6:悪役令嬢は人気者!?
賢者アークエットのこの反応。
まさか悪役令嬢ジリアンが乗り込んでくる可能性がある……の?
背中に汗が伝う。
でも同時に。
どこかでホッとする。
だって。
悪役令嬢が絡んでくるなら、それすなわち、ヒロインなわけで。
私は全くヒロイン顔ではないし、いまいち、“君待ち”の世界における自分の役割が分からなかった。でも悪役令嬢が登場してくれれば……。間違いなく、私はヒロインと胸を張って言える。
「ジリアン伯爵令嬢のことも……それもまた、異世界乙女の千里眼で見通された――ということですか?」
「まあ、そうですね。詳しいことは分かりませんでしたが、この世界にジリアン伯爵令嬢がいることには気づいていたと言いますか……」
賢者アークエットはそこで深いため息をついた。
さらになぜかルドルフまで物憂げな顔で遠くを見ている。
な、なに、この二人の反応は!?
「ジリアン伯爵令嬢は……先見の明があったのでしょう。でも私はそんな彼女の言葉に取り合うことはなかった。もしあの時、ジリアン伯爵令嬢の言葉を、ちゃんと真剣に受け止めていれば……」
賢者アークエットが肩を落とすと、それを励ますようにルドルフが口を開く。
「賢者様。それはもう言いっこなしと決めたはずだ。ジリアン伯爵令嬢は賢者様だけではない。俺にだって声を掛けてくれていた。懸命に警告してくれていたんだ。でもそれを信じることができなかった。……仕方ないことだ」
意味が、意味が分からない。
意味が分からないが、どうもこの二人は悪役令嬢のことを……とても評価しているように思える。これは一体……。
「異世界乙女のサラ様。ジリアン伯爵令嬢はこの国にはもういません。私達が彼女の言葉に耳を傾けなかったことに業を煮やし、隣国へ移住されてしまった。しかも隣国の皇太子と舞踏会で出会い、今は婚約の手続きも進められていると聞いています。残念なことですが」
そう賢者アークエットは締めくくった。
いや、待って。
何がなんだか分からないのですが。
ざっくり理解できたことは。
悪役令嬢ジリアンは、隣国の皇太子と婚約話が進んでおり、それを賢者アークエットやルドルフは残念と感じている。二人が残念そうになるぐらい、悪役令嬢ジリアンは好かれていた。いや、最初は……好かれていなかったのかもしれない。でも何かを警告し、それを賢者アークエットもルドルフも受け流していたが、それを後悔することになった。
つまり、その警告していたことは現実に起きた。結果、悪役令嬢ジリアンが言っていたことは間違っていなかった――そんな感じに思える。
「あの、一体、ジリアン伯爵令嬢は何を――」
既に建物のエントランスについている。
そして私達を見たこの家の召使いが扉を開けた。
その瞬間。
「あ……」
私は賢者アークエットに尋ねようとしていた言葉を飲み込む。そこには空の騎士団を、空の騎士団と言わしめる由縁がいたのだ。
ワイバーン。
その翼はコウモリ、足はワシのようであり、尾はサソリと同じで、毒を持つと言われている。ドラゴンより小型であり、飛ぶことに特化したこのモンスターを、卵の時から育て、人間に慣れさせ、乗り物として使役できる。それが空の騎士団の騎士達が、他の騎士達とは一線を画すところだ。
聖獣であるドラゴンを制御できるのは、精霊王と精霊の中でもごく限られた者達だけ。人間がドラゴンをコントロールするのは、無理だ。でもモンスターであるワイバーンなら、人間でもなんとか使役できる。と言っても、それは簡単なことではないし、賢者アークエットが作った特別な指輪も使い、幼獣の頃から人の手で育てることで可能になっているのだけど。
そんなワイバーンなのに、ルドルフは成獣のワイバーンさえも使役できる、まさにワイバーンの使い手なのだ。ゆえに若干19歳にて、空の騎士団の団長に任命されている。貴族ではなく、森に暮らす狩人の出身でありながらの騎士団長への抜擢。これは異例中の異例であるが、異論を挟む者はいなし、挟むことなどできない。ルドルフほどのワイバーンの使い手は、他にいないからだ。ゆえに言動が少し荒くても、なんとなくで許されている。
というわけでそのルドルフの愛馬ならぬ、愛ワイバーンが目の前にいた。
その体と翼は、ワイバーンにしては珍しい、澄んだ青紫色だ。瞳の色はルドルフと同じ、紺色をしている。“君待ち”のプレイ画面で見ていた時に比べ、とても大きく感じた。それは……当然だろう。現実として目の前に存在するそのスケール感は、半端ない。
そこでようやく気づく。
賢者アークエットは、ルドルフと共に婚儀の会場となる神殿へ行けと言っていなかったか。
……言っていた。
つ、つまり、このワイバーンに私、乗るの!?
「ル、ルドルフ様、私、このワイバーンに乗るのでしょうか!?」
「勿論。そのつもりで鞍も二人乗りのものに付け替えてきている。それにサラ様。俺はあなたの臣下だ。様などつけず、ルドルフと呼んで構わない」
ルドルフのこの言葉に、心の中で「ヒヤッホーィ!」と雄叫びを上げる。
ルドルフがヒロインに自分を呼び捨てで呼ぶように告げた時。その好感度のハートマークは、一気に五つ増える。好感度を示すハートマークは、100個集める必要があるから。五つではまだまだと思ってしまうが。一気に五つも増えるなんて、そうあることではない。
特にルドルフは最初、そう簡単に心を開いてくれない。よって呼び捨てで呼ぶなんて、会ってすぐには許してくれない。こうも簡単に呼び捨てオッケーなんて……。やっぱりチートじゃん!と思わずにいられないが。
冷静に考えれば、私はこれからノア王太子と婚儀を挙げ、王太子妃になるわけで。ルドルフを様付けで呼ぶのは確かにおかしいのだ。
そうではあっても。
嬉しいものは嬉しい!
私がニマニマしている間にも、ルドルフはワイバーンを飛ばすための準備を始めている。
「婚儀開始には間に合うよう、私も神殿へ向かいますから」
賢者アークエットに声をかけられ、だれきった顔に気合をいれ、「分かりました」と頷く。
悪役令嬢ジリアンの件は気になるが。
もう、このソーンナタリア国にはいないのだ。
邪魔をされることはない。それに彼女は彼女で皇太子と婚約という、別の幸せを掴みつつある。ならばお互い、干渉することなく、それぞれの道を行けばいいだろう。
……絡まれないことで、相変わらず自分の立ち位置が分からないが。ノア王太子と婚儀を挙げれば、晴れて王太子妃という肩書もつくのだから、問題ないだろう。
何よりも、“君待ち”の世界に来て。
攻略対象である賢者アークエットも、ルドルフもとてもフレンドリー。そしてノア王太子とも結婚できる。何も問題ない。
うん……?
待って。
本当に、問題ない?
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このあともう1話公開します!
20時台に公開します。
【完結済み・一気読みおススメ】
『モブなのにフラグ回避・やり直し・イベントが
あるなんて、聞いていないのですが……(焦)』
https://ncode.syosetu.com/n2246id/
ほんわか、のんびり、ごくごく稀にハプニング。
素敵な男性と出会い、少しずつ成長する主人公。
ラストは勿論ハッピーエンド☆
目次は以下のような感じです。
幕開け:プロローグ
1:モブにも回避すべきフラグがあった件
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3:墓穴を掘ってしまいました(><。)
4:ドキッとすることの連続
5:私がお相手するのは無理です(@ @;)
まずはプロローグの試し読み、お願いします♪