72:エピローグ
「サラ様。イレブンジスティーの時間になってしまいました。そろそろ起きませんか」
ジョディの声に、私はガバッと起き上がる。
イレブンジスティーって……もう午前11時近いということだ。
しまった……!
昨晩。
三人の騎士団長と話した後、ジョディがそろそろ休みますかと声をかけてくれた。
ノア王太子はまだまだ沢山の人に囲まれており、まだまだ話は終わりそうになかった。だから先に部屋に戻ることを伝え、勿論、ノア王太子からは快諾され、自室へと戻ったのだが。
自室へ戻り、すぐにドレスを脱ぎ、入浴を行った後。
ノア王太子はあきらかに忙しそうと分かっていた。
だから突然声がかかることはない。
そう、分かってはいたが……。
あんなにもラブラブしていたのだ。
ロセリアンの森から宮殿へ戻る馬車の中で。
もしや清い関係が今宵終わるかもしれない。
そんな淡い期待が胸に沸いてしまい……。
夜更かしをすることになった。
何度も寝落ちしながらも。
ジョディはとっくに私が寝ると思い、ナイトティーを出してくれた後も。
密やかに起きていた。
起きていた……つもりだったがいつの間にか寝てしまった。
しかも。
何度かジョディに起こされた気がするのだが。
うわ言のように「もう少しだけ寝かせて、お願い」と口にした記憶がぼんやりある。
その結果が……今だ。
ノア王太子は……私と朝食をとることを楽しみにしてくれていたはずだ。それなのに私はまさかの大寝坊で、その朝食をすっぽかしたことになる。顔面蒼白の私に、ジョディはアーリーモーニングティー代わりでイレブンジスティーを出してくれる。
「セイロンティーですよ、サラ様。高地産なのでストレートティーでどうぞ」
「ありがとう、ジョディ。……ノア王太子様はとっくに朝食を終え、執務に向かったわよね」
しょんぼりしながら紅茶を受け取ると。
ジョディはニッコリ笑う。
「ノア王太子様も先程起きたところですよ。サラ様の起きる時間にあわせるとおっしゃられて。ブランチを用意するよう言われているので、ご案内しますよ。でもその前に。まずはその紅茶を飲み、頭をすっきりさせていただき、ドレスに着替えましょう」
「そ、そうなの!? ノア王太子様は、今日は執務がお休みなのかしら?」
それに対するジョディの答えは「さあ、どうでしょう」と曖昧だ。
執務が休みなのかどうかは分からないが。
ノア王太子がブランチをするつもりであるならば。
身支度を整えなければ!
早々に紅茶を飲み、ベッドから起き上がる。
私のソワソワした様子にジョディがクスクス笑っていたが。
早くノア王太子に会いたいのだ。
気にせず、準備にいそしむ。
ライトブルーのドレスには、白い薔薇がプリントされていた。
その白い薔薇の周囲には、シェルビーズが散りばめられている。少し離れて見ると、シェルビーズは花びらに見え、薔薇の周りを舞っているように見えた。ウエストには白いリボンベルト。
髪はローポニーテールを編み込みでアレンジし、コバルトブルーの宝石が使われた髪飾りでまとめる。イヤリングとネックレスもコバルトブルーの宝石が使われたものを身につけた。
クローギンアンドレ――精霊達の鈴がついたバングルもちゃんと手首につけている。
ぶどう祭りの最終日。
ホワイトセレネ獲得計画を必ず成功させると誓った私の耳に、クローギンアンドレの「キラリーン、キラリーン」という音が聞こえた。あの時のことをノア王太子に話したところ……。
「サラがわたしに『私には勿体ない方。例え義務で私と婚儀を挙げてくださったのだとしても。私はノア王太子様が大好きです。だからなんとしても、あなたのことを助けます』と言うのが聞こえました。確かに義務として婚儀を挙げたのは事実ですが、わたしはサラのことを心から愛してしまっていた。自分には勿体ないなんて言ってほしくなかったし、何より愛していると伝えたいと思いました。何か合図を送れないかと懸命に力を込めたら……クローギンアンドレの鈴の音を、鳴らすことができたのだと思います」
そう教えてくれた。
さらに。
聖獣の姿のノア王太子が、深層に沈んだ私の意識を迎えに来てくれた時も。クローギンアンドレの音が聞こえた。
クローギンアンドレは奇跡を起こすかもしれないと聞いていたが。本当に奇跡が起きたので、ノア王太子も私もこれを大切につけている。
ということで準備が整ったので、朝食をとる部屋に向かった。
扉を開けた私は「!?」と驚き、固まる。
どうやら部屋を間違えたようだ。
その部屋は薔薇の花でいっぱいだったのだから。
テーブル、キャビネット、ワゴン、出窓……。
何か、レセプションでも行うのだろうか。
「ジョディ、ブランチの」
声を出しながら振り返った私は、誰かにぶつかってしまう。
その瞬間。
フレッシュでみずみずしい香りを感じる。
「ノア王太子様! おはようございます! そしてすみません、ぶつかってしまいました」
「おはよう、サラ。朝から君を抱きしめることができて、わたしは嬉しいけれど」
そう。
振り返ってぶつかった瞬間、私の体はノア王太子にしっかり抱きしめられていた。当然、ドキドキしてしまうが。なんとかその気持ちを静め、目の前の部屋の状態を指摘する。
「いつもの朝食をとる部屋は、どうやらレセプションか何かで使われるようです。もう部屋中が薔薇の花で溢れています」
ノア王太子は私を抱きしめたまま、部屋の中を見て、少し頬を赤くする。
「……わたしは花瓶に31本の赤い薔薇をお願いしたのだけど……。まさかこんな風に赤い薔薇で部屋を満たすとは……。驚いてしまうね」
「そうなのですか!? もしかすると素敵な薔薇が沢山あったのかもしれませんね。ノア王太子様を喜ばせるために、思わずありったけの薔薇を飾ってしまったのでしょうか?」
私の推理を聞いたノア王太子は、クスクスと楽しそうに笑いだした。
この推理はハズレということか。
「ねえ、サラ。昨日はとても忙しい思いをさせてしまい、心からすまなかったと思っています。でもおかげでわたしは今日から一カ月。自由の身となりました」
「それはどういうことですか?」
ノア王太子は私の頭を優しく撫でながら、こんなことを口にする。
「婚儀を挙げた夜以降。サラには寂しい思いをさせてしまったと思います。いろいろ不安にもなったでしょう。でもわたしがどれだけサラを愛しているか。皆にも示したいと思い、国王陛下に頼みこんだのです。一カ月の休暇を。つまりサラと二人で一カ月。自由に過ごす時間を欲しいと。そのため、昨日は直近でどうしてもすべき行事を詰め込んで終えたというわけです」
な、なるほど!
そうだったのか。
忙しいと思ったが、それを乗り越えて良かった。
あ、でも……。
「ノア王太子様、瘴気は来週にもまた襲来しますが……」
「問題ないですよ。イエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンがいますから。この三体はホワイトドラゴンの復活で、かつての強さを取り戻しています。一体でも前に出れば、どんな瘴気でも殲滅できるでしょう。サラが瘴気の襲来がいつなのか教えてくれれば。後はわたしが彼らに出撃を命じます。勿論、必要に応じ、わたしも出ますが」
そうなのか。
本来の力を取り戻した三体の聖獣は、そんなにも強いのね。
「分かりました。来週襲来する瘴気について分かることは、すべて話すようにしますね」
「ありがとう、サラ。でも今はまず、この赤い薔薇についてサラの返事を聞かせて欲しいな」
うん?
返事?
私は目の前のズラリと並ぶ赤い薔薇に目をやる。
とても美しいし、いい香りもしているけど……。
「えーと、この赤い薔薇は……とても綺麗だと思います。香りもとても素敵で……あとは、えーと。レセプションが終わったら、薔薇風呂として有効活用できますよね。後はドライフラワーにして飾ってもいいですし、後は……」
私が考え込むと、ノア王太子は私の耳元に自身の顔を寄せる。
「多分、一年分以上はあると思いますが。サラの夜はすべて、わたしに委ねるのでいいですか? 正式な番としてサラを迎えるためにも、二人の心と体は一つになる必要がありますからね」
そこでようやく気が付く。
この部屋を満たす赤い薔薇の意味を。
その瞬間。
全身が熱く真っ赤になる。
恥ずかしさと嬉しさで。
「そ、それは……」
「もうわたしは我慢できないです。サラ、あなたは?」
そんなことを耳元で甘く囁かれたら……。
「私も」と答えようとしたのだが。
声より先に、お腹の虫が鳴いている。
「ぐうぅぅぅぅ~~~」
恥ずかしい……!
「そうですね。まずはブランチにしないと」
ノア王太子がクスクスと笑うと。
「ノア王太子様、サラ様。テラスでブランチをご用意しています。ご指定いただいた、フワフワのパンケーキ、キャラメルソース、甘い甘い生クリーム、各種ジャムに蜂蜜。たっぷりのフルーツに新鮮なサラダもご用意しています」
ジョディが夢のような情報を与えてくれる。
「ありがとう、ジョディ。ではサラ、テラスに行きましょうか」
ノア王太子が天使のようにキラキラした笑顔を私に向ける。
「はい!」
笑顔で私が返事をすると。
ノア王太子は私をエスコートして歩き出したが。
先導するジョディがいるのに。
「ブランチの後は、サラをデザートで食べますからね」
爽やかで清々しい笑顔で、そんな甘々な言葉をノア王太子は囁く。
とんでもない溺愛タイプであるノア王太子に、私はどんな風に食べられてしまうのか。想像しただけで眩暈がしそうになるが。今度こそ脱・清い関係に、胸のときめきは高まるばかりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
主人公のサラはよく頑張りました~☆
ついてきてくださった読者様には感謝です!
よかったら☆の評価や感想いただけると幸いです。
そして。このまま余韻に浸っていただくのも良いのですが。
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