表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/72

51:ぶどう祭り~唯一の方法~

ぶどう祭り2日目のランタンイベント。


それがいよいよ始まる。


精霊王の館の左右に伸びるそれぞれの吊り橋に、精霊王と私、ルーナと賢者アークエットが向かった。そこで最初のランタンをリリースする。その後は次々と様々な場所で、ランタンがリリースされることになっていた。


「ではサラ様。よろしいですか?」


私を見る精霊王の七色の瞳は、ブラックダイヤモンドのようにキラキラ輝いている。


今日の精霊王は、マントが純白で、背中に三体の聖獣ドラゴンが刺繍されている。中に着ているのは、明るい青紫色のアルバに似た衣装で、腰には銀のベルト。そのベルトには聖獣を表現するかのように、ルビー、サファイア、シトリンが埋め込まれていた。そして頭上には輝く王冠。口元はいつも通り、上位と同じ色の布で隠されている。


「はい。準備はできています」


返事をして、手に持つランタンを見る。ランタンの中のキャンドルは、ぶどうの搾りかすで作られたもの。炎が灯ると、蝋の匂いと共に、ぶどうの甘い香りが漂ってきた。


「ではこれより、最初のランタンをリリースする」


精霊王の凛とした声は、森の中に響き渡る。


左手にいるルーナと賢者アークエットのところにも、当然この声は聞こえていた。うんと離れた場所の精霊は、いつもの精霊同士の意志疎通のテレパシーで、伝わっているはずだ。


「サラ様、いきますよ。三・二・一」


精霊王の言葉にランタンを放すと。

すうーっとランタンが夜空へと昇って行く。

不思議なことに枝や葉に近づくと、それをちゃんと避けている。


「サラ様、ランタンが枝や葉を避けているように見えるでしょう。でも違うのですよ。あれはフェアリーが当たらないよう、ランタンを動かしているのです」


「そうなのですか!? でもいつものフェアリーの淡い光が見えなかったのですが……あ、もしかしてランタンイベントのために、光を出すのを止めているのですか?」


精霊王はこくりと頷く。

それは驚きだった。

フェアリーは本当に働き者だ。


「さて。ランタンイベントは無事、開始されました。このイベントは夜通し行われます。ランタンのリリースは一回と決めていないので。……サラ様、わたくしの部屋のバルコニーで、少しこの美しいランタンでも眺めませんか?」


「あ、はい」


既に様々な場所でランタンのリリースは始まっており、森の中は幻想的な世界になっている。


これを眺めたいという気持ちになっても当然だ。精霊王にエスコートされ、そのまま館の中に入り、王の部屋へと向かう。


通されたのは応接室だったが、とても広い。


置かれているのは、ソファセットと壁際に本棚、テーブルセットと絵画で、あとはゆったりスペースなのだが。そのゆったりが半端ない広さだ。黄金で出来ているシャンデリアはその黄金が明かりを反射してさらに輝きが増ししている。


その応接室の窓は、そのままバルコニーつながっていた。


バルコニーにはテーブルと椅子が置かれており、テーブルにはランプが灯っている。精霊王と私が椅子に腰かけると、美しい女性の精霊が飲み物を運んでくれた。ぶどう祭りの最中なのだ。当然飲み物はワインだ。淡いピンク色のロゼワイン。


「サラ様、ぶどう祭りは残り一日ですが、いかがですか」


ゆったり椅子にもたれた精霊王は、口元の布を少しだけずらし、ワイングラスを口に運ぶ。


精霊王はとても美しい顔を持つ。その顔と声を聞いた人間は、確定で恋に落ちてしまうと言われている。精霊同士あれば、布をはずせるのに。私がいるので、ロセリアンの森に戻ってからも、精霊王は布を外せない状態だ。これは本当に申し訳ないと思いつつ、質問に答える。


「とても興味深く、楽しいです。精霊の皆さんが自然を愛し、ぶどうの恵みに感謝している気持ちが強く伝わってきました。ぶどうを使った様々な料理やお菓子はとても美味しかったです。ぶどうをモチーフにした雑貨なども素敵でした。精霊の皆さんの独自の文化も目の当たりにすることができ、感動の連続です」


私の言葉に、精霊王は嬉しそうに微笑む。


「そのバングルのクローギンアンドレ(精霊の鈴)をつけているのを見るだけでも、サラ様が我々の文化を気に入ってくださっていると感じますよ。……昨日は精霊の女性の衣装キトウネスを着ていましたよね。とても似合っていましたよ」


「それは……褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます」


少し恥ずかしくなり、ロゼワインを口に運ぶ。

果実のアロマが感じられる。美味しい。


「今日のそのドレスも。サラ様にきっと似合うと思いましたが、ピッタリで良かったです。精霊には、裁縫が得意な者がいましてね。紙に描いたドレスを、こうやって形にしてくれるのです」


「……! これは精霊王様が自らデザインされたのですか!?」


頷いた精霊王はこんなことを明かす。


「サラ様に初めてお会いした時。ソーンナタリア国のドレスで、サラ様に合う物を思い浮かべました。その際、このドレスのデザインが浮かんだのです」


「そ、そうだったのですね。とてもセンスがよく、感服いたしました」


すると精霊王は、楽しそうにクスクスと笑う。


「そんなに堅苦しくされてなくても」


「そ、それは……」


精霊王はワインを飲み、しばし目の前でふわふわと夜空を目指すランタンに目をやる。つられて私もランタンを眺めた。ランタンを見るためにここへ来たのに。最初にバルコニーに案内された時以外は、精霊王ばかり見ていたことに気づく。


「……賢者アークエット様と話しました。ノア王太子様のことを。このままこの館で、賓客としてずっと看病する心つもりであることを伝えました。サラ様はお聞きになっていますか?」


ドクンと心臓が盛大な反応を示す。

確かにこの件について賢者アークエットと話したが、現状保留になっている。


「話は……聞いています」

「ノア王太子様のことを愛していらっしゃいますか」

「……! もちろんです」

「……今の状態のノア王太子様であっても?」

「はい」

「ではノア王太子様がこの館に留まることを、どう思っていますか?」

「それは……」


当然、私も一緒にいたいと思っている。

そんなのは日々の私を見ていれば分かるはずなのに。

なぜ、敢えて聞くのだろう……?

つい、睨むように精霊王を見てしまったのだろう。

精霊王が苦笑した。


「この館に、ロセリアンの森に、住み続けたいですか?」

「!!」

「サラ様が、ノア王太子様と共にここに留まれる方法が一つだけあります」


そんな方法があったの!?

賢者アークエットは教えてくれなかった。

……いや、精霊王だから、許されている権限が何かあるのだろうか……?


「知りたいですか、サラ様」


それは知っておきたい。

もちろん、ホワイトセレネ獲得計画を実行中だ。

だからノア王太子がここに留まることは……ない。

それでも、念のためで、知っておきたい。


「賢者アークエットからは、絶対に無理と聞いています。でも何か方法があるなら、お聞きしておきたいです」

このあともう1話公開します!

20時台に公開します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリ作品をご紹介】
●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●あるがままの私で参りますわ!●
わたくし悪役令嬢ですから
『わたくし悪役令嬢ですから』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●ピンチの連続!でも負けない!●
バナークリックORタップで目次ページ
ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!
『ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!』

●食に敏感、恋に鈍感●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした
『悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした』

●[四半期]推理(文芸)3位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●終わりから始まるハッピーエンド●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢の決断
『悪役令嬢の決断』

●じれじれの両片想い●
バナークリックORタップで目次ページ
陛下は悪役令嬢をご所望です
『陛下は悪役令嬢をご所望です』

●のんびりほのぼの●
バナークリックORタップで目次ページ
転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました
『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』でお待ちしています!

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●端役過ぎて重要な情報が……●
バナークリックORタップで目次ページ
闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい
『闇落ちする息子の父親とは結婚しません!公爵令嬢はバッドエンドを回避したい』

●続編開始●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』もぜひお楽しみください☆

●隙間時間でサクサク読める●
バナークリックORタップで目次ページ
愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法
『愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法』

●おじいさんと魔女!?●
バナークリックORタップで目次ページ
森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』

●断罪回避の鍵はお父様!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●笑えるドタバタ劇●
バナークリックORタップで目次ページ
旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~
『旦那様、離婚してください!~悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~』

●すれ違いからの溺愛エンド●
バナークリックORタップで目次ページ
わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~
『 わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~』

●表紙は蕗野冬先生の描き下ろし●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―
『悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―』

●頑張れ!悪役令嬢!●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!
『悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』

●やがて溺愛に至る迄の物語●
バナークリックORタップで目次ページ
皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜
『皇妃の夜伽の身代わりに〜亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る〜』

●もふもふも登場します●
バナークリックORタップで目次ページ
周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~
『 周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』

●表紙は蕗野冬先生●
バナークリックORタップで目次ページ
だから断る
『運命の相手は私ではありません!~だから断る~』はモブ転生した私が溺愛を回避しようとするお話です。

●俺様ツンデレ溺愛系●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される
『婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される 』

●読み切り新作全4話●
バナークリックORタップで目次ページ
ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~
『完結●ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~』はサクッと読めます!

●ラストは仰天展開!●
バナークリックORタップで目次ページ
ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??
本編全20話『ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??』

●読者様感謝企画☆新作完結●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~
『完結●ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』はサクッと読める全5話です!

●全6話さくっと読めます●
バナークリックORタップで目次ページ
浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~
『完結●浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~』断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾。

●一番星キラリの超おススメ●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』続編公開&完結!

●新作公開●
バナークリックORタップで目次ページ
乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。
『乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。』は、女魔王が主人公です!

●一番星キラリのおススメ●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告したバナー
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ第二弾
『完結●婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』一気読みがおススメです☆

●一番星キラリのもふもふ作品●
バナークリックORタップで目次ページ
もふもふ悪役令嬢の断罪が溺愛ルートなんて設定していません!バナー
断罪終了後シリーズ第四弾『完結●もふもふ悪役令嬢の断罪が溺愛ルートなんて設定していません!』もおススメです☆

●一番星キラリの悪役令嬢デビュー作●
悪役令嬢完璧回避プランバナー
毎日更新中!『悪役令嬢完璧回避プランのはずが色々設定が違ってきています』もぜひお楽しみください☆

●先手必勝!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ