16.世の常がコレットを闇に葬る
刻一刻と婚姻期限が迫る。
どうしてラインハルト様はわたくしを見て下さらないの?
どうして平民などに構うの?
どうしてわたくしを連れ出しては下さらないの?
どうして?
どうして…?
どうして……………。
「あの平民女は普通ではありません。ラインハルトの傍に居てはいずれ毒となって蝕む事でしょう」
拳を握り何かに耐えるゼガロ魔導士の報告を聞き入れる。
「やはり、そうでしたの…」
「こちらで始末しましょうか?」
「いいえ。貴方には貴方にしかできない役目があるでしょう。そちらに専念なさって」
「承知致しました」
様子に違和感があったが、魔法使いの最高峰たる彼が言うのだから。
これを免罪符として良いでしょう?
「居るのでしょう。姿を現しなさい」
ゼガロ魔導士を労わり、下がらせた後。
誰もいない空間に、現実を拒否する王女の王族らしい傲慢な命令が下された。
ターゲットの女は迷うことなく人目のない裏路地を進んでいく。行きつけの店まではここを通ると近道になるようだ。
いつもの道に、いつもの順路を行く。
誰もいない路地は薄暗く恐怖を煽るものだが、今まで一度たりとて怖い体験をしたことがない。
その過信が慢心を生む。
「!?!?ぅ、んーー………!!!」
抑え込んだ女はまともな抵抗も出来ず、易々と拘束できた。
用意した荷馬車に乗り込み、商人のフリをして特殊な交通証を提出し、城門の検視をスルーして森深くへと潜っていく。
いつの間にか茂った木々に邪魔されて光が届かないほど奥深くまで来たようだ。人は居ないと踏んで適当な地面に女を詰めた麻袋を下ろし、中身を確認する。
「!!!んうぅぅーーーーー…!!!!!」
ターゲットであることを最終確認の後、助けを求め続ける女に抜き身のナイフをまざまざと見せつけてやった。
恐怖に歪んだ顔をする女の首に愉悦で以って躊躇いもなくナイフを突き立てる。
自分に女の血が吹き付け、地面には致死量の血液が染みを作った。
遂行証明として頭部を切断するのも悪くない。
再度ナイフを握り直して、喉元へスッと刃を当てた。生気のない青白い肌に一筋の紅い血が流れる。
「おい。撤退だ」
しかし、仲間の下した指示に振り向くと運悪く魔物が周囲を取り囲み今にも襲い掛かかろうとしていた。
「チッ」
邪魔が入ったことに苛立ちを覚えながら女の死体を放置してその場を後にした。
首の代替品として女が身に付けていたネックレスを咄嗟に引き千切って。
いち早く任務遂行を報告せねば。我らが仕える主に最高の結果を。
街道まで抜けた彼らは一度も振り返ることなく、王城への帰路を急いだ。
帰還した彼らは死亡確認と共にネックレスを証拠品として提出した。
その結果に王女は酷くご満悦で、すぐさまラインハルトを急用と称して自室に呼びつけた。
「御用でしょうか。王女殿下」
「ラインハルト様。これ、何か分かりまして?」
陶磁の如き白さを誇る王女の右手に掛けられたネックレスはラインハルトにとって見覚えのある物だ。
「…これ、は………?」
「貴方様の将来を憂いて私に託して下さいましたの。その方には一生逢えないと思いますわ」
美しいはずの王女の顔は同一人物かと目を疑うほどに醜く歪んでいる。
しかし、ラインハルトには見えていないらしい。彼の視界をネックレスだけが攫っていく。
覚束ない足取りで王女へと距離を縮め、ネックレスに手を差し伸べる。そこでやっと可笑しい事に気が付いた王女が不注意でネックレスを滑らせて、自身も半歩後ろへ後退った。
空中でネックレスを掴み、存在を握りしめて確かめる。何の言葉も発さず耳を貸す事もせず退出していくラインハルトの背中を、王女は意味も分からずただ呆然と眺めて続けていたのだった。
どうやって自室まで戻って来たのかも定かではない。
掌に食い込んだネックレスの質感だけが鮮明に主張する。
力を緩めて見つめたネックレスは確かにコレットに贈った物だ。
常人から逸脱した嗅覚と視覚が微かな血の存在を証明する。
何を間違ってしまったのだろう。
予測できることだったはずだ。王女の凶行を。
少し考えれば確実に護れた。
私は、一体……………。
後悔が、胸の奥を苛んだ。
「……ぅ…あ、ぁぁ…………」
胸中に渦巻く激情に、声を押し殺して泣き崩れた。
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