お尻の痕は男の恥ではない
瞼を開けると、何故か見慣れない景色が広がっている。
目の前が新緑で包まれた森となっていて、太陽は暖かく今までに嗅いだことのない空気を感じ取っていた。
そもそも、さっきまで玄関の目の前に居たのに何故目の前が森なんだ…。もしかしてパラレルワールド?
色々考えていたら一番大事なことにふと気づいた。
「あっ!!財布とスマホがない!!どうしよう……それにデイリークエストの報酬もらってないよ……。」
右ポケットに手を突っ込んでも何もない、後ろポケットにも何もないのだ。
焦燥感に駆られながらも、とりあえず周囲に落ちてないのか探し始めたが幾ら草木をかき分けても全く見つからない。
(やっぱりここには無いか……この世界に飛ばされた時に服以外の私物はここにはないらしい。)
焦りも少しずつ収まり、とりあえず街に向かう事にした。町に行けば交番もあるだろうし、そこで紛失届を出そう。うんそれがいい。
それから、どこまでも歩いても全く変わらない景色で例の樹海を思い出す。ここはそういったスポットではないことを祈りながらも歩き進める。
草木が揺れ、森の陰が段々と濃くなっていくにつれ、1時間ほど経ったのだろうか、口の中が乾燥し始め喉が渇いてきた。
「サバイバルでは、水が必須だった気がする……水さえあれば後一週間は生き延びられるはず。」
目的を変更し水場を目指そうと歩いていたら、何処からか声が聞こえた気がした。この世界に来てから音は聞こえていたが声は未だ聞いたことが無かった。
目を閉じて、耳を澄まし周囲の音に集中してみると
「おい、お前見たことない格好をしているな?」
(ん?日本語?やっぱりここはパラレルワールドなのかもしれない)
安心して目を開けたが、特に何も変わらない。至って普通の草木が目に前にあるだけだ。
周囲を見回しても何も変化なし、声が聞こえたからやっと人に出会えると楽しみにしていたのに..。
そう思って再度歩き始めるとやっぱり先程と同じ声が聞こえる。
「誰ですか!何処にいるんですか!? 姿を見せて下さい!」
勇気を絞り何もない草木に向かって大声で話しかけてみたら、やっぱり声だけが聞こえる。
すると突然お尻に鞭をくらったような痛みが走る。
「いっ痛?!」
状況を理解出来ないまま、後ろを振り返るとある木の枝が揺れている事に気づいた。
それは紛れもなく木であったが、よく見ると人間と同じ様に目と口があった。
「あっ……。」
「アニメで見たことはあるが本物を見るのは初めてだ……...。」
少しの間が流れてやっと口から声が出る様になった。
日本語で聞こえたから人間かと思いきやそれは全く異なる存在が目の前に現れた。
これは、パラレルワールドではないな...確実にそう感じた。
凝視しないと判別出来ない位、木に擬態している大木に私は恐る恐る話しかけた。
「えっと...…初めてまして、私は人間です。お尻に鞭を与えたのは貴方の趣味ですか?それともここの世界での挨拶なのでしょうか?」
「いや、それは見れば誰でもわかると思うぞ?わしの趣味だと思うのか?男に鞭を与えてどうすんだ?特に意味はない。」
不機嫌そうに答え、じっとこっちを見てくる。
「そうですよね!?すいません.…..。ですよね...…男に鞭を与えるなんてえっと色々混乱しているんです。単刀直入にいうと迷子になっています。」
少し悩みながらも視線を左右に向け、困惑した表情で見つめ返す。
「お前まだ疑ってるだろう...…?まぁいい...そうだろうな見るからに迷子という有り様だな。」
少し不機嫌ながらも、態度はそれなりに親身になってくれている。
なんとなく今までの経緯とこの世界に関して聞いてみる。
「扉を開けたらいきなり光に包まれて、目を開けたら此処にいたのか...…なんとも不思議な話だな。
理解は出来たが、まず間違いのはここはお前がいた世界とは全く違う事だ。」
「…...と言いますと?」
「つまり此処には交番?はないからお前が無くした物も永遠に見つからないであろう。そしてお尻に付いた鞭の痕も消えないだろうな...…死ぬまで。」
「えっ?」
「ん?」
数秒の沈黙が流れて愕然とした、現世では人間と結婚出来ないであろうと思っていたが、この世界で仮に恋人を作ろうとしても脱いだら必ずお尻にある鞭の痕を見られてしまうのだ。余りのショックに倒れ地面を拳で叩いていた。
「クソォォ...…!! もう終わりかもしれない、でも解決方法はある! 私の全身を鞭で打ってくれ!! そうすれば目立つことはない!」
半泣きになりながらも全ての服を脱ぎ、万歳のポーズで立ち上がる。この姿は、恥ずかしいが鞭の痕がマシになるならこれでいいのだ...…。
「ハハハハ!! お前バカだろう? 冗談に決まってるだろうよ。」
「えっ? 嘘なんですか ?じゃまだお付き合い出来る...…!! ヤッター!!!」
「当たり前だ、この鞭にそんな能力はない。あるとすれば...一時お尻が赤くなるだけだから安心しろ。」
いかにもからかってやったぞと言わんばかりの態度に、少しやり返したくなる気持ちと拳を抑えながら安堵をする。
「からかうのもここまでにして、お前の知りたかったこの世界について簡単に説明しよう。」
そう言って彼はゆっくりと話し始めたのだ。
次から本格的にこの世界に関してわかる様になります。
パラレルワールドではなく、異世界でした。
運良く話ができる木?に出逢えて良かったね!
名前とか諸々しっかりと決めていないので考えておきます。




