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20.諦めが悪い

ローと酒場で飲み明かしていた。ヤケ酒だ。


「…テキーラを。ロックで」

「おいおい。飲みすぎだろ」


暫くの後、テキーラの注がれたグラスが目の前に置かれ、それを呷った。

喉を焼くアルコールが、今日は物足りない。




ローは友人が体験した悲劇に何も言えないでいた。

ライルの惚気話を初めて聞いた。あんな表情を初めて見た。結婚式には呼んでくれよと茶化してもいた。

いつかは終わりの来る関係だったろう。それ程までに魔導士としての地位は、価値は、責務は。辛く、重い。


普段よりもはるかに口数の少ない今のライルにとって慰めの言葉は意味を為さない。歯痒い思いを抱くも、大したことは言ってやれない。かといって沈黙は痛い。


「時間が解決するまであんま思い詰めんなよ。いつでも話聞いてやるからよ」


励ましを耳に、グラスを傾ける。


これは時間が解決してくれる問題か。答えは否だ。

コレットは生きていた。この王都の、すぐ逢いに行ける距離に居るのだ。


この焦がれる想いを過去にしたくはない。


「…どうしたら、振り向いてもらえるんだろうか」

「は?もう次行ってんのかよ!心配して損したわ」


悩みが口を吐いて出ていたらしい。ローが白けた顔でグラスを煽り、追加注文をしている。


彼にとっては次、なのだろう。コレットは対外的に死んだことになっているのだから。それでも…。


「さっきからウジウジウジウジウジウジと!!!男なら諦めんな!相手が根負けするまで当たって砕けろっての!」


ダンッ!!!と目の前に置かれた一杯のグラス。そこには波々と酒が注がれていて今にも零れそうだった。


これはローなりの叱咤激励だ。


「…毎回長続きしないのに、よく言う」

「励ましてやってんのに!んだよ、その言い草はよお!!!」


くつくつと喉の奥で笑った。久方ぶりに彼女以外の前で笑えた気がする。


「骨は拾ってやっから。今日は好きなだけ飲めよ」


グラスを一気に呷る。それは最近俺が気に入ってよく飲んでいた酒だった。


「そうさせてもらう。店主、この店で一番高い酒を」

「少しは遠慮しろよ!」


入店した時と打って変わって色の異なる双眸には光が宿っていた。






同時刻。

便利屋の一室にて酒を酌み交わす男女が居た。


一人掛けのソファで寛ぎ、グラスを傾けるクロノスの姿は優雅だ。


「どうしてあの子だったのかしら?」


あたしは問いかけた。

長年愛飲しているマッジシャーレ皇国の最高級ワインも、今夜は何だか味気ない


「糸口になるかと思ってねぇ。不服だった?」

「ええ。とってもね」


あの子を貴族に関わらせるべきじゃなかった。表の、陽光の下で平凡に生きていくはずだったのに。


「必要なことだったんだ。解って欲しいな?」


それを便利屋に引き戻したのがこの男だ。その時も同じ台詞を吐いて。

まるで未来を見てきたのだと言わんばかりに意味の分からないこと何度も何度も…!



本当に許せない。


「だったらもう少し真摯になさい」

「闇夜に居てなおその美しさが月を照れさせてしまう。なんて罪深いんだろうね」


でももう、あたしはここでしか生きていけない。

全てを捨てて、逃げたから。


「誤魔化さないで。あたしはあんたとは違うのよ」

「私も、想っているさ。ずっとね」


本当に想っているのなら何を捨ておいても第一に優先するものだ。

それを、この男は絶対にしない。



本当に…。



「大嫌いだわ」

「私は愛しているよ」


どうしてあたしはこんな男に惚れてしまったのよ…。






天井から吊り下がるシャンデリア。上品な調度品。皺ひとつなく整えられた巨大な寝具。

ただの私室とは信じられないほどに広々としたここは、皇都の一等地に居を構えるとある邸の一室だ。


「一時的な負債を抱えるはずだった。どうなっている?」


主であるマッジシャーレ皇国の第二皇子、ジャミラ・シャーレ・イリエスタが問いかけた。

いや、元第二皇子だ。臣籍降下に婚姻を果たした今、彼は公爵家当主となった。


「この数か月間で全ての者が失脚、または死亡しています」

「…洩れたか」


自然光の下では赤みがかった美しい髪と瞳も、間接照明にしか照らされていないと暗く濁って映る。苛立たしげに歪められた眉がより一層それを助長していた。


「そう思われます」

『申し訳ございませんわ。実行役ばかりやられましたの』


女の声が響く。しかし、その姿はここにはない。

半透明で不気味な模様をした球体から発せられているのだ。他国にはない、長距離通信を可能にした唯一の魔石だった。


その大きさも然ることながら魔法系統を導き出したその技術力も素晴らしいと称賛浴びるに相応しい代物だった。


しかし、世に出てはいない。皇族がこの優位性を他国へ洩らさないために意図して秘匿したのだ。

研究者を始末して。


「まあいい。あれはあれで使い道がなくはない」


つい先日主が婚姻した奥方を思い浮かべた。我が儘で浪費家で自信過剰なクセして微笑んでいる以外に何の役にも立たないただの政治道具。


少なくとも不慮の事故に見舞われるまで、主は夫婦として時間を無駄にしなければならない。だが、死んでもらうにしても衣食住を提供した分の働きはしてもらう。


『あれがですの?よくあんなのに見出せますわね』


女が驚愕の声を上げた。解っていて口にするのだから人間とは恐ろしいモノだ。

自国を裏切り、友人を平気で差し出したこれにはワタシも敵うまい。


「本当に。ご苦労なさいますな」

「今に限った話でもないだろう?」

「左様でございますね」


ずっと主はこの国のために捧げてきた。

時間も、物も、金も、人も。何もかもだ。報われて欲しいと思わされる。


『また何かございましたら、連絡を下さいませ』

「そちらもな」

『ええ。では、失礼致しますわ』


球体の模様が変化し、色も透明性を失って黒く変色した。通信が切れたのだ。


「さて。近々あれを連れて視察に行くぞ」

「かしこまりました」

「そこで始末させる」

「かしこまりマシた」


発する音がブレた。

主はピクリと眉を動かし、ソファから腰を浮かした。


「今回はうまくいったんだ。まだ持ってくれよ?」


悪態を吐きながら主はワタシに着せている衣服を剥ぎ取って、触れた。




胸部に嵌まった魔石に。


「かしこまりました」


魔力が注がれる。次第に声も挙動も自然さを取り戻していった。

ありがとうございます。

遅くなりました!18:00に第一章最終話も投稿します。

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