14.ネーロの稼業
ゼガロとの不毛な根競べがまだまだ継続中の本日。
これから一週間、ラインハルトは王族の視察に同行する。
魔物も出没するルートを通行するために彼の同行が決定したとか。
魔物はその名の通り、魔力を保有する獣。
その体内に宿る魔力で魔法を放つタイプや身体強化をするタイプなど様々だが、共通しているのは普通の獣よりも断然凶悪であるということだ。
魔導騎士の彼が後れを取るとは到底思えないが。
(人の心配してる場合じゃないんだけどね~)
ラインハルトという依頼主がいない今、のんびりコレットとして過ごすことを万年人員不足の便利屋が許してくれるはずもなく、依頼を押し付けられた。
またまたお師匠様に。
その依頼概要はとある貴族当主の不正証拠の入手である。
邸に侵入して違法な裏帳簿や契約書類等を捜索し、発見次第それらを持って速やかに離脱する。
今の恋人ごっこよりも格段に便利屋らしい仕事である。
むしろ、ラインハルトからの依頼が異例中の異例で、本来ならば絶対に受けていない。
きっと訳アリなのだろう。
考えても至らない真実を諦め、コレットの演技を解くことなく潜入捜査の支度を始めた。
夜の帳が降りた今宵。
闇に紛れてターゲットとなる邸へと易々と侵入を果たす。
魔法はお師匠様から教わった。
そのため最も得意とする魔法はお師匠様と同じ闇魔法であった。次点で時空魔法。
だからこそ、今回の依頼が私に回って来たのだ。
お師匠様は出来ないことを他人に押し付けることは絶対にしない人だから。
これはお師匠様なりの信頼の証。
封筒に同封されていた邸の見取り図を参考に見当付けた怪しいところを探していく。
まず一番に、宝物庫。
ここは蒐集家な当主のコレクションのすべてが保存されている場所。
だが、見張りを付けて数刻おきに兵を巡回させているのは別の何かがここにあると言っているようなもの。
時空魔法で空間を捻じ曲げて宝物庫へ踏み込む。
蒐集品がどれだけ大事にされているか、埃のなさからわかる。一見しておかしな箇所は見当たらない。
こういう時、闇魔法は本当に役立つ。
自身の支配下とする闇を広げていく。
どこに空間があって、どこに物が置かれていて、どこに人が存在しているのか。手を取るように教えてくれる。
(………みつけた)
華美な額縁に飾られた一枚の絵画。子犬と子供が草原を駆ける幸せな風景。
その壁に隠された書類を時空魔法で空間を歪めて手に取る。
領民からの搾取を語る裏帳簿と無辜の民を地獄に堕とした契約書類が埋め込まれていたのだ。内容を確認して不愉快な気分だ。
書類の束を異空間に収納して誰にも気配すら悟らせる事なく邸を後にした。
帰宅したベッド上には横になって寝息を立てる、分身。
ネズミの視覚を介して監視するだけでは絶対に見抜けない。
寝息も、熱も、寝返りも、寝言も。
いつものコレットが居るだけだ。
寝言は無意識のうちに爆弾を吐露する。市民でも貴族でも良くある話だ。
普段から用心しないに越したことはない。それが今回に活きたに過ぎない。
コレットは今どうしているだろうか。
「…ギャ……ギャギャ…」
魔物の息の根を確実に止めてから突き立てた剣の血を払い、鞘に仕舞う。
魔導士だからと見張り番を免除されそうになったが、自ら立候補した。コレットを想って眠れそうにないことは分かり切っていたからだ。
「お見事です。ラインハルト様」
「そんなことはない。数が少なかっただけだ」
「ご謙遜を」
私と共に見張りをする彼はただの使用人で戦闘能力は期待できない。ただ私が居眠りをしないために会話相手として起きているのだ。彼には悪いことをしたと思う
焚火の傍に腰を落ち着かせて何となしに星が散りばめられた空を眺める。
夜が明けるにはまだまだ時間が過ぎ去らねばならない。
今だけは、煌々と輝く星が恨めしい。
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