58:ぶどう祭り~最後~
「サラ様!? どうやってここに!? まさか」
「ルーナ様、お願いします。これでノア王太子様の穢れを浄化してください!」
「これは……ホワイトセレネ!?」
ルーナは絶句し、それでも私の手からホワイトセレネを受け取ろうとして、悲鳴を上げた。
「サラ様、その手は……! 穢れを受けているではありませんか」
「大丈夫です、手だけなので。お願いします、これを早く……」
穢れを受けたのは右手だけのはずなのに。
さっきから背中の感覚がない。
「分かりました。サラ様。このホワイトセレネでノア王太子様のことを必ず助けますから。ミレーユ!」
ノア王太子のそばにいたミレーユがこちらに駆け寄るのが見えた。
なんだか視界が霞んで見える。
ルドルフは……まだ部屋に
意識が途切れた。
◇
眩しい光に目が覚める。
木々の間から差し込む明るし陽射し。
今日もまた新しい一日が始まる。
鳥たちが朝の挨拶にやってきた。
口々にいろいろな報告が始まる。
クサイチゴが沢山実った。
巣作りが上手くいっている。
山女魚が今年は多そうだ。
ロセリアンの森ではキャベツが豊作だ。
騒がしい鳥たちの報告の後は。
ノネズミ、ウサギ、リス、鹿、猪、冬眠から目覚めた熊、タヌキ、アライグマ……。
多くの動物たちが私に話しかけにくる。
彼らのおしゃべりが止むと、森の木々が歌い出し、フェアリーが踊り出す。すると精霊達も目を覚まし始める。
さらにイエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンも動き出す。
最近。
瘴気が頻繁にこの辺りにも顔を出す。
虫達も動物達も。
森の木々も、精霊も、フェアリーも。
瘴気が出現する度に気持ちを乱されている。
彼らが穏やかに暮らせるように。
このサヴァリアンの森を、この世界を、瘴気から守られなければならない。
◇
瘴気をこの世界に送り込む者。
かの者は冥王、魔王、身の毛のよだつ者などいくつもの名を持つ。遥か地の底より悪気を集め、瘴気と成し、この世界の生ある者に害を成そうとする。
かの者との戦いはもう何万年も続いていた。
勝利は常にこの世界にあるわけではない。
敗北し、氷の時代を過ごしたことも何度もある。
だが。
生きとし生ける者は諦めない。
この世界で生きることを。
かの者と私とのこの度の戦闘は。
666666日続いた。
そして遂に。
かの者を退けることに成功した。
地の底深く落ちたかの者は、この世界を作るガイアの熱に触れ、二度と再生はできない。
これですべてが終わった。
残るのは、かの者が生み出した、有象無象の瘴気のみ。
なんとか。
私の方でこの瘴気とも片をつけたいと思ったのだが。
もう、力が入らない。
動けない。
体中をじわじわと穢れが包み込んでいく。
残った力を一か所に集め、呼吸を浅くし、その時を待つことにする。
――ヘルラン ハリジッエトラン ヘルラン サラルナーン
虫達よ、動物達よ。
精霊達よ、フェアリー達よ。
イエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンよ。
悲しむ必要はない。
時は繰り返し、流れていく。
この森は閉ざされる。
次の時の到来まで。
このサヴァリアンの森は眠りにつく――。
◇
不思議な夢を見た。
それは……人間の夢ではない。
人間なんかよりもっと高次元の存在。
尊く、崇高で、不可侵なもの。
かつて多くの生物が住み、精霊やフェアリーが当たり前にいたサヴァリアンの森。イエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンの故郷の森。
その森とこの世界を守っていた聖獣。
聖獣は瘴気を生み出すかの者を滅ぼした。
自身の存在と引き換えに。
そしてサヴァリアンの森は眠りにつく。
死の森――ダークフォレストとして。
私がその聖獣の夢を見たのは、ダークフォレストに足を踏み入れたからだろうか?
答えは……分からない。
分からないと言えば。
私は自分の今の状態がよく分からない。
何度も目を覚まそうとするのだが。
この宇宙のような空間から抜け出すことができない。
音もなく、風もなく、誰もいないこの空間。
あるのは星のように瞬く光のようなものと、濃紺にゆらめく空気のようなものだけ。
ホワイトセレネを確かにルーナが受け取ってくれた。
だから……。
間違いない。
ノア王太子の穢れは浄化されたはずだ。
目覚めて、自分が精霊王の館にいると知り、ノア王太子はきっと驚くことだろう。
ルドルフは間違いなく号泣し、ノア王太子に抱きつく。賢者アークエットは涙を我慢し、その姿をレブロン隊長が皮肉るかもしれない。ルーナはノア王太子が救われたことに安堵し、精霊王は一瞬残念に思うかもしれないが、すぐに回復を喜ぶだろう。
ノア王太子の穢れが浄化されたという情報は、すぐに国王陛下夫妻にも伝えられる。夫妻もきっと大喜びだ。ノア王太子の兄弟、陸や水の騎士団の団長、宰相、宮殿護衛騎士の団長、多くの騎士、メイドやバトラー、宮中仕えの人々、国民……みんな喜ぶはず。
この世界で必要とされるノア王太子を助けることができたのだ。
大満足だよね。
ピンチヒッターだったけど、頑張ったよね、私。
でも。
どうしてかな。
なんで私だけ、置いてきぼり?
どうやったってこの状況から目が覚めない。
どうして、この穢れみたいな宇宙空間に、私は一人でいるのだろう?
ホワイトセレネが素手で掴めた時。
私の右手はまさに瘴気に触れたみたいに肌の色が変容した。
穢れに触れて、穢れが移ったなんて聞いたことがない。聞いたことがないけど、移ってしまったのなら。それは仕方ない。
でもどうしてだろう。
ほんの少しだけだったのに。
肌の変容は。
あ……、そうか。
あの時、背後に何かの気配を感じていた。
あれは……やはり瘴気だったのかな。
帰石で瞬時にノア王太子の部屋に戻ることができた。だから大丈夫だと思ったけど、ダメだったのかな。背中に瘴気が触れていたのかな。
もう、会えないのかな。ノア王太子と。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
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このあともう1話公開します!
12時台に公開します。









































