38:手もつないでくださいね。
ホワイトセレネは存在する。
存在する場所の目安もついていた。
そしてルドルフは協力してくれる気が満々だ。
ルドルフの協力を得られば、ダークフォレストに足を踏み入れる必要はない。
だが……。
ワイバーンに乗り、ダークフォレストの上空からホワイトセレネを見つけ出す。
この作戦を打ち明けた場合、どんな反応をされるか……。
想定される反応は。
異世界乙女が感知したのなら、ホワイトセレネは存在するだろう。
だが、目安をつけた場所に本当に存在するのか?
ワイバーンからの捜索。落ちたら、どうする?
ロープに吊るされた宙ぶらりんの状態で、瘴気が現れたらどうする?
そんな風に疑問を提起されるなら、まだましだろう。
最悪なシナリオは問答無用で「ダメです!」と言われることだ。
そうなると……。
慎重にこのことは進める必要がある。
ルドルフは今すぐにでも行こうと騒いだが、それをなだめ、慎重に行動するようなんとか落ち着かせた。そうこうしているうちに夕食の時間が近づいてきた。すると部屋にあの美しい召使いと賢者アークエットがやってきた。
賢者アークエットは夕食にあわせ、魔法でドレスなどを用意してくれていた。ちなみに私がルドルフと話し込んでいる間。賢者アークエットは魔法を使い、国王陛下に王太子の様子を報告するなどしていたらしい。そして美しい女性の精霊の召使いは、ドレスの着替えを手伝うために部屋にやってきてくれていた。名は、ミレーユ。そのミレーユのおかげでドレスの着替えもすぐに終わった。
そのドレスだが……。
とても素晴らしい。
結局、婚姻の儀式の時に着ていたウェディングドレスも、賢者アークエットが用意してくれたものだったわけで。彼のセンスの良さには唸るしかない。
生地は薄い緑色――青磁色を思わせるニュアンスカラーで、動く度に色合いが変化する。散りばめられたグリッターにより、輝くようなドレスになっていた。さらに自然を愛する精霊王へのリスペクトを込めたのだろう。トップス部分とスカートの上部に重ねられたレースには、繊細なリーフ模様が美しいビジューで表現されていた。
用意されたパールのネックレスとイヤリングをつけ、髪はサイドアップにして、パールの髪留めを飾る。
姿見に映る私は……自分で言うのもなんだが。
美しかった。
こんなに美しい姿なのに。
見せたい相手が見てくれることはない。
一瞬涙が出そうになる。
でも綺麗にお化粧もしてくれていた。
睫毛はクルンとカールされ、口紅ののりもいい。
台無しにしてはいけない。
「あの、夕食会の会場へ向かう前に、ノア王太子様の部屋に寄ってもいいですか?」
私が尋ねると、ミレーユは「確認します」と返事をして黙り込む。
一瞬の沈黙の後、「問題ございません。王太子様は眠っている……意識のない状態ですが、お会いいただくことは可能です」とミレーユは私に告げ、部屋の扉を開けた。
精霊同士は遠く離れた相手とも意思疎通を図ることができる。いわゆるテレパシーみたいな力を持っていた。それでどうやら私がノア王太子の部屋に行っても問題がないか、確認してくれたようだ。これはとても便利な力だと思う。
ミレーユに先導され、ノア王太子の部屋へ向かった。
部屋の中に入ると……。
カーテンが閉じられ、明かりがついているぐらいで、部屋に大きな変化はない。
そして。
ノア王太子にも変化はない。
午前中に会った時と同じ。
仰向けで目を閉じ、ベッドで眠っている。
最初は。
背中も見えなかったので、外見の変化を一切感じることがなかった。むしろ初めて見る寝顔にドキッとさえしていた。ただ、目を閉じているだけ。安堵すらしていた。
でも、違う。
何も、変化がない。
変化がないから大丈夫。
そんなことはない。
人間だって哺乳類ということで動物に含まれる。
動物は「動く物」と書く。
動く――それは歩いたり、走ったりだけではない。
喜怒哀楽。
声を出す、匂いをかごうとする、耳をそばだてる。
そう言った些末な行動を含め、なんらかの動きがあるから動物なのだと私は思う。
でも。
今のノア王太子は……。
生きている。
確かに呼吸はしているが。
でもそれだけでしかない。
もうあの輝くような笑顔も、「サラ」と優しく呼びかけてくれることもない。
コットンキャンディーを初めて見たノア王太子は。カラフルな巨大な綿菓子に目を見張っていた。あの時、とても驚いた顔のノア王太子はとても愛らしくて……。
――「サラ、わたしも味見していいですか?」
まるで少年のように嬉しそうな笑顔をしていた。生き生きとして楽しそうに笑っていた。
でも、もし。
穢れを浄化することができなければ。
ノア王太子がこんな風に笑うことはない。
ずっと、ずっと、人形のような状態なのだ。
人形……。
本当に。
美しく綺麗だが、決して笑うことも話すこともない。
喜怒哀楽がないその姿を目の当たりにすると。
泣かない。
そう決めたのに、涙が溢れそうになる。
それでもしばらく心を無にして。
澄んだ青空を思い浮かべた。
深呼吸を繰り返し、なんとか笑顔を作る。
「ノア王太子様。見てください、このドレス。賢者アークエット様が用意してくれたのです。彼はドレスのセンスが抜群ですよね。……これから精霊王様の夕食会に行ってきますね」
掛け布におかれたノア王太子の手をぎゅっと握りしめる。
温かい手。
手をつなぐことはまだなかったが、この手で何度もエスコートされたことを思い出す。
もう一度。
お願いです。
この手で私をエスコートしてください。
贅沢を言わせていただくなら。
手もつないでくださいね。
そのために。
ホワイトセレネを手に入れる。
なんとしてでも、必ず。
ゆっくりその手をはなし、部屋を出ると。
廊下にルドルフがいた。
「ルドルフ、あなたもノア王太子様に会いに来たの?」
「違う、違う。ノア王太子様の部屋に通うのは、サラ様の役目だろう? 寝顔の王太子様の顔を何度も見ても、つまらん! 今度俺が会う時、王太子様には笑顔でいてもらわないと。だろう?」
「ルドルフ……」
強きの発言をしているが。
泣きはらした目は、まだ腫れぼったいままだ。
「王太子様の代わり。俺で務まるか分からないけど。エスコートするよ、サラ様を。夕食会の部屋までさ」
「……ありがとう、ルドルフ」
ミレーユに先導され、ルドルフにエスコートしてもらい、夕食会の会場へ向かった。
このあともう1話公開します!
20時台に公開します。
【お知らせ・完結】
一気読み派の方、良かったらどうぞ!
『悪役令嬢ただし断罪後のハピエン確約で異世界召喚!』
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「私の婚約者となり、悪役令嬢になってもらいたいのです」
――私を召喚した美貌の王太子が、笑顔でそう言った。
さらに。
「断罪終了後、この国で人気の三人の男性のいずれかと婚約できるようにしますから」
えええ、それってどういうことですか!?
ちなみに短編試し読み版(3話収録)の用意もあります。
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まずは試し読みからでもよろしくお願いいたします!
ラストはハッピーエンドなので安心してお読みいただけます。









































