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いわくつきより難しい  作者: 鹿音二号
27/45

ショータイム(1)

大陸西側では魔法士が幅を利かせ、東洋の術が物珍しくあるのは間違いない。

あまりにその術が魔法士たちの常識では測れないため、一部研究者以外には興味すら抱かれていない。これが少しでも魔法と同じところがあれば関わることもあっただろうが。


この国で二級魔法士ハーマンが唱える、魔法純粋主義。

昔から魔法士の数は多く、さらに他の術に応用が利かない、唯一のものであるから、魔法はすべてにおいて優良で優位だという主張だ。

魔法士のあいだに昔からある思想で、排他的で過激であるために、主に神殿と何度も衝突し、今ではごく一部のみが唱えているだけである。

なお、魔法士の数が多いのは、西側で主流であるということが主な理由。

それ以外にも、魔法は魔力だけで自己完結する単純な術であり、成果が目に見えやすいためという理由もあるとされている。


魔法純粋主義が一方的に危険視しているのは、東洋の術。

彼らがいうには、この術は、ともかく秘密まみれで詐欺まがいである。その力の使い方は不正であり、邪悪だという。

結局、東洋のことはよく知らない上に、たまに見かける熟練者が行う術が、魔法士の理解する法則を無視して結果が上回ることが多々あったからだろう。


東洋の術士本人らからしてみれば、ものにするには10年以上の修業が必要で、魔法のように身一つで行えるものでもないので一長一短だった。


「……このように、我々魔法士は日々切磋琢磨し、魔法を一般に役立て国を守ろうとしているわけですね」


侯爵邸のパーティーには、予想以上に人が集まっていた。

二級魔法士ハーマン。

50歳近くの、大成した魔法士である。貴族のパーティーの出席だが、ヘンツの薄水色のローブを着て自分はあくまで魔法士だと主張している。


王都の魔法士機関ヘンツの5本の指に入る実力者であり、有力者。その名前は国外にも知れ渡り、魔法士の中でも有名である。

ただ、彼の場合、一部では悪目立ちという点もある。

実力はあるが、言っていることについていけない。そう評価する者も少なからずいる。

魔法を愛するあまり、他がいっさい目に入らないのだ。


今回も、その欠点をみごとに利用されたのだろう……目をかけている三級魔法士に。

ただ、馬鹿というわけでもない。


「このカイメは商業都市として国有数の街だが、さらなる繁栄には魔法士の力は必要でしょう。なぜなら……我々は力を利益に出来ます。魔法の輝かしさは、5代前のネイーグ王の時代から国を発展させましたから、皆さんもよく理解なさっているでしょう」


この商業都市カイメに、あまり魔法士が力を伸ばせないことは知っていた。これを足がかりに、広く魔法を知らしめる絶好の機会と、根回しもできる限りしていた。

まず、主催の貴族の派閥に声をかけた。取り巻きの魔法士も数をそろえた。


問題は、カイメの実質領主であるクレイトス男爵が『方術士』――憎き東洋の術士を擁しているという話だった。まずは彼の目を覚まさせ、信用を得ることが重要だ。

手勢を送り、カイメにいるという方術士を監視し、化けの皮をはがす。

なぜなら、邪法を扱う奴らはおかしな行動をとるはずである。信用できないものをそばに置いてはいけないと、クレイトス男爵に忠告するのだ。


「対して、方術士。あれはだめです。すべての力の法則を無視し、威力だけ求める様は破壊的です。そのすべては愚かな術士と、その周囲の者に破滅をもたらすに違いないのですよ。実際――」


ハーマンは準備万端のつもりだった。

けれど、彼はそもそも間違っていた。

クレイトスは昔からこの街にちらほらと現れる東洋の術士とは協力関係にあり、それは単純に利益関係だった。

それは、貴族の間では、ひそかに有名だったのだ。ひそかすぎて、王都の魔法士機関が根城の魔法士に機微もわかるはずがなく。


そして、その善良なる魔法士の救済を、よりによってクレイトス男爵のテリトリーで行おうとし、男爵は喧嘩を売られていると正しく理解して迎え撃つ気だった。

二級魔法士よりも多少事情を知っている実質この件をたくらんだ三級魔法士だったが、貴族の機微は彼にもまだ遠い世界だった。


魔法純粋主義の魔法士をカイメに呼ぶというミスをしたのは、最近家門の商売を一部任され、意気揚々と街にやってきた侯爵令息だった。王都暮らしが長く、カイメのことをただの少し栄えた商業の街程度に考えていた。

父親の侯爵は国では有権者だったが、息子のこの独断にのちに懊悩することになる。


クレイトスは勝てる戦しかしないが、勝つためには努力を惜しまなかった。

大差で喧嘩に勝つ。

因縁の相手でもある、ここは派手に行きたい。


「――お分かりですかな。私はカイメの、その代官であるクレイトス男爵のために今日この場に参りました。機会を与えてくれたニルス卿には感謝を」


家門の凋落を招くニルス侯爵令息は、このときは満面の笑みで二級魔法士ハーマンにグラスを掲げた。


ここで拍手が鳴り響く……はずだった。

少なくとも、ハーマンとニルスの想像図ではそうだった。

実際は、誰一人、手を叩くものはいない。

叩きかけた数人はいたのだが、周りの格上だったり無視できない貴族にやんわりとだったり鋭くだったり、いろいろ含んだ視線をもらっていて手を動かせなかった。


ニルスの親の七光り派閥は、このパーティーの趣旨を読み間違えていて、本当は戦場だったのだとようやく気がついた。


「……」


うっすらと笑みを浮かべ、グラスを傾けるクレイトス男爵。

その周囲には、金持ち順に有力な貴族が立っていた。


それに混じり、垢抜けない青年がふたりと、野性味のある日焼けした男がひとり。

社交界では見たことはないし、見るからにも慣れていなさそうな、けれど仕立ては一級の礼服を身に着けているのは青年たちで、もうひとりの男は堂々と黒い艷やかなコートを立派な体躯に纏っていた。異国風の顔立ちだが、場に溶け込んでいる。


「よろしいですかな、男爵」


男が、少し訛りのある発音で男爵に声をかけると、クレイトスは鷹揚に頷いた。


「失礼。お初お目にかかる、ハーマン魔法士。私は男爵のお屋敷に滞在を許されたしがない修験者であります」

「しゅ……?」


目を白黒させたハーマンは、じっとその男を見つめた。


「東洋人か?」


その横に立っていた黒髪の薄水色のローブの男が、こっそりとハーマンに耳打ちする途端に彼は目が鋭くなる。


「方術士ということか、よく分からぬ詐称名で惑わすのはいかがかなものか」

「いえ、拙僧はレイの方術士の方々とは似ても似つかぬクサナギの、陰陽寮に所属するしがない仏僧であります。至らぬ身を鍛えようと国を飛び出してまいりましたが……まさか方術士の尊師と騙ることになろうとは……いやいや不徳の致すところ。東に叩頭せねば」

「……陰陽寮……?」


ハーマンの顔色が変わる。


「ご存じでありますかな。はるか極東、クサナギの術士組織であります。拙僧はその階二位の術士。魔法士殿には……4級より少し上、と申したほうがはやいでありますな」

「クサナギの方術士がなぜこのような街に?」

「なりませぬ。方術士ではなく、せめて術士と呼んでいただこう。至らぬ身で、尊師らの名に泥を塗るのは己を許せぬ」


男が無表情になり、ぐっと周囲の空気の温度が下がった気がした。

だが、ハーマンは気づかぬふりで笑みを見せた。


「……よかろう、術士ではあるのだな、なにやらそれなりのこだわりがある様子」

「術を扱う者の、明確に区別されるべき当然である故に」

「なっ、」


「そもそも方術とは、この大陸で原始の術のひとつともいわれている。ニ千年前のフウという東洋の国で生まれた術で、主に神霊祖神を崇め、境地を体得し、占術や治癒などをよくする。自然に学び、己をその一部と認識し、その大いなる力とともに生きることを目的とする。これは大陸北部のユリオラの一部地域に伝わる神霊信仰とも通じる。南部の広く崇められるア=タリャ神の信仰とも。フウは今では大国レイとなっているわけであるが――そのレイでなおも強い信仰と、それに見合う力を使う術士が方術士であります」


男がまくし立て、おそらく会場のほとんどのひとはぽかんと彼を見つめた。

彼はそれらを見回し、ことさらゆっくりの口調で、


「ふむ……こちらでいうなら、神官と魔法士が同じ学び舎で机を並べていると思ってくださればよい。仲が良いのは良きことではないですかな」


どこからか、小さく笑う声が聞こえた。

これは分かる。さんざん神殿とやり合ってきた魔法士一派への皮肉だ。


「彼ら方術士の扱う術は、二千年の重みがある。拙僧のたかだか千年の修験道も、元をたどれば方術への憧れから小国クサナギにて独自に発展したもの。そのような尊師祖神の名を騙る者と言われては、恥で地に埋まりたくなるというもの。同じ術士として、貴殿には畏み申し上げたい」


「……あ、ああ、分かった。だが、東洋は――」

「小国クサナギも、術士の大成を50年前にみたもので、今では東では名の通った組織として、国の鎮守府として、陰陽寮が挙げられますな。諸兄らにはあまり馴染みがないかと思われますが……ふむ、マキア」


傍らの黒髪の青年を呼ぶ。


「これなるは弟子のマキアという者。彼はこのガイウス伯領出身のものだ。たまたま縁があり、拙僧が教えた、陰陽師という術士になる。彼の使う術が、我が国クサナギが誇る先代陰陽寮首座、大陰陽師アンジョウが大成したものでありますな」


マキアと呼ばれた青年は、一礼してみせた。

彼を、じっと見つめるものがいる。ハーマンの隣に立っている、黒髪の魔法士だ。

その憎々しげな視線を、なんの感慨もなさそうに受け止めるマキア。

その後ろで、鋭い目で魔法士を睨むもうひとりの青年は、周りに気づかれていない。


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