5:ドタバタ劇は勘弁です
これから向かうのは王太子と婚儀を行う神殿!?
え、もしかして、もうリハーサルをやるわけ!?
あ、だからか!
だから私、ウェディングドレスを着ているのね。
それにしても。
いきなり、リハーサル?
王族との結婚ともなれば、婚約やら顔合わせやら、ほら、あれ!
そう、妃教育とか、そーゆうの。ありますよね!?
“君待ち”では告白してOKで攻略で、婚約の手続きとか、そこら辺、割愛だったけど。攻略したら、お楽しみ特典映像や18禁ストーリー解放がお約束だったわけで。それが終わって、本当に本当の最後でようやく、結婚してめでたし、めでたしで終わりなわけでして。
でも、今はこれ、現実でしょう。
さすがに割愛しないよね?
……いや、妃教育とか、ホント大変そうなので、私は別に割愛ウエルカムですが。でもせめて顔合わせからの婚約期間=ラブラブ期間からの結婚式なんじゃ……。
「いきなりリハーサルなんて、性急ですね」
「リハーサル!? そんなものはございませんよ、サラ様。正真正銘の婚儀です。各国の王族や大使、精霊王様もいらしていますから」
「ええええええ」
「とりあえず、歩いてください」
賢者アークエットは私の手をルドルフに預けると「サラ様をエスコートして、ルドルフ」と告げる。ルドルフは「心得た!」と返事をして、歩き出す。
その間に、私は頭をフル稼働させる。
なぜ、召喚されたら即結婚式!? その理由を考えた。
千里眼の力を欲しているのは分かる。
でもその力は、何も即結婚しなくても、披露するのに。
……いや、披露できるのかな?
一度落ち着いて、瘴気が来た日付を紙に書き出したい。
って、そうではなくて。
召喚されて即結婚の理由だ。
なぜ、すぐに結婚……?
……。
……。……。……。
うううんんん!
ま、まさか。
とんでもない推測に辿り着く。
「あ、あの、賢者アークエット様」
ルドルフにエスコートされ、とても横幅の広い廊下を歩いていた。
人が歩くであろう場所には深緑色のふかふかの絨毯が敷かれ、左右の大理石の床には、等間隔で彫像が並んでいる。
どうやらここは賢者アークエットの屋敷のようで、先程までいた部屋……舞踏会などをやるホールから、今は屋敷の外へ向かい、移動しているようだった。そして賢者アークエットは、私の横を一緒に歩いていた。
「なんでしょうか、サラ様」
「もしかして、デキ婚なんですか?」
とても赤ん坊がここにいるとは思えない程、くびれたウエストに手を置くと。賢者アークエットは首を傾げる。
「できこん……?」
「失礼しました。もしやこのお腹に、王太子様の御子がいたりしますか?」
「えええええ」と叫んだのはルドルフ、「はいっ!?」と仰天したのは賢者アークエット。
どうやらこの推測は……違うらしい。
「サラ様! ノア王太子様は由緒正しきこの国の王太子です! 婚姻前にサラ様に手を出すはずがありません! というかサラ様! あなたはほんの数分前に召喚されたのですよ!! 一体どうやったら御子を宿すことができるのですか! さすがに私の魔法を持ってしても、そんな神秘は無理です!!」
全力の大否定を、賢者アークエットからされてしまう。
私をエスコートするルドルフは「だよな。さすがに無理だよな。賢者様でも無理な話だ」と、爆笑している。
ルドルフも賢者アークエットも。
そうやって笑ったり、全否定をしたりするが。
だったらなんでこんなに急に結婚になるの!?
異世界乙女の千里眼の力は、確かにこの国には必要だ。
だからって“君待ち”の世界観は変っていないハズ。
好感度ゼロでは、いくらなんでも結婚にはならないと思う。
だって“君待ち”は乙女ゲーであり、恋愛ゲームなのだから。好感度ゼロにて結婚では、“君待ち”の世界観がガラガラ崩れてしまう。
そうなると。
やはりノア王太子の私への好感度はMAXのはずなのだ。
そうであっても。
いくらノア王太子の私への好感度がMAXになっていても、それこそこの国の王太子なのだ。手順を踏んでからの結婚式ではないの!?
ということで若干キレ気味にその辺りについて、賢者アークエットを問い詰める。つまりは婚約やら妃教育やらはすっ飛ばすつもりなのかと。
「婚約の手続きは既にすませてあります。妃教育も本来であれば、みっちり受けていただくところですが、今回はチートですべて済んでいますから。召喚時にその辺りの知識は詰め込みました。つまりサラ様は、王太子妃として必要な知識やスキルを既に取得済みです」
賢者アークエットは、実に冷静に答えてくれる。デキ婚は通じないのに、チートは通じるんかい!というツッコミをしたい気持ちを抑える。
そうか、その辺りは済んでいるのか。
それは……大変ありがたいことだ。チート上等、万歳だ。
ようするに面倒なことは、すべて済んでいると。
もはやノア王太子を食べてくださいとばかりに差し出されている状況。それに文句をつける必要など……ないでしょう。
よくよく考えてみれば。
昔は姿絵を交換するぐらいで、いきなり輿入れというのも、当たり前だったのでしょう? 多分。それにかのマリー・アントワネットも、出会ったばかりでいきなり結婚式だったと、歴史の本で読んだ気がする。
つまり……。
召喚されて即婚儀というこの状況も、そこまで異常なことではない……?
自分で言うのもなんですけど。
かなりポジティブシンキングで、状況適応能力が高いと思う、私。
だがそこで、とんでもないことに気づく。
“君待ち”において。
どの攻略対象を選んでも、必ず、邪魔が入っていたことを。
そう、悪役令嬢!
まさか今回、悪役令嬢の一切の妨害を受けず、婚儀を挙げることができるわけ? それともこれから、嫌がらせが始まるとか!? まさかウェディングドレスを着た悪役令嬢が、バージンロードを駆けてきて邪魔をするとか、そんなドタバタ劇にならないわよね……?
さすがにそれは勘弁です。
「賢者アークエット様、悪役……いえ、ジリアン・ジーン・クワイン伯爵令嬢は?」
私が悪役令嬢ジリアンについて尋ねると、賢者アークエットの金色の美しい眉毛が、ピクリと反応した。
本日公開分を最後までお読みいただき
ありがとうございます!
次回は明日、以下を公開です。
朝8時台「悪役令嬢は人気者!?」
20時台「自分ツッコミがはいっている」
では皆様にまた明日会えることを心から願っています!









































