48:ぶどう祭り~二日目~
遂に。
ホワイトセレネ獲得計画を実行する日になった。
ルドルフとは昨晩、今朝と二回打ち合わせをしている。
不測の事態も想定し、その対処法もいろいろと考えた。
だから。
大丈夫。必ず成功する。
気合十分の私は既に身支度が終わっていた。
なぜなら。
着ている衣装はいつものドレスではないからだ。
今日は変装をする必要がある。いつものドレスでは、脱ぐのも着るのも大変だ。でも精霊の女性達が着ているあの古代ギリシャのようなキトンであれば。着脱も楽であるに違いないと考えたのだ。
そこで賢者アークエットにこう頼んだ。
「吊り橋を歩く時、いつものドレスだと動きにくく、歩きにくいのです。精霊の女性が着ている服を、私も着たいのですが……」
この私の申し出に「それはダメです」と賢者アークエットが言う訳はなく。
昨日のうちに、柔らかい紫色――オーキッド色のキトンのような衣装、リーフ型のエメラルドが飾られた留め具、繊細な銀細工が施されたベルト、そして歩きやすそうなサンダルが届けられた。
今朝、試しに着てみたのだが。
楽勝。
一人で着ることも脱ぐこともできる。しかも身軽で動きやすい。正直、変装せず、マントでも羽織り、この衣装のままでもいいのでは?と思うぐらいだ。
いつも通り私を迎えに来たミレーユは、私が自身と同じ服を着ていることに驚き、でも嬉しそうにしてくれている。そしてノア王太子の部屋へ案内してくれた。
朝食は昨日と同じで、皆、ノア王太子の部屋に集合だ。今日は緑黄色野菜たっぷりのスムージーとヨーグルトを、ノア王太子には頑張って食べてもらった。
でも、こんな食事も、もうすぐ終わる。
作戦は絶対に成功させて見せるから。
こうして朝食を終えると、昨日と同じように。
賢者アークエットとレブロン隊長と共に、ぶどう祭りに向かった。
まずは祭事に参加する精霊王とルーナに同行する。今日行われる祭事は、今年収穫したばかりのぶどうを使ったワイン作り。場所はぶどう畑に近い農村のようなところで、精霊王の館から少し離れるが、多くの観客が集まっている。
定刻通りでスタートした祭事では、収穫されたぶどうの実をつぶす工程を、精霊王とルーナが行う。
二人とも、それぞれアルバのような衣装と、キトンのような衣装を着ている。その色は、純白。余計な装飾はなく、留め具と腰紐だけで、アクセサリーも身に着けていない。精霊王は王冠さえつけていなかった。
その姿でぶどうの実を素足で踏みつぶすのだ。純白の衣装は当然、ぶどうの果汁で紫に染まるのだが……。それが正解らしい。服に果汁が飛ぶぐらい大量で、新鮮で、みずみずしいぶどうを収穫できた証になるというのだ。
よって精霊王とルーナは、まるで子供のように、楽しそうにはしゃいでぶどうの実を踏みつぶしていた。
これは服を汚したいと願う私には、まさに好機だった。なんでもこの二人が踏みつぶすぶどうの果汁を浴びれば、今年一年幸運に恵まれるというジンクスまであるのだ。観客はこぞって二人に近づき、果汁が服や手足につくと、大喜び。私もその観客にまぎれ、衣装のあちこちにぶどうの果汁を浴び、賢者アークエットとレブロン隊長の元へ戻る。
そして。
「ワイン作り解禁の祭事もこれで終わりですよね。私もちゃんとフレッシュな果汁を浴びることができました。とはいえ、この甘い香りを漂わせていると、蝶や蜂が集まってきてしまいそうなので、着替えをしたいのですが」
「なるほど。それは尤もですね。では一度、精霊王様の館へ戻られますか?」
いつもの軍服姿のレブロン隊長に聞かれた私は。
「それでもいいのですが、ぶどう祭りが始まる前日に、ルドルフと森を散策し、避難場所として樹洞を確保してあるのです。ここから歩いてすぐの場所に」
「ほう。それは素晴らしい心掛けです。瘴気襲来に備えたわけですね」
レブロン隊長の指摘に「その通りです!」と笑顔で答えた。
そして重要な言葉を付け加える。
「その樹洞には念のためで、着替えやちょっとした食料や水も置いてあります。この森への滞在は明後日までになると思うのですが、一度も使わずに終わるのはもったいない気がするのです。よって館には戻らず、そこで着替えをしようかと」
「いいのではないですか。館に戻るよりも、その樹洞の方が近そうですし」
賢者アークエットがレブロン隊長より先に返事をしてくれた。
これはいい流れ!
「分かりました。ではその樹洞へ向かいましょう」
ルドルフ、やったわよ! 私。
心の中で喜び、私を先頭で三人で歩き出す。
ほどなくして巨大なラクウショウの木々が見えてきて、目印にしている大きな壺も見えた。私は樹洞へと駆け寄る。ちゃんと入口にクローギンアンドレ――精霊達の鈴も飾られていた。
「では、これから着替えをしますね。その……決してのぞかないようにしてください。勿論、そんなことされないと思いますが。あと、恐らく間もなく瘴気襲来の時刻。私はこのまま樹洞の中へ隠れさせていただきますが、お二人は……」
「サラ様。私達は心配に及びません。お分かりの通り、私は精霊騎士の隊長です。そしてコイツは賢者。賢くあざといですから、いざという時にはいかようにも対処できますので、お気遣いなく。ましてやお着替えをされる樹洞の中をのぞくなどという、騎士道に反することはしませんから。この入口が見えぬよう、私と愚弟と共に守りますから。サラ様のよろしいタイミングでお声をかけてください」
レブロン隊長が望んでいた通りの言葉を口にしてくれる。
これにはもう、しめしめ、と思ってしまう。
「レブロン。サラ様の前で随分、皮肉を言うようになりましたね。まあ、いいでしょう。サラ様をお守りするに相応しいのはどちらか。もし瘴気が現れたら、その時にハッキリさせましょう」
賢者アークエットは苦笑いで応じている。
そして私を見ると、礼儀正しく、右手を左胸にあて……。
「サラ様。安心して樹洞でお着替えをしてください。瘴気のことはお気になさらず。いざとなればこの巨木ごとあなたを転移させますから。すべて終わりましたら、お声をかけてください」
巨木ごと転移!?
そ、そんなことできるの!?
そ、それにできたとして、どこに移動するの!?
目を白黒させる私を見て、レブロン隊長がクスクス笑っている。
え、もしかして冗談なの!?
いや、そんなこと今は気にしている場合ではない。
私は二人に「ではよろしく頼みますね」と悠然と微笑み、樹洞の中へ入った。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
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このあともう1話公開します!
12時台に公開します。









































