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15.理想の日々を過ごして

またまたとある貴族家が没落したと、今日の新聞に掲載されていた。先日私が窃盗に入った邸が小さく掲載されている。


貴族関連の記事。最近は特に続いている。

しかも、今回は捕縛から処分までが随分とスピーディーだ。


司法にも口を挟めるような権力者が一枚嚙んでいたのだろう。でないと、この速さはありえない。

便利屋は国家中枢の権力者にも利用されているのだなとしみじみと実感した。



ラインハルト様が視察から帰還する予定だが、今日は生憎と曇天。

今にも雨が降りそうで、念の為傘を持って家を出た。


花屋に出勤して開店準備を行い、いつもの調子で仕事を熟していると徐々に大通り脇に人が集まり始めた。視察の御一行が見えてきたのだろう。


暫くの後、門の方から歓声が上がった。


大通りに人々が混雑していて花が傷つくかもしれなく、店主夫婦も王族や騎士の方々を出迎えたいとのことで花屋は一時休憩となった。

期間限定とはいえ一応ラインハルト様こと英雄様の恋人なので人波を掻き分けて見つけてもらえそうな場所へと移動する。大通りは混雑しすぎて最前列でも見つけられないと判断してカフェテリア二階のベランダから手を振ることにしたのだ。


だんだんと歓声が近づいて来る。やっと見え始めた先頭にはやはりラインハルト様がいた。

彼は式典用の騎士服に身を包み、一頭の凛々しい軍馬に乗馬している。


声援に応える彼の視線は大通り沿いの人々に注がれていて、私に気づくことなく通り過ぎていった。






御一行の姿が完全に見えなくなって人々は普段の生活に戻っていった。


人通りが落ち着いてきた頃、ようやく花屋も仕事を再開する。

熱気が冷めやらぬ王都民が鮮やかな花に興味を示して購入していく。御一行様様だ。


「これは何という?」

「いらっしゃいませ!それはですね、…」


嬉しい悲鳴に忙しく、対応を終えれば次のお客さんに声を掛けられる。今日だけでも何度も繰り返した説明をするために指差された先を確認してから顔を見上げた。


「…ラインハルト様、何でここに居るの…?」


つい数時間前まで歓声を受けていた側の彼が今、目の前で微笑んでいる。

マントで顔貌を覆っているとはいえ、騒ぎになるのは時間の問題だろう。早くここから立ち去ってもらうべきだ。


「コレットに会いたかった」


当の本人にはこの懸念が抜け落ちているらしい。正面からギュッと彼に抱き締められて一気に注目の的となった。

ラインハルト様は一般人と比較しても高身長だ。当然、覗き込むようにしてじっくりと観察すれば誰かはすぐに知れる。


そして、さっきまで自分達が声を上げていた英雄ラインハルト・・ガーディン・フォン・フィールズであると記憶と合致するだろう。案の定、沈静しかかっていた熱は再熱していく。


コレットに拒む理由は、ない。


「…私も」


彼の背中に腕を回すだけで冷やかしの言葉が次々に投げかけられる。批判的な言葉が表立って発現されてないのが救いだ。


抱擁を解いて羞恥からくる頬や耳の紅潮を隠すように俯く演技をする。それだけで周囲の人々は更なる盛り上がりを見せた。


「これを。土産に」


彼のポケットから取り出されたのは細長い長方形の小箱だった。促されるままに手に取って開封した中身は、緑色の宝石が装飾されたネックレス。


公爵令息が贈るにしては少し地味で平民が普段使いするのに適したそれはきっとコレットの瞳の色を参考に選んだに違いない。


「ありがとう。すっごく嬉しい…!」


思わずといった風にラインハルト様に抱き着き、胸に顔を埋める。


「喜んでもらえて何よりだ。…奉魔導祭期間中に時間を取るから一緒に回らないか?」

「ええ。ぜひ」



行動の熱烈さとは裏腹に私の心は酷く冷えていた。




自国の英雄の熱愛騒ぎは瞬く間に王都中に駆け巡った。


何度も逢瀬を重ねていることも、想いを通わせている様子も。


どの集積した情報にも王女の入り込めるような隙間がなかった。

それが原因で王女の我慢の限界がもうすぐそこにまで迫っていた。


定期的で芳しくないゼガロの報告もまた、神経を逆撫でしていく。


それに思い至らないラインハルトは事あるごとにコレットの元へ通った。

コレットはその都度、媚びることなく適切で心地よいと感じる一定の距離感を保ち続けた。


当たり前の感情として、ラインハルトの瞳の奥には愛慕の熱が高まり続けていた。

理想の女性が自身と想いを通わせ、常に理想に忠実な言動を起こす。


期限の定められた関係の、終了を見据えたただの依頼で。

その一線を忘却の彼方に葬り去ったラインハルトの言動を、第三者はどう受け取るか。




均衡の境に踏み止まる理性を泥中に引きずり込むのは、造作もない。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!

毎日投稿、ギリ一日が終わってさえいなければセーフ!

…遅くなりましたすみません<(_ _)>

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