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54:ぶどう祭り~決めるのは私~

まさか私がドタキャンした花嫁ヒロインのピンチヒッターだったなんて。


これにはもう……いろいろな思いがこみ上げたが……。


様々な不可解な点が解決した。

もう、それに尽きた。

夜の儀初日に爆睡したことを、ノア王太子に詫びた時。


――「気にしないでいいですよ。むしろそうしてくれて、助かりましたから」


そう言われたわけだが。

なぜそんなことを言ったのか、よーく理解できた。

一向に、一輪の薔薇の花が、テーブルに登場しなかった理由も。食べ物、ドレス、宝石に満足しているか、足りない物はないか、オペラや演劇に行きたいのではと心配された理由も。


――「世の中には高級な宝石やドレスを与えられないと『ありがとう』を言えない女性もいるのですから。でもサラみたいに小さなことにも感謝の気持ちを伝えられることは……素敵なことだと思います。されて当然、という態度ではなく、『ありがとう』と言われた方が、嬉しいですからね」


ノア王太子がどんな気持ちでこの言葉を口にしたのか。その理由が、今はよく分かる。朝食をこれからもずっと一緒に食べられると発言した私に、感動していた理由も、理解できた。


ノア王太子は完璧だ。文武両道で美しく、聡明で。無敗の王太子で、心優しい。それなのに婚姻の儀式当日に花嫁に逃げられ、自己評価が下がりまくりだったのだろう。


ああ、そうか。

未だ清らかな関係だった理由は解明したが。

同時に分かってしまったことも二つある。


まずはノア王太子の気持ち。


ノア王太子はナミと筆頭公爵家の嫡男ケンリーの駆け落ちで、自信を喪失していた。そこに現れた私は、庶民丸出しで高額なプレゼントも要求せず、バッチリ王宮にいることを宣言した。私なら遁走することはない。逃げることもないと安心したのではないか?


出陣の儀で囁かれた言葉に舞い上がっていたけれど……。


ノア王太子は、子供の頃から異世界乙女と婚姻することを教えこまれている。だから異世界乙女を拒むことはない。よって逃走の心配のない異世界乙女である私に対し、安心しただけだ。


次にこの“君待ち”における私の立ち位置。


既にこの世界には、ヒロインも悪役令嬢も存在している。その上で私は召喚された。つまりこの“君待ち”の世界では、モブですらない、突然変異的な存在。ゆえに見た目もヒロイン顔ではない。当然、千里眼の力もない。


そう、私には千里眼の力はない。


あるのはただのゲームをプレイしていた経験と記憶だけ。それなのにまさかのノア王太子とのゴールイン。でもそれはそれで異世界に召喚された身としては、労せずして最高の伴侶を得たのだ。これに文句を言うのは筋違いだろう。


だってヒロインとして召喚されたら、悪役令嬢の邪魔が入ったはずだ。悪役令嬢として召喚されたら、断罪が待っていたはず。モブだったら……まあ、それはそれで、元いた世界からのリセットぐらいで、人生のやり直しをしていただろう。


ともかく、ヒロインも悪役令嬢もいないも同然の“君待ち”の世界に召喚されたのだ。


最高にラッキーなのだと思う。

そう、途中までは。

今はノア王太子が穢れをその身に受け、生きる屍状態。とてもラッキーで幸せとは言える状況ではなく。


ノア王太子が目覚めても、心から私を愛しているのかも分からない。逃げない異世界乙女で良かったと、受け入れてくれているだけの可能性も高いのだから。


それでも。

私はノア王太子を助けたい。

そう思っているのだが。


――「サラ様。これから話すことは、間違いなく、今後のあなた自身の生き方を決める選択肢の一つになると思います」


こう切り出した賢者アークエットの意図は一体……?


目の前で私を見る賢者アークエットと視線を合わせると、沈黙を破り、口を開いた。


「サラ様はこの世界のエゴで召喚されたも同然です。そして召喚はできても、元の世界に戻る術はない。ある意味、この世界の犠牲者であるサラ様には、可能な限り幸せになっていただきたいと思っています。本当はその幸せを、ノア王太子様と共にあることで掴み取って欲しいと思っていました。でも、ノア王太子様はこのような状態。そしてサラ様は明後日にはこの森を出ることになります。残された時間はあまりにも少ない……」


残された時間はあまりにも少ない。

それは……よく分かっている。

だからこそ明日、必ずホワイトセレネを見つけ出したいと思っていた。


「そんな中で、サラ様は精霊王様に求婚されたのです。精霊王様が人間に求婚なんて……前代未聞。私は長くこの世界に生きていますが、初めて聞きました。精霊王様の王妃になった人間の女性。それはサラ様が初めてであり、最後のように思えます。それだけ、本当にあり得ないこと。精霊王様の王妃となれば、例え人間でもその命は永遠となります。


そして……異世界乙女とはいえ、人間であるサラ様は、精霊王様のお顔と声を同時に目て見て聞けば、確定で恋に落ちます。そうなればノア王太子様への気持ちは、今とは違う感情になるでしょう。そして精霊王様は間違いなく、サラ様を心から愛し、幸せにしてくれるはずです」


これは……。

私を思って言ってくれた言葉であると分かっている。

そうだとしても……。


「賢者アークエット様から、まさか精霊王様の求婚を受け入れろと言われるとは……驚きました」


「私は事実をお伝えしたまでです。以前、お話した通り、ソーンナタリア国から提示できる選択肢は変っていません。でもそこに精霊王様による選択肢が加わったのです。そして精霊王様が提示する選択肢は、他の三つと比べると、サラ様が幸せになれる可能性が限りなく高いと思っています」


ソーンナタリア国から提示できる選択肢。


一つ目は、ノア王太子……ノア第一王子の妃として王宮に留まる。二つ目は、廃太子と同時に離婚。でもこれは異世界乙女争奪戦のようないくさに発展しかねない。三つ目は、新たに王太子になられる第二王子と婚姻関係を結ぶ。


「決めるのはサラ様です。私ができるのはあくまで助言のみ。召喚した私が言える義理ではないのですが。幸せになってください、サラ様。絶対に」


真摯な言葉に顔を上げた瞬間。

水戸黄門の印籠のような、あの黄金スマイルが繰り出された。


「はい。ちゃんと自分が幸せになる選択をします」

このあともう1話公開します!

20時台に公開します。

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