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いわくつきより難しい  作者: 鹿音二号
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魔法士になれなかった青年の話(4)


「俺はほとんど生まれたときから魔力持ちの特徴が出ていて、そのまま普通に育てば魔法士になった。けれど、同じ魔力持ちの叔父と違ったのは……遊び回って村の近くの森に入り込んでいたことだった」


そこは昔から精霊の森と言われていた。

なんも変哲もない森で、ちょっとした伝説だろうと面白がって年長者が子供に教える程度だった。精霊がいるという逸話があるだけで不思議なことが起こるわけでもなく、危険な獣が棲むわけでもないので、木を切りに入ったり、子どもたちだけで木の実やキノコを採りに行くこともあった。


「俺はしょっちゅう入り込んでいた。何が楽しかったのか覚えていないが、おそらく同世代の子どもの誰よりも入り浸っていた。……そのうち、見えるようになったのは、当たり前だったんだろう」

「……見えるって、まさか」

「ああ、精霊だ」


光る小さな虫のようだった。

蝶にてんとう虫、透明な羽だけのものに、羽はないのに飛び回る平たいもの。

色々な姿をしていて、それがいつも森に入ると数体は出てくるので、見えるようになるころにはそれが楽しくて探しに行っていた。


「子どもだったから、そういう生き物だと思い、親に話したし、叔父にも。そのときは魔力がある子どもだから精霊を見ることもあるかもしれないと、叔父は笑っていたが……」


その頃から叔父のロウドは、おそらくマキアに拘泥を持ち始めていたのだろう。

本人も気づいていたかは分からないが。


「俺は叔父に教えられて魔法の勉強を始めた。俺が10歳になる前だったかな、ロウドは王都に行った。ああ、魔法士の『ヘンツ』に入ったんだ。当時は……四級に上がるかというところで、実力者として歓迎されたそうだ。まだ30歳にもなっていなかったのに、かなりのものなのは間違いない」


王都に行ったが、休暇のたびに村に戻ってきていた。王都は村から馬車で2日もかからない場所にあるし、家族は村に残ったままだった。無理はないように思えた。


「俺を魔法士の訓練校に入れるかという話があったが、ロウドはまだ早いと言って、自分が教えると言い切った。ちょうどその時を前後して、急に俺は魔法が上手くできなくなった。……こう、ともかくうまく行かない」


今まで簡単にできたことが、頑張っても上手くできない。


「なぜかわからなかったし、不安だった。だが、叔父は……むしろ優しくなった。できないのは仕方がない、ゆっくりやろうと……」


笑顔で。

今思い出しても吐き気がする。


「……1年以上経ったが、いっこうに上手くなる気配がなかった。これはあとから知ったんだが、もしかしたら、俺は出来損ないかと、そういう話もしていたそうだ……叔父が、俺の父親に」


ビクトルは眉をひそめている。


「……なんかおかしくないか?」

「そうだ、おかしいんだ。だけど、誰も気づかなかった」


きっと、王都で新鋭と言われたロウドだから、間違いはないのだと、誰も。


「誰も、ロウドがわざと俺の魔法習得の進捗を遅らせ、それを俺の素質のせいにしてるなんて気づいていなかった」

「……」


ビクトルが、何を思ってか盛大に顔をしかめた。こんな嫌そうな表情は見たことがない。


「けど、ロウドも別に嘘を言っているわけじゃなかった。どっちにしろ、俺はもう魔法士にはなれない体質になっていた。さっき言っただろう、魔力の使い方で違うと」

「ああ」

「もうひとつ条件がある。魔力の使い方が一度一定に馴染んでしまえば、別の方向にするのは難しいんだ」

「それは、お前が魔法士の魔力の使い方じゃない方向になったってことか?」

「そうだ。この国で魔力持ちと言ったら魔法士、次に神官となってしまうが、東洋では細分化しているがいわゆる『方術』がある。それに南の方に行くと、占術を主にするものもあるそうだ。俺は……かなり少ない、精霊士というものになりかけていたそうだ」


精霊というものは、神に祝福された存在として神殿が認めているし、魔法士にはそれに加えて力ある存在として畏怖もある。


「精霊士が魔力を託すのはもちろん精霊だ。精霊士が認められているのは、大陸では北西のほうで、有名なのはユリオラ聖帝国の三司祭だな」


ナンリが腕を組んだ。


「三姉妹だが全員精霊士であり、国の宗教の最高司祭。精霊に愛されたものとして国中から崇められている」


ユリオラでは精霊信仰も盛んで、数人いる精霊士の全員が国の要人だった。

ユリオラと、その周辺の精霊信仰が盛んな国々に十数人程度いるとされている、精霊士――


「数が少ない理由は諸説ある。ひとつは精霊が大陸の西側にしかいないこと。なぜかというのは……これもいろいろ説がある。さらにもうひとつ、その精霊がいる西側で魔力持ちは魔法士なるのが主流なのだ」

「へえ……」

「さらには、生まれ持った魔力の質も関係があるのではないかと思うが、これについてはたしかな証拠はない。ともかく……なれるものもなるものも少ないのが精霊士だ」


「……マキアが精霊士になりかけていたっていうのは、森の精霊が原因なんすか」

「ああ。マキアは幼い頃に無意識に精霊に同調するために魔力を使い続け、魔法士のような使い方ができなくなっていた」


これについては誰のせいでもない。


「もちろんそんなことは知らない俺は、魔法を使おうとして無理やり魔力を捻り出していたらしい。不安定で、魔法の形になる前に消えるか爆発していた」

「爆発?」

「出した魔力が飛び散るんだ。ひどいときは痣になったりやけどをしたりしていた」

「な……っ!?」

「原因は俺には分からなかった。ロウドはどうだか、分からないが……1年と少し、そんな状態だった」


転機が文字通り訪れたのは、マキアが11歳になったころ。


「偶然、ナンリが村にやってきた」

「あ……」


ビクトルがナンリを見た。

ナンリは今と同じく世界中を旅していた。王都からカイメに行く途中、偶然立ち寄った村で、魔法を使えず苦労する少年を見つける――マキアだ。


「もう少しで、取り返しがつかなくなるところだったと言われたな」


無茶な魔力の使い方で、体が変調を起こし始めていた。

そのうち、暴発どころか手足を吹き飛ばすか、そうでなくても病気のように動けなくなるか。

魔法士は、魔力だけですべてを体現するために他の使い方を想定しない術士だった。


その他の術士はどの方向にするか試行錯誤で、危険も重々承知している。

とはいっても、合う合わない、出来るかできないかの見極めは危険に陥るほどやり込まない。

出来るからやる、というのが普通だろう。力に気づいた最初に、ほぼ方向は決まる。出来ないのに無理やりやる、やらせるのはやはり理にかなっていない。


「俺は慌ててマキアの両親に会って、了解を得て、マキアが使える術……陰陽術を教えた」

「そうなのか。……って、あれ?マキアは精霊士って……」

「厳密にいえば、魔法士だけにはなれない状態だった、ということだ。さっき言ったように、魔法だけはほかの術と違う」

「そうなんすか……」

「俺の知識では陰陽術が一番マキアに合っていた。試しに教えてみたら……怖いくらいに、何でも出来る」


このとき、幸いだったのはロウドが王都に戻っていて留守だったことだ。ナンリは誰にも咎められることなく、マキアに術を教えられた。

ビクトルは首をひねった。


「でも、なんで精霊士じゃなかったんだ?」

「当時俺の知識はクサナギの陰陽寮……この国で言うならヘンツと同等の組織のものでしかなかった。さっき言ったように、精霊は西側にしかいない。つまり東洋人の俺に精霊士の知識は、ない。マキアの状態は分かったが、原因はその時俺にも分からなかったのだ」


ナンリは少し声のトーンを落とす。


「そして、重要だったのは、マキアがもう少しで魔力の均衡を失って、生命の危機にもあうところだった」

「!?」


ぎょっとビクトルはソファーの上で小さく跳ねた。


「無茶な魔力の行使で、体がもう少しで耐えられなくなるところだった。暴走状態に近く、不安定な魔力だった。これは、マキアの魔力の量が並よりも多かったことも原因だ」

「多い……?」

「魔法士は三級までは努力で上がることができる。二級への壁は厚い」

「……まさか、マキアの魔力って」

「おそらく、魔法士であるなら壁を越えられる」


呆気にとられるビクトルの目に、逃げ出したくなる。

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