62:賢者アークエットの想い
二つの種族が手を取り合う。そしてそれを成し遂げたのが私……?
まさか。
ヒロインでもない、この世界で異分子な私がそんなこと。
「サラ、まさか自分がという顔をしていますが、成し遂げたからこそ、今があるのですよ」
「そ、そう言われますと……」
「賢者アークエットは、サラが何かしようとしていると、いち早く気づいたようです。十中八九、ホワイトセレネを手に入れようとしていると気づいたのでしょうね。サラに自分の命を分け与えたのですから」
……!
まさか、賢者アークエットにバレていたの!?
それは不覚。いや、でも……。
この手のことに関して、私もルドルフも素人。
隠し事をするのも……きっと下手だったのだ。
……それにしても自分の命を分け与える!?
「ノア王太子様、自分の命を分け与えるとはどのようなことなのでしょうか? まさか賢者アークエットは、異世界から私を召喚する際、自身の寿命を使ったように、私に」
「違いますよ、サラ。賢者アークエットは……というか精霊は、誕生時に右手を握りしめて産まれてくると言われています。その手に握られているものは、精霊しか知りえないもので、帰石と呼ばれるもの。この世界に産まれてきた精霊は、永遠を生きます。でも元いた世界へ帰りたくなったり、帰る必要性が出てくるかもしれません。その時に、その帰石を使うのです。通常は。帰石を使えば元いた世界へ帰ることができます。つまり、この世界で永遠に生きるだけではなく、永遠と誕生を繰り返すことができるのです。通常は誰かに譲与なんてしません。でも賢者アークエットは、それをサラに与えたのです」
……!
これにはもう驚くしかない。
そんな大切な物を、私に与えていいはずがなかった。
これでは賢者アークエットは、もうこの世界で生きることしかできないではないか。元いたという世界に帰ることができないのではないか。
「この件に関して賢者アークエットは、後悔はないそうです。ある意味サラは、元いた世界から強制的にこの世界に召喚されました。もう元いた世界には帰れません。一方の賢者アークエットは、帰石を持つことで、いつでも元いた世界に帰れます。これはフェアではないと。サラが帰石を使ったことで、賢者アークエットとサラは同等になります。賢者アークエットもサラも、もう元いた世界には帰れません。そんな風に賢者アークエットは考えたようです」
「そんな……。別に私は賢者アークエットと同等でありたいとは思っていません。それに」
ノア王太子が握っていた私の手に力を込めた。
そしてあのコバルトブルーの吸い込まれそうな瞳で私を見る。
「これは……本人が口にしたことでありません。ですからわたしの憶測も含まれます。でも間違いないでしょう。賢者アークエットは、サラのことを好きなのだと思います。だからサラがダークフォレストに足を踏み入れ、帰って来られない事態になって欲しくなかったのです」
「まさか! ノア王太子様、私はそれほどの人間ではありません!」
気づくとふわりとノア王太子の胸に抱きしめられている。
優しく、温かい胸の中。
「サラはどうしてなのでしょう。自分のことなのに。自分の魅力にまったく気づいていないのですね。わたしは賢者アークエットがサラに帰石を渡したと聞いた時、驚くことはなかったですよ。サラにはその価値があると。それとサラ。賢者アークエットはサラのことが好きですが、わたしのことも大好きなのですよ」
!!
いきなり、BL展開!?
そ、それはそれで需要がありそうだけど……。
って、まさかノア王太子がそんな意味で言っているわけがないだろう。
「長い時を生きる賢者アークエットからすると、わたしは彼にとっての子供みたいなもの。実際、わたしは子供の頃から賢者アークエットを知っています。わたしが成長しても、変わらず同じ姿の賢者アークエットを。穢れをこの身に受け、生きる屍になったわたしを見た賢者アークエットは、サラと同じことを考えたのでしょう。救い出したいと。でも、精霊の血をひく賢者アークエットは、人間とはいえ、ダークフォレストに向かうことはできません。わたしのことを助けたい。サラのことも助けたい。そこで賢者アークエットは、帰石をサラに託したのですよ」
そうだったのか。
賢者アークエットが自身の命ともいえる帰石を私に託すことで、精霊と人間という二つの種族が手を取り合うことになり、ホワイトセレネも手に入った……。
うん? ちょっと待って。
「ノア王太子様。結局、私が手に入れたのはホワイトセレネという花でしたが、その正体は聖獣ホワイトドラゴンの魂。でもその聖獣の魂で、ノア王太子様の穢れは浄化されました。これは一体……?」
「見た通りですよ。サラを迎えに行った時、わたしはホワイトドラゴンの姿をしていたでしょう。わたしの魂とホワイトドラゴンの魂は、この体の中で一つになりました。この融合と、人間の体に馴染むための調整に時間がかかり、すぐにサラを救い出すことができませんでしたが、もう大丈夫です」
え……!?
深層に沈んだ私を迎えに来たのは確かにホワイトドラゴンだった。それなのに声はノア王太子で。そう、ドラゴンなのに話したりしたが。
でもあれは深層の中の出来事で、私が勝手に作り上げた姿だと思っていた。
「え、ノア王太子様は、ホワイトドラゴンの姿にもなることができる……ということですか!?」
「ええ、そうですよ」
私から体をはなすと、ノア王太子は少し離れた場所へと移動する。そして「眩しいので、無理に目は開けないでくださいね」と言い、微笑んだ。
え、本当に? ノア王太子がホワイトドラゴンの姿になるの!?――そう私が思った瞬間。
眩しい程の閃光に、目がチカチカし、閉じることしかできなくなる。瞼を閉じても光を感じ、やがてそれが収まり……。
ゆっくり目を開けると。目の前に、ホワイトサファイアのように透明で、白い輝きを放つホワイトドラゴンが姿を現した。そしてどこにもノア王太子の姿はない。
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