぎる!」

 「違う。観測者は孤立を前提に最適解を出す。連帯を最大化すれば、計算は破綻する」


 澪が俺を見る。「私、巻き込まれてるよね」

 「最初からだ」

 彼女は数秒黙り、そして頷いた。「いいよ。合理的じゃないけど」


 端末が震える。

 ――予測外の選択。

 「当然だ」

 ――では、変数を追加する。


 その瞬間、モニターに新しい映像が映る。

 藤堂。

 高校の同級生。

 彼が見知らぬ部屋で拘束されている。


 坂東が歯を食いしばる。「人質か」

 観測者の声がスピーカーから流れる。「クレイジーマン、君は孤独を拒否した。ならば過去を使おう」

 俺は無言で画面を見つめる。

 藤堂は俺を殴った男だ。

 だが死ねば後味が悪い。


 「最適解を提示する」と観測者は続ける。「彼を見捨てれば、澪は安全。救えば、澪が危険」


 合理的二択。

 嫌いじゃない構図だ。


 澪が小さく言う。「相良、私を選ばなくていいよ」

 坂東が怒鳴る。「黙れ!」

 だが俺は笑った。


 「観測者、相変わらず浅いな」

 「何?」

 「二択に見せているだけだ。第三の道がある」


 俺は御堂に指示する。「映像のノイズを拡大しろ」

 解析を進めると、拘束部屋の壁にわずかな反射が見える。

 「これ、ライブじゃない。ループ映像だ」

 坂東が目を見開く。「囮か」

 「そうだ。藤堂は人質じゃない。情報の餌だ」


 観測者の沈黙。

 俺は続ける。「お前は俺の過去を利用したつもりだろうが、俺は過去に執着しない。合理的だからな」


 端末の表示が乱れる。

 ――感情パラメータ、予測不能。


 俺は笑う。

 「残念だったな。俺は自分の狂気を理解している」


 だが次の瞬間、映像が切り替わる。

 今度は本物だ。

 澪の自宅。

 玄関前に、黒いフードの影。


 澪が青ざめる。

 坂東が無線を取る。「至急、警備を――」

 だが観測者は言う。「間に合わない」


 心拍が跳ね上がる。

 恐怖だ。

 今度は計算じゃない。


 俺は端末を強く握る。

 「観測者、やりすぎだ」

 「合理的な提示だよ」


 俺は深呼吸する。

 恐怖をデータに変えろ。

 感情を解析しろ。


 「御堂、澪の家の電力網を切れ」

 「え?」

 「暗闇にすれば、侵入者は赤外線に頼る。坂東、赤外線妨害ドローンを出せ」

 「可能だが時間が――」

 「今すぐだ」


 数秒後、澪の家の映像が暗転する。

 フードの影が戸惑う。

 直後、ドローンが窓を破り、煙幕が広がる。

 坂東の部隊が突入。


 映像が乱れ、そして静止した。

 フードの男が拘束される。


 A室に静寂が戻る。

 だが俺は分かっている。

 あれは駒だ。観測者本人じゃない。


 端末に最後の一文が浮かぶ。


 ――よくやった。次は、君の“選択”そのものを奪う。


 画面が消える。


 澪が震える手で俺の袖を掴む。「終わらないね」

 「終わらせない」

 「どうやって?」

 俺はゆっくりと答える。


 「観測者は提示する側だ。なら俺は“提示を拒否する”存在になる」


 坂東が低く言う。「それはどういう意味だ」

 「最適解を出さない。計算を放棄する」


 澪が目を見開く。「あなたが?」

 「そうだ。俺が」


 それは俺にとって、最大の狂気だ。

 合理を武器にしてきた俺が、合理を捨てる。


 だが観測者に勝つには、それしかない。


 窓の外は、夜明け前の薄明かり。

 都市は静かだ。


 観測者。

 次は俺のターンだ。


 狂気は、選択を奪わせない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ