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8.『憩いの場』

コレットたちが偽装デートをした夜。

昼間とは打って変わって彩光の控えめな店内はムーディーな雰囲気が漂う。


そこへ一人の客が来店した。

ローブを頭から被ったその人物はこの上なく怪しい。

カウンター席に腰かけたローブの人物はメニュー表を手に取ることなく「ブルー・ムーンを」と注文した。


異国風の店員は「かしこまりました」と慇懃に対応し、すぐにカクテル作りに取り掛かった。

提供されたカクテルを客はじっくりと味わう。

グラスが空になれば次を注文する。


閉店まで繰り返された一連の流れにお客はとうとうカウンターテーブルにうつ伏せ寝を始めた。

常連客が退店し、閉店準備を終えても起きる気配が一向にない。


「お客さん、お客さん。皆さん帰られましたよ」

「…そうか。では、案内を頼もうかな」


泥酔し切って赤ら顔を晒していたのはどこへやら。

その端麗な風貌を自覚しているであろうその男は、艶やかな笑みを湛えていた。


「こちらへどうぞ」


踵を返した店員がスタッフルームへと案内していく。

その最奥の扉先には灰髪に同色の瞳をした青年とその人物に付き従う老執事が待ち構えていた。


「久しぶりだね、ギルハルト」

「ええ。お久しぶりですね、クロノス様」


脚を組み待ち構える青年にはいつも纏っている軽いオーラはそこになく、裏の顔が垣間見える。


そしてフードを取り顔貌を晒したその客は、艶やかな銀髪に蒼のメッシュが流れ、瞳はブルーグレー。神の造形と言って差し支えないその容姿は洗練された色香を纏う。


ギルハルト・ソトース・フォン・フィールズ


フィールズ公爵家現当主、その人だった。


「うちの従業員が弟君のお世話になっているよ」

「いえ。こちらこそ弟が面倒をお掛けしているようで」


ギルハルトは目尻を下げて微苦笑した。

それだけであるはずなのに絵画の如き煌びやかさを振りまく。この場に令嬢方がいればきっと卒倒していただろう。


秘密裏に動いていたラインハルトの行動を何故彼が知るのか、それを問う者はこの場にはいない。


「目を光らせておいてね?」

「承知しておりますよ」

「ならいいんだ。もしかすると、もしかするかもしれないからね」


含みを持たせたクロノスの言い草にギルハルトは探るような視線を投げかける。


「…何か?」

「まだ確定じゃないから言わないでおくよ」

「そうですか。では、判断を待ちましょう」

「うん。その間はくれぐれもよろしくね」

「ご期待に応えましょう?」


言葉に茶目っ気を含ませた公爵当主に、クロノスは辛抱ならないといった様子で肩を震わせた。


心底楽しそうな彼の後ろに控える老執事は対照的にやれやれといった雰囲気を醸し出す。案内役を務めた異国風店員の顔にはふたりと異なり、内側を一切洩らさない。


「いや~ごめんね?こういう空気って慣れなくって!」

「いえ。お気になさらず」

「でもやってみたかったんだよねぇ」

「ご感想はいかがです?」


何を考えているかまるで分からない、美しい彫刻のような微笑みを浮かべるギルハルトに対してクロノスは満足げだ。


「自分には合わないね!」

「楽しんで頂けたなら何よりですよ」

「うん。それで、何の用かな?」


一気にクロノスの空気感が変貌を遂げた。

それは楽しそうな瞳とは裏腹の、刺すような鋭さで怪しい色が滲んでいた。


「依頼です。この者たちの始末をお願い致します」


ギルハルトが懐に仕舞っていた封筒を取り出し、テーブルに置く。

クロノスは引き寄せて封を解き、その内容を確認してなるほどとひとつ頷いた。


「こちらで全部請負うよ~。少し時間はかかるけどね」

「承知しております。いつも申し訳ありません」

「いいよいいよ!私達は一蓮托生なんだから」

「そう言って頂けると、荷が降ります」

「その内たっくさん働いてもらうだろうし、ね?」

「お手柔らかに」


困った表情をしたギルハルトは麗しく。ウィンクをするクロノスはあどけなく。


「それじゃあまた連絡するよ」


席を立ったクロノスの斜め後方をセバスが付き従う。

無表情の店員とギルハルトだけが室内に取り残された。


距離が遠ざかる一方で、それらの双眸は似て非なる怜悧さを孕んでいた。

やっぱり裏家業といえばこれだよな…と思いまして!

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