53:ぶどう祭り~あの謎が解明する~
賢者アークエットの部屋に着くと、彼は男性の精霊に頼み、マスカットティーを用意してもらった。
マスカットティーはフレーバーティーなので、お茶自体がマスカットの味がするわけではない。でもその香りが爽やかで甘く、ジューシーで、元いた世界でもよく飲んでいた。
精霊王が出してくれたロゼワインも美味しかったが。
途中で話がとんでもない方向に行き、ワインを楽しむどころではなくなっていた。
こうやって身内(?)とも言える賢者アークエットを前に飲むマスカットティーは……その温かさもあり、ホッと落ち着く。
「サラ様。これから話すことは、間違いなく、今後のあなた自身の生き方を決める選択肢の一つになると思います。そう思うので話すことにしました。これを私が話したと知ったら……国王陛下もノア王太子様も皆、驚くでしょう。でもこのような事態になったのです。隠したままにはできない。そう判断しました。他言は無用です」
ホッと落ち着いた気持ちに緊張が走る。
一体何を話そうとしているの、賢者アークエットは!?
「その、サラ様は、ノア王太子様とは……まだ真の婚姻に至っていませんよね?」
いきなりぶっつこまれた話題に、思わずマスカットティーを吹き出しそうになる。
精霊王にもバレ、そして賢者アークエットにもバレていた。
もう、本当に穴があったら入りたい!!
「どうしてそのような状況になってしまったのか。……実は、理由があります」
「……!」
ま、まさか、ノア王太子、ルイ16世と同じ理由とか!?
「実は、ノア王太子様は、別の異世界乙女と婚姻の儀式を挙げる予定だったのです」
「えっ!?」
「その名はナミ、1年前に私が召喚しました。召喚し、このソーンナタリア国を守る異世界乙女として、ノア王太子様と共に生きることを、ナミ様に提案しました。するとナミ様は『この国で生きていくのはいいけれど、誰と生きていくかは、私に決めさせて頂戴。王太子、賢者、空の騎士団の団長、筆頭公爵家の嫡男、あとは……そう、精霊王! その5人の中から選ぶわ』そう言い出しました。4人の男性と精霊王の名を出し、その中から自分の相手を決めるというのです。驚きました。驚き、それでも国王陛下とも話し合いましたが……。精霊王の妃をソーンナタリア国で左右するなんて、それは無理です。ですから、4人の男性から選ぶようナミ様を説得し、それぞれの男性を合わせることにしました」
そこまで話すと賢者アークエットは、マスカットティーを口に運ぶ。
私はもう、ただただ驚くことしかできない。
ナミという女性は……間違いなく君待ちのプレイヤーで、ゲーム同様のことをしようとしたわけだ。
それにしても。
ある意味、勇気がある。
ノア王太子とのゴールインが用意されているのに、自分が選ぶと言い切るとは。そして自身の案に、国王陛下や賢者アークエットを従わせるとは……。
「ナミ様は異世界乙女である自分を伴侶にしたいなら、それだけの財と力があることを示して欲しいと言い出しました。それを示してもらえないと、安心してこの世界で生きていけないと。その結果、4人の男性に宝石やドレスなどのプレゼントを要求し、オペラや演劇の観劇にご自身を連れて行くことを求めました。さらにご自身のための舞踏会を開催したり、お茶会をやるよう、請われまして……」
すごい。
そんな要求を臆面もなく、言えるなんて。
自らの欲求に忠実な女性だったのだろう。
「しかも宝石やドレスなどの贈り物は、この世界で一つだけのもの、つまりオーダーメイドでなければならない。オペラや演劇の観劇は、貸し切りで観客はご自身と相手の男性だけ。舞踏会もお茶会もナミ様が主役で、ナミ様より素晴らしいドレスや宝石を身に着けるのは禁止……などいろいろ制約があり……。正直、この要求に答えることができるのは、ノア王太子様と筆頭公爵家の嫡男だけでした」
ナミという君待ちプレイヤーはなかなかの強者。
自身のヒロインという立場をフル活用したわけか。
しかし。
やっていることは傾国の美女につながりそうなことだが、大丈夫だったのだろうか……。
「ナミ様の要求に答えることで、王太子様も筆頭公爵家の嫡男も、かなり出費を強いられました。当然、お二人の公務や執務にも影響も出ています。この状況に一石を投じたのは、ジリアン・ジーン・クワイン伯爵令嬢でした」
ジリアン・ジーン・クワイン伯爵令嬢……!
悪役令嬢だ!!
「ジリアン伯爵令嬢は再三、ナミ様が傾国の美女になると、私とルドルフに警告し、ナミに対してもズバズバ文句を言っていたようなのですが……。ナミ様はジリアン伯爵令嬢からいじめを受けていると涙ながらに訴え、そしてその直後に瘴気の襲来を察知したと、千里眼の力を披露するのです。今も思えば、それはナミ様の手練手管だったのかもしれません。結局、ナミ様の千里眼の力とジリアン伯爵令嬢の言葉を天秤にかけた時、優先されるはナミ様であり……。ジリアン伯爵令嬢はやってられないとばかりに隣国へ移住されました。その一方でナミ様は、この世界へ召喚され、半年後に、ノア王太子様との婚約をお決めになりました」
……。
なるほど。
なんというか。そうか。うーん。
ナミというプレイヤーは、あくまで“君待ち”をプレイしているという気持ちだったのだろう。悪役令嬢は断罪イベントを待たずに消えてくれたし、攻略対象は精霊王以外、自分に尽くしてくれるし、さぞかし日々を楽しんでいたと思う。
だが結局、王太子を選ぶなら、最初からすんなり提案を受け入れればいいのに……。どれだけ贅を尽くし、我がままを言ったのか、自覚しているのだろうか……。困ったちゃんだ。
「一方のノア王太子はというと……。元々異世界乙女を召喚したら、結婚するよう子供の頃から言われ続けていたので、なんとかナミ様を愛そうと努力されていました。でも、ナミ様のお心はノア王太子様ではなく、筆頭公爵家の嫡男ケンリー・ノルベルトにあったのです。ノア王太子様を選んだのは、あくまで財力とこの国の王太子だったからのようで……。でもそれに気づかないまま、婚姻の儀式の準備が進められ、当日を迎えてしまったのです」
え、ま、まさか……。
「既に各国からの招待客も大広間に揃い、国民も神殿に詰め掛けていました。もう後、数時間後に婚姻の儀式が始まる。まさにその段階になり、ナミ様は筆頭公爵家の嫡男ケンリーと駆け落ちされたのです……」
賢者アークエットは盛大のため息と共に私を見る。私は……ただ、その視線を見つめ返すことしかできない。
「異世界乙女の名前やお姿に関する情報は、他国には流していません。希少な存在ですし、お披露目は婚姻の儀式と決めていましたので。ですから、異世界乙女の本当の名前とお姿を知っていたのは、秘儀の間にいる王族などごく一部だけでした。舞踏会でもお茶会でも、仮面をつけたり、かつらやお化粧で、その姿は秘すようにしてきていたのです」
「つまり、ナミ様はとんずらしたが、とんずらしたナミ様が異世界乙女と知る人は限られている。ならばここは再度乙女を異世界から召喚し、そのまま婚姻の儀式を決行しようとなったわけですね? つまり私はピンチヒッターだった。だからこそウェディングドレス姿で召喚され、婚約も何もなく、いきなり婚姻の儀式からスタートした。賢者アークエット様はやたら時間を気にして、ノア王太子様に至っては、異世界乙女そのものに不信感が募っていた――というわけですね?」
畳みかけるように私が言うと、賢者アークエットは「その通りです」とただただ頷く。
複数の作品に対し、盗作に近い行為をしている人がいると通報してくださった読者様。
ありがとうございます。そんな人がいることに驚きました。
対処方法について考えようと思います。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
このあともう1話公開します!
13時台に公開します。









































