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44:ぶどうの紅茶は美味しい。でも……

本日すべきことを達成して、精霊王の館に戻ることができた。


いろいろ成果はあるが、最大はクロッカスと心を通わせたことだろう。ルドルフのように卵からクロッカスのことを育てたわけではない。それなのにこれだけ心を通わせることができたのは……。奇跡だ。


そもそもこの“君待ち”の世界に召喚されたこと自体、奇跡だった。多分、私は今、ものすごくツイている星周りにいるのだろう。だからきっと大丈夫。ホワイトセレネの花も手に入る。


不思議な自信に満ちた状態でノア王太子に会いに行くと、感傷的な気分にならずに済んだ。とても楽しい気持ちで、今日どんなところに行き、何をしたのかをノア王太子に報告できた。


「ノア王太子様。目覚められたら、一緒にクロッカスに乗りましょうね。そしてステルンベルギアの花畑にも行きましょう。後はルドルフと行ったあのお店。ベーコンとチーズのキッシュがとても美味しかったので、そこも行きましょうね」


最後はチークキスをして。笑顔で部屋を出た。

その後は……精霊王やルーナとの夕食会だ。


精霊王は賢者アークエットとノア王太子について話し、その後はルーナと二人、ぶどう祭りの準備に追われていたようだ。賢者アークエットは特別にその準備に同行させてもらい、いろいろ見せてもらえたようで、とても満足気な顔をしていた。


夕食会が終わると、私は賢者アークエットに呼ばれ、彼の部屋で話すことになった。


賢者アークエットの部屋に行くと、ぶどうの紅茶を用意して待ってくれていた。山ぶどうと少量の赤ワイン、カシスジャムが入っているということで、ぶどうの香りが広がり、ほんのり甘く、とても美味しい。


ソファの対面の席に座った賢者アークエットは、自身もこのぶどうの紅茶を一口飲むと、早速話を始めた。


「本日、精霊王と話し、一応概要は国王陛下にも報告しています。ただ、まだどうするかの決断はされていません」


賢者アークエットは前置きとしてそう言うと、ふうっと大きく息をはいた。


緊張している……。それが伝わってきた。


「ノア王太子様は、サラ様もご覧になった通り、広範囲に穢れを受けています。手や足などに穢れを受けた比ではないため、会話はおろか、動くことすらできない状態。つまり穢れのレベルとしては、最も重い状況です。そのため、ルーナ様は日に6回、粛清の力で穢れを抑えてくださっています。穢れの範囲が広いため、ルーナ様が使う粛清の力は、一度当たりでも相当なものです。それを6回も使うというのは、並みのことではありません」


そこまで話すと、賢者アークエットは一度紅茶を飲み、喉を潤す。そして再び話し始める。


「ルーナ様がお一人でやっていることを、別の精霊でやるとなると、18人の精霊が必要となるでしょう。一度につき、3人の粛清の力が必要になる計算です。ルーナ様は王族であり、強い力をお持ちの精霊。ですからお一人でこれだけのことをしても、ご自身の日常生活を送れる状況ですが、これがもしルーナ様ではないとなると……。ノア王太子様に粛清の力を使った精霊は、その後、数時間の休息が必要となり、自身の日常生活にも大きな影響が出る……それぐらいの事態なのです」


今の話を聞く限り、その後に出てくる言葉は……。

不吉な予感しかない。


「加えて、現在のノア王太子様は、ご自身で食事もとることもできず、精霊の力で栄養を補給している状況。入浴などは人間でも可能です。でも粛清の力と足りない栄養を補う食事は、精霊の手を借りる必要があります。無論、精霊王様は、そのために何人もの精霊が手を貸すことに文句などはなく、喜んで協力するつもりだと言ってくださりました。その一方で、この事態を鑑み、この館でこの先もずっと看病することを、精霊王様は申し出てくださっているのです。ノア王太子様を王宮に戻すのではなく」


ノア王太子を王宮に戻さない……?

精霊王の館でずっとルーナに看病される……?


「あの、賢者アークエット様、このままここに残るって……。え、あの、では私もここに残っていいのですか?」


賢者アークエットは苦悩に満ちた顔になる。

自身の気持ちを静めるためなのか。紅茶を一口飲んでから話を再開した。


「今のノア王太子様の状態では、即位は無理でしょう。無論、現国王に体調の問題もなく、今すぐ退位する予定はありません。それでも。また瘴気が襲来する可能性もあり、また諸外国との外交もあります。今すぐ、ではなくても、近いうちに、第二王子が王太子になるでしょう」


……!

今、賢者アークエットが言ったことは全て正論。

国の存続を考えれば、当然の判断。

だが。

王太子になるということは。

そんなに楽なことではない。

第一王子として生まれた瞬間から、血の滲むような努力を重ねてきたはずだ。


それのに。


死んだわけではない。

ただ意識がないだけだ。


「そんな……。ノア王太子様は生きていらっしゃるんですよ!?」


「無論です。王太子から退かれても、第一王子であることにお変わりありません。王族であることに違いありませんから。ノア王太子様に与えられている王族の権限がなくなることはありません」


「権限とかそんな問題以前に、第二王子を王太子にして、ノア王太子様はこの館に預け、何もなかったように済ますつもりですか!?」


再び紅茶を口に運ぶ賢者アークエットは苦悩を通り越し、もはや私との会話が苦痛になっているようだ。とても険しい表情になっている。


「皆、ノア王太子様のことを心から愛しています。臣下は皆、忠誠を誓っていますよ。でも、ノア第一王子を精霊王様の館に預け、第二王子を王太子にする――表向き、この案に意を唱えることは難しいでしょう。国に仕える立場で考えたら、この案に反対はできない。我々は感情だけでは生きていけません。守るべき国民がいる。戦うべき敵がいる。そのためには時に非情とも言える決断も必要なのですよ、サラ様」


賢者アークエットは私との会話が苦痛なわけではないのだ。彼もまた、本当は、ノア王太子を廃太子にしたいわけではない。でも、それしか選択肢がないと思っている……。


「なぜ穢れを祓う方法を考えようとしないのですか? あなたは賢者ですよね、アークエット。異世界から私を召喚できたのです。あなたなら」


「サラ様」


金色の瞳が悲しそうに揺れている。

その瞬間、自分がヒドイ質問したのだと気づく。


「ごめんなさい、賢者アークエット様」

「いえ。構いませんよ」


そこでほうっと一息つくと、賢者アークエットは困り顔のまま微笑む。


「賢者という肩書がついてからは、私は“なんでも屋”です。精霊の血をひき、魔法を使える。ならば、あんなことも、こんなことも、できるのだろうと。どんなに魔法が使えても、無限ではないですからね。しかも精霊の血を引いているのに、精霊としての力はほとんどありませんから。それを補うべく魔術を身につけ、魔法を使えるようになった。私は中途半端な存在なのですよ。粛清の力だって使えないのですから」


そこで紅茶をゴクリと飲むと、優しい表情で賢者アークエットは尋ねる。


「私はサラ様の質問にまだ答えていなかったですね。ノア王太子様がこの館に残るなら、サラ様はどうなるか。サラ様はどうされたいですか? ソーンナタリア国が用意できる選択肢はいくつかあります。それはあなたの意に沿うものかどうかは別として。一つ目は、ノア王太子様……ノア第一王子様の妃として王宮に留まる。二つ目は、廃太子と同時に離婚される。三つ目は、新たに王太子になられる第二王子様と婚姻関係を結ばれる。ただ、二つ目を選択した場合、離婚後については、いろいろ厄介事が起こると思います。それは他国を含んだ、異世界乙女争奪戦のようないくさにさえ発展しかねないことが起きるかと」

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