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66:精霊王

私の隣に腰を下ろした精霊王は、今日もとても優美だ。


シルバーホワイトのマントを羽織っているのだが。それは銀糸で作られており、シャンデリアの明かりを受け、キラキラと輝いている。マントの下の衣装は純白。おかげで精霊王の七色の瞳は服の反射を受け、煌めくダイヤモンドのように光を放っていた。


「サラ様。穢れが浄化され、無事、目覚められたこと。心から嬉しく思います。そして……ノア王太子様とあなたの純愛を目の当たりにしたわたくしは。あなたに伝えた言葉を訂正いたします。サラ様にふさわしいのは間違いなく、ノア王太子様でした。私はお二人の幸せを心から願います」


開口一番そう言われた私は。

内心、胸をなでおろしていた。

ノア王太子は聖獣であるホワイトドラゴンと一心同体。その存在は例え精霊王であってもかなわないもの。よって精霊王から求婚されたとはいえ、それは既に白紙に戻されている。ノア王太子からも「精霊王様も求婚の件はわたしに謝罪し、わたしとサラの幸せを願ってくれました」と聞いていた。


それでも。


やはり本人の口から言われたことで、ようやく安心できたのは事実だ。何せ“君待ち”をプレイしていた時から、精霊王は神的な存在だった。その言葉は絶対で、畏怖の対象でもあり。よって精霊王の今の言葉で、とても安堵できたのだ。


「ノア王太子様の穢れをどのように浄化したか、それをサラ様は知りたいのではないですか?」


「そうですね。先程、ルーナ様からノア王太子様のホワイトセレネを使った浄化は、精霊王様がなさったと聞いていたので。よろしかったら教えていただけないでしょうか」


精霊王は微笑むと、「もちろんですよ」と優しく応じる。


「精霊の持つ、どのような力を使ったのか、その詳細をお伝えすることはできません。そこはご理解ください」


「分かりました。お願いします」と私が頷くと、精霊王は語り出す。


「まず精霊の力を使い、ホワイトセレネの姿で眠りについていたホワイトドラゴンの魂を目覚めさせます。そして穢れがある場所に、ホワイトセレネをおくのです。そこで粛清の力を使い、穢れを抑制しつつ、目覚め始めたホワイトドラゴンの魂に、ノア王太子様の魂との融合を促す歌を聞かせます。次第にホワイトドラゴンの魂が本格的に目覚め、同時にノア王太子様の穢れは浄化されていきました。穢れが消えるのと同時に、ホワイトセレネは消えます。正確には、ホワイトセレネは消えたのではなく、ノア王太子様の魂と融合した状態。そこからはノア王太子様は眠りにつき、夢の中でホワイトドラゴンの記憶を共有されたのです」


「なるほど。そうなると、ホワイトセレネは本当に、精霊と人間、その二つの種族が協力しないと、意味がなかったのですね」


頷いた精霊王は静かに話を始める。


「そうですね。ホワイトセレネが手に入っても、それをどうやって使い、浄化させるのか。その知識は人間になかったはずです。なぜならホワイトセレネは、そもそも二つの種族が手を取り合い、助け合うことでしか、手に入れることができないものだったのですから。協力しあっていれば、自ずとホワイトセレネを使った浄化はできる――というわけです。協力せずして事を進めれば、立ちいかなくなるというわけで。ただ、協力なくして浄化もない、が大原則。ゆえにホワイトセレネを手に入れたのに、浄化できない、という事態にはならないはずなのです」


そこで精霊王は珍しくため息を漏らす。

不思議な面持ちでその顔を見ると、私の視線に気づいた精霊王が話を再開した。


「でもこれは悲しいことですが、人間とそれ以外の種族は、折り合いが悪い部分がありました。ゆえにこの大原則となる前提が伝承されることなく広まってしまい……。元々精霊はダークフォレストに踏み入ることはできないので、ホワイトセレネへの関心は低いものでした。王族であり、現精霊王であるわたくしは、ホワイトセレネがホワイトドラゴンの魂であるとかろうじて知っていましたが、わたくし以外の精霊で知る者はなく。賢者アークエットは、今回古書を調べることで知識を手に入れましたが、それはイレギュラーです。一方の人間は一人歩きしたホワイトセレネの情報を鵜呑みにし、止める声を聞かず、ダークフォレストへ足を踏み入れてしまい……。戻らぬ人となってしまいました」


精霊王は人間に対して一線を引いている。

そう思っていたが……。

今の話ぶりだと、人間がダークフォレストへ足を踏み入れ、戻らないことに心を痛めていたように思える。本当は精霊王は……人間と距離を置きたいと必ずしも思っているわけではないのかもしれない。


「しかしサラ様がホワイトセレネのことを知っていて、ましてやそれを手に入れるために動いていたとは……驚きました。ホワイトセレネのことは、精霊で知るのはわたくしぐらい。人間で知る者などとうの昔に失われたと思っていました」


「それは……精霊王様の目を盗むように動いてしまい、申し訳ありませんでした」


そこはもう平謝りだ。

頭を今、この姿勢の可能な限りで下げる。


「サラ様、あなたが頭を下げる必要はありません」


精霊王の手が私の肩に触れた。

驚いて顔を上げると。


「ホワイトセレネのことを、わたくしが正しい情報と共にサラ様に話し、ダークフォレストへ向かうことを提案すればよかったのです。そもそもとして、聖獣が、ホワイトドラゴンが復活すれば、多くの種族が救われるのですから。でもわたくしには勇気が足りませんでした。帰石きせきを失うことへの恐怖が、克服できませんでした」


思いがけない精霊王からの告白に驚き、固まってしまう。

精霊王が恐れるものがあったなんて……。


「この世界は人間がどんどん力をつけている。いずれに、わたくし達精霊は、この世界を去る日がくると、どこかで思っています。この世界を去る――それはつまり、元いた世界へ帰るということ。そのためには帰石きせきがどうしても必要でした。その帰石きせきを失う勇気がなかった。わたくし一人が帰石きせきを失うだけで、聖獣ホワイトドラゴンがよみがえり、世界から瘴気が殲滅され、穢れが浄化されるというのに。自分可愛さに見て見ぬふりをしてきたのです。人間の国へ精霊騎士を配備しているのは、わたくしの罪の意識を贖うため。わたくしは冷たい心の持ち主なのです」


それは違う。そんな風に精霊王に思って欲しくない!


「そんなことは断じてありませんよ、精霊王様。帰石きせきを手放すことがどれだけの勇気を必要とすることか。何も知らなければ、分からなければ、手放すこともできるでしょう。でも精霊王様はいつか来る未来が見えているのだと思います。それを知ってなお、手放すというのは……そう簡単にできることではないのです。それに結果的に。ノア王太子様も助かり、私も元気になり、聖獣ホワイトドラゴンが復活しました。前向きに考えませんか」


元いた世界でも、人間以外の種族はどんどん滅んでいる。

絶滅した種族。

虫、鳥、動物……自然淘汰されたものもいれば、人間の手で滅ぼされた種だって沢山いる。そんな滅びの未来が見えてなお、帰石きせきを失うなんて……いくら王であるからといって、そう簡単にできることではないと思う。


「ありがとうございます。サラ様のその言葉で、わたくしの心はとても救われます。……わたくしはこれまで賢者アークエットのことを、その魔法の力には一定の評価をしていました。それでも人間と精霊のハーフであるため、一線を引いていました。このロセリアンの森に入るにも、わたくしの許可をとらせていたのです。でもそのように彼を特殊扱いするのはやめます。彼こそが真の英雄。この精霊王ランドールが成し得なかったことを、成し遂げたのですから」


「それについては私も同意です。賢者アークエットのことは、精霊の一員であるとぜひ認めてあげてください。きっと彼も喜ぶと思います」


私の言葉を聞いた精霊王は、これまでで一番素敵な笑顔になる。その上で静かに返事をする。


「承知いたしました」


それから周囲を見渡し、少し離れた場所でノア王太子と話す彼の姿に目を留める。


「サラ様はまだ、真の英雄と話していませんよね?」

「そうですね」

「ではわたくしが彼を呼んできましょう」

「そんな、精霊王様……!」


驚いて立ち上がろうとする私を制すると。

精霊王は立ち上がる。


「わたくしがそうしたいのです。サラ様はここでお待ちください」


「……!」


精霊王は優美な動作で、真の英雄の方へと歩いて行った。

本日公開分を最後までお読みいただき

ありがとうございます!

遅い時間に訪問いただいた読者様。

ゆっくりお休みくださいませ。


次回は明日、以下を公開です。


10時台「真の英雄」

11時台「覚悟してください」

20時台「タイトルサプライズ」


では皆様にまた明日会えることを心から願っています!

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