表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレイジーマンと呼ばれる高校生  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第五章 最適解、相良狂志

 都市実験の翌日、メディアは「謎の午前三時騒動」とだけ報じた。パニックは起きなかった。死者も出なかった。だがSNSには無数の“おはよう”が残り、奇妙な連帯感がトレンドになった。観測者の狙いは外れたように見える。だが俺は分かっている。あれは前哨戦だ。本番はこれからだ。


 A室の空気は重い。坂東は警備を倍増させ、御堂は通信ログを洗い直し、久瀬は黙って俺を観察している。鷹宮が静かに言った。「相良くん、君に対する脅威は現実だ。単独行動は控えてくれ」

 「合理的じゃないな」

 「何がだ」

 「観測者は俺を狙う。なら俺を隔離するのは、相手の土俵に乗ることになる」

 澪が低く言う。「あなた、自分が餌だって分かってる?」

 「当然だ」

 「それで平気なの?」

 俺は少しだけ考える。「平気じゃない。だが効率はいい」


 その夜、自室に戻った俺はスマホを見つめていた。通知はない。だが静寂は嵐の前触れだ。

 午前三時。

 画面が自動で点灯した。


 ――最適解提示プログラム:対象 相良狂志。


 来た。

 心拍が上がる。だが逃げない。

 画面に次々とデータが流れる。俺の過去、停学記録、母の涙、藤堂の嘲笑、澪の言葉。

 ――あなたは孤立している。

 ――あなたは理解されない。

 ――あなたの合理性は社会に適合しない。


 分析は正確だ。

 だが浅い。


 次の一文が表示された。


 ――最適解:観測者になる。


 思わず笑う。

 「なるほどな」


 観測者は俺に選択肢を提示している。敵対するのではなく、同化せよと。

 ――あなたは既に人を操作した。都市を動かした。ならば側に来い。

 ――孤独は共有できる。


 甘い誘惑だ。

 孤独を共有? それは矛盾だ。孤独は定義上、共有できない。

 だが心のどこかが揺れる。もし観測者の側に立てば、証明は一瞬で終わる。世界は操作可能だと。


 澪の声が頭をよぎる。

 「狂うって、孤独になることだよ」


 画面が続く。


 ――あなたは母を守れない。

 ――あなたは澪を巻き込む。

 ――合理的に考えれば、関係を断つべきだ。


 拳を握る。

 合理的。

 確かに俺は周囲を実験材料にしてきた。都市すら使った。なら澪も例外じゃないのか?


 その瞬間、インターホンが鳴った。

 午前三時過ぎだ。

 ドアを開けると、澪が立っていた。

 「やっぱり来た」

 「……何が」

 「あなたの最適解」


 彼女は部屋に入り、スマホを覗き込む。表示を見て、眉を寄せる。

 「観測者になる、か」

 「悪くない提案だ」

 澪は強く首を振る。「悪いよ」

 「なぜ?」

 「それ、あなたが一番嫌ってる側じゃん」


 言葉が刺さる。

 俺は観測者を敵と定義している。理由は単純だ。人を一方的に測るからだ。

 だが俺も同じことをしてきた。


 澪は続ける。「あなたは合理を武器にしてる。でもね、人は計算だけじゃない。あなたが都市に提示した“おはよう”は、合理じゃなかった」

 「合理だ。連帯はパニックを抑制する」

 「違う。あなたが少しだけ、信じたからでしょ」


 信じた?

 俺が?

 都市の人間を?


 確かに、あの瞬間、俺は計算だけじゃなかった。

 “人は非合理な連帯を持つ”と、どこかで信じた。

 それはデータじゃない。仮説でもない。願いに近い。


 スマホが再び光る。


 ――回答期限:午前四時。


 あと四十分。

 澪が俺を見る。「どうするの?」

 「決まってる」

 「本当に?」

 俺は深く息を吸う。


 観測者になるのは簡単だ。孤独を受け入れ、上から眺める側に回ればいい。

 だがそれは、俺の証明を放棄することでもある。

 俺が証明したいのは、狂気が合理を超える瞬間だ。

 合理に従うなら、ただの計算機だ。


 俺はスマホに入力する。


 「拒否する」


 画面が揺れる。

 ――非合理な選択。

 「当然だ」

 ――理由は?

 俺は少し考え、打ち込む。

 「面白くないからだ」


 沈黙。

 数秒後、画面に新しい一文が浮かぶ。


 ――ならば、次は奪う。


 同時に、窓の外で閃光が走った。

 遠くで爆発音。

 俺と澪は顔を見合わせる。


 スマホに位置情報が表示される。

 A室の座標だ。


 澪が青ざめる。「坂東さんたち……!」

 俺はすぐに走り出す。

 観測者は交渉をやめた。

 同化が無理なら、破壊。


 タクシーの中で、俺は笑っていた。

 観測者、やっと本気か。

 都市規模でも足りない。

 今度は国家中枢だ。


 だが一つだけ違う。

 俺は孤独じゃない。

 隣に澪がいる。


 合理的じゃない。

 だが、それでいい。


 狂気は孤独か?

 それとも、選択か?


 答えはまだ出ない。

 だが次の実験は、もっと血の匂いがする。


 俺はスマホを握りしめた。

 観測者。

 俺を奪うつもりなら、覚悟しろ。


 狂気は、奪われない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ