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17.魔導騎士としての終焉

「本日限りで騎士を辞させて頂きます」


コレットの死をラインハルトが突き付けられて、一か月が経過した。

まだ、その事実を受け入れられていない。



あの日。


感情を吐き出し尽くして思ったことは、“コレットが死んだことなど信じるものか”だった。


どうしても信じたくなかったラインハルトは単身で暗部に乗り込み、強制的に情報を吐かせてすぐさま馬に飛び乗り、森へと強行した。


身体強化で感覚を鋭敏にしてコレットの匂いを頼りに場所を探った。

周辺一帯に色濃く漂う血の匂いに、最悪の状況を想像しては振り払ってを繰り返して突き進んでいった。


到達したその場所には、夥しい量の血が染み込んだドス黒い地面と血飛沫が付着した木々、そしてコレットの物と思しき引き千切れた布が散らばっていた。


魔物に襲われて、捕食された。

あの者達の証言を現実にした光景がまさに今、眼前に広がっていた。


この血が別人の物であると、思いたかった。


しかし、人よりも遥かに優れた嗅覚がコレットの血の匂いを覚えている。

間違いなく彼女がここで死んだのだと、証明していた。






コレットと出会う前まで、どうやって生きてきただろうか。何にも身が入らない。


訓練も、仕事も、会話も、食事も、睡眠でさえも。



同僚や上司には多大な心配と迷惑をかけた。

そうして日々を過ごす内に、“本当に護りたいと想った人を死なせた自分が、果たしてこのまま騎士を務めてもいいものか”と自問自答するようになった。


「…本当に辞めるのか」

「はい。御迷惑をお掛けし、申し訳ございません」

「それは良いんだが…」


ぐしゃぐしゃと髪を掻き回した元上司、ゼイン・ドラミシア・ロマコネス第一騎士団長が瞳に後悔をチラつかせる。




辞表を提出した数刻後には、国王参加で緊急軍議が開かれた。



何故辞めるのか。


何故奉魔導式典が目前に迫った今なのか。


王女殿下の護衛はどうするのか。


魔導士としてはどうするのか。


様々な疑問が飛び交ったが、一言。




「私にはもう、剣を握る資格がありません」




これ以降、誰も何も問うてくることはなかった。


皆、知っていたのだ。

恋人を暗部に亡き者とされたことを。


生活すらまともに送れなくなっていたラインハルトに、コレット殺害を命じた張本人は自責に心が浸食されていた。


事実にかすりもしない噂や的を得た推察が飛び交う中で一様に共通していたのは、他国に嫁いでいく王女が優秀な魔導騎士の栄光なる未来を手折ったこと。

背反行為だと、彼女を糾弾する者が後を絶たなかった。


王女の本質は腑抜けた騎士から目を背けたかっただけ。

理想のまま、美しい魔導騎士だけを一生涯思い描いて居たかったのだろう。






コレット亡き後。


奉魔導式典は恙なく執り行われ、王女殿下はマッジシャーレ皇国に嫁いでいった。

民の盛大な祝福を受け、終始嫋やかな笑みを浮かべて。


盛大な魔法の花火に明るく照らされた夜空が素晴らしい未来を期待させる。




そこに関わる者達の中に、ラインハルトの姿は終ぞなかった。






「これからは魔導士として国に尽くして参りますので、その際は宜しくお願い致します」

「…本当に、後悔はないのか?」


直属の上司であった彼にも、上から相当な圧力が掛かっているはずだ。


しかし、邪な気持ちなくただの純然たる心配から何度も何度もラインハルトを騎士団に引き留めようとしてくれた。

同僚たちも熱心に退団を引き留めて今もなお惜しんでくれている。



しかし、もう心は決まっていた。


「大変お世話になりました」


15の時に騎士団へ入団してから、ずっと腰に差していた愛剣を元上司の執務机に置く。


「…まあ、頑張れよ」

「…ありがとうございます」


長年出仕し続けた騎士棟内を名残惜しんでゆっくりと進む。

これからここに来ることは殆どないだろう。


建物のエントランスを抜け、振り返って目に焼き付けるそれは初めて足を踏み入れた時よりも、眩しく見える。



背を向けて歩み出すと口腔には嫌に酸っぱい、鉄の味が広がった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!


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