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第二話

この作品はフィクションです。実際の人物、団体等とは一切関係ありません。



横を向くと、声を発したのはやはり彼女だった。

「教科書見せて、下僕」

さっきはさんを付けたりあなたって呼んでくれたりしたのに・・・

「忘れたんですか?女王様」

「その呼び方はやめて」

「じゃあ下僕もやめて下さい」

「おい下僕」

「はい女王様」

「教科書見せろ」

「もちろんでございます」

俺は教科書を2つの机の真ん中に置いた。


授業が始まった。

「じゃあ教科書21ページの問い1をやってみようか」

先生は問題番号を言うと、教室を巡回し始めた。

「ん?三橋、教科書忘れたのか」

梅宮さんが反応する。

「いや、わた・・・」

俺は素早く梅宮さんの声にかぶせていった。

「そうなんですよ。忘れちゃって。すみません。」

「次からは気を付けろよ」

先生が去ると、梅宮さんは小さな声で言った。

「なんで・・・」

「梅宮さんの成績を下げないため」

「いや、だからなんで?」

先生が言った。「それじゃ、答え合わせするぞー。じゃあ梅宮。答えわかるか?」

「ほら、呼ばれてるぞ」

「え、ちょ・・・」

梅宮さんは渋々話を止め、答えを言った。


さて、なぜ俺があのような行動をとったのかについてだが、俺にとっては至極当然で当たり前の行動なのである。だって、女子に親切にするのは当然だろ?まあ有難迷惑かもしれないが・・・だからといってあの場面で「俺が忘れました」と言わないのはありえないと思うんだ。


授業が終わると、梅宮さんが話しかけてきた。

「ねえ、さっきの、どうして?」

「そういう気分だったから」

「でも・・・」

「いいんだよ。ほら、早く次の授業の準備でもしてろ。あと、あまり俺と話さない方がいいと思うぞ。」

「なんで?」

「俺はクラスの変わり者だからだ。ほら、行った行った。次の美術に間に合わないぞ。」

実際、俺はクラスでは変人扱いである。

理由は、クラスのチャットに入っていないからとか、誰ともしゃべらないからとか、色々あると思うが、まあ実際自分でも変わっていることは自覚しているため、特に気にしていない。まあ、班で話し合いを行う時にみんなが気まずい雰囲気になるのが少し嫌かな?


昼休みになった。俺が弁当を取り出し、食べようとしたその時、

「待ってよ」

ん?

「まだ食べないで」

前に梅宮が立っていた。手に弁当を持って。

「まさか一緒に食べようとか言うんじゃないだろうな」

「駄目なの?」

「数時間前に言ったことを忘れたのか?」

「数時間も経てば忘れるわよ」

確かにそうかも。

「異論がないなら、ここで食べさせてもらうわよ」

彼女は弁当を俺の机に置くと、自分の椅子を持ってきて座った。

「机は?」

俺が聞く。

「持ってくるの大変だからやだ」

「そこの机使えば?」

「人の机は使わない主義なの」

「どんな主義だよ」

思わずツッコミを入れる。

「大体、なんでおれなんかと一緒に昼ご飯を食べたいんですか」

俺がそう言うと、彼女は突然大きな声を出した。

「そんな事言わない!自分を卑下するのは、最低の行為よ!」

彼女は早口でまくし立ててくる。

「さっきの理科もなんなの!自分が損しても女子を立てる俺カッコいいとか思ってるんでしょ!」

さらに続けてきた。

「そんな事されても、こっちは戸惑うだけなの!わかる!?」

そこまで言い終わると、彼女はまだ何か言いたげだったが、箸を取って弁当を食べ始めた。

俺はクラス中の視線が自分たちに注がれるのを感じつつ、急いでご飯をかきこんだ。


放課後になった。今日は部活がある。ちなみにサッカー部である。何故かというと、この学校は(人工ではあるが)芝のグラウンドがあるからだ。それだけの理由で入った。でも、大会の時に他校のサッカー部に自慢できるというのは、悪くないと思う。


「一緒に帰ろう」

背後から声をかけられた。梅宮さんだ。

「いや、俺部活なんすけど」

練習着を引っ張って強調しつつそう言った。

「じゃあ、サボれば?」

俺は、多少の苛立ちを感じていた。何なんだこの女は。いきなり現れて荷物を持てだの、なんだのと。そして俺はついに言ってしまった。

「もう、うるせえな。黙れよ。大体急に俺にかまってきて、何なんだよ!」

俺がそこまで言うと、彼女の顔には悲しみの表情が見てとれた。

俺は足早にその場を去った。


ヤバい、言い過ぎた。確かに多少ウザイとは感じていたが、別にそこまでじゃないし、コミュニケーションに関する考え方の違いで解決するくらいのウザさだったのに。

授業で教科書を忘れたことについて先生からねちねちと嫌みを言われたことで少し気が立っていた。

明日謝罪しないとな。


サッカーの練習が終わり、帰り道。自販機でコーラを買った。

同じ部活の智輝に梅宮さんを知っているか聞いてみた。

俺は「誰それ」くらいの反応で終わると思っていたが、結果は違った。

「知ってるよ。確か全国英語スピーチコンテストみたいなので一位を取ってたかな。他にも色々な賞を取ってる、凄い人だよ。でも、だからちょっと近より難いっていうか、ね。それで、梅宮さんがどうかしたの?」

「いや、ちょっと気になってな。ありがとう。」

そうか、そんな事情があったのか。ひょっとしたら、俺は学校で初めて話した人なのかもしれない。最初も一言も、勇気を振り絞って言ったのかもしれない。そう考えると、謝罪の念でいっぱいになった。



読んで下さりありがとうございました。

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