37:解決方法発見と思いきや……
間違いない!
君待ちのイベントで嵐と共に襲来する瘴気、それを倒し、獲得すべきアイテムは「ホワイトセレネ」だ。つまり、ホワイトセレネはこの世界でも実在するということ。
心臓が信じられないほどドキドキしていた。
ホワイトセレネを手に入れれば、ノア王太子を助けられる……!
ただ。
気になるのは。
ダークフォレストに足を踏み入れると、二度とは戻って来られない、ということだ。その理由は……分からない。入ることはできる。でも出ることはできない。いや、違う。戻って来られない、なのだ。
それはつまり……。
ダークフォレストの中には何かがある。
例えば罠、とか?
この罠につかまり、ダークフォレストから戻れなくなる。その可能性が高い。
「サラ様、どうされた?」
ルドルフが不思議そうな顔で私を見ている。
戻れない件はもう少し検討しよう。
その前にホワイトセレネを最初に私に教えてくれたルドルフがいるのだ。彼が知っていることを教えてもらおう。
「ねえ、ルドルフ。ホワイトセレネは一輪だけなのよね? その一輪でどれだけの人を助けられるのかしら?」
「助けられるのは一人だけだ」
「えっ!? たった一人なの!?」
ルドルフは空になったグラスを、出窓のスペースに置き、頷く。
「ただ、ホワイトセレネで救われた者は、他の穢れを受けた者を助けられる――と言われている。それが真実かどうかは分からないけど。まあ……そもそもホワイトセレネの実在について、疑問を呈する者も多い」
「……でもルドルフは信じているのでしょう? そのホワイトセレネが存在すると。でもホワイトセレネは今となっては伝説や伝承だって、ルーナや賢者アークエットが言っていたわ。二人は長い時を生きるから、ホワイトセレネのことを知っていたのだと思う。……ルドルフはどうして知っていたの?」
するとルドルフの顔が不意に真面目になった。
こんな真剣なルドルフを見るのは、初めてだ。
「俺の父親は森で狩人をしていた。スワンレイクの左手にダークフォレストやロセリアンの森があるだろう。その反対側、右手にある森、そこに俺の生家があるんだ。今もそこに母親、姉貴、弟が住んでいる。
ある時、森に突然、瘴気が現れた。数は多くない。たった一体だ。しかもイナゴなんていうふざけた姿をしている。サイズはやたら大きかったらしいが。親父は退治するつもりはないが、追われると厄介だと思い、矢を射かけたが……。ソイツの跳躍力がとんでもなかった。それで……イナゴ型瘴気と接触しちまって……。そこからは、もうよく知られている通りだ。
いつも元気溌剌だった親父が、生きる屍も同然になった。最後は、ある朝起きたら、家からいなくなっていてさ。それっきり」
辛気臭くしたくなかったのだろう。
最後の方は茶化すような言い方をしているが……。
「ルドルフ、その、ごめんなさい。あなたの家族については母親、姉、弟が健在という情報しか知らなくて。お父様が瘴気と接触していたなんて知らなかったの」
「それは当然だ。逆に母親や姉弟がいるって知っている方が驚きだ。ともかくまあ、そんなことがあったから。穢れをなんとかできないかって、調べまくったわけだ。それでホワイトセレネのことを知った」
そうだったのか。
でも……。
瘴気に触れた人間が近くにいたら……。
なんとか助けたいと思うだろう。今の私のように。
「サラ様はホワイトセレネを探しに行きたいか?」
「……感知したの」
「え?」
「ダークフォレストにホワイトセレネがあると。ホワイトセレネは存在している。でも、なぜダークフォレストに足を踏み入れ、戻ることができないのか。その理由が……分からないの。ただ、出られないわけではない。戻って来られないのよね。森の中に何かがある。罠なのか、なんなのか」
私も空になったグラスを、出窓のスペースに置いた。
「異世界乙女のサラ様が検知したのなら、間違いない。ホワイトセレネは伝説なんかじゃない! 存在するんだ! サラ様、ダークフォレストにホワイトセレネを探しに行こう。そしてノア王太子様から穢れを浄化しようじゃないか!」
ルドルフの頬は、信じられないぐらい、高揚としている。その姿はまるで子供のようだ。
「ルドルフ、気持ちは分かるわ。私も同じ気持ちよ。今すぐにでも探しに行きたい。でも行くからには確実に、ホワイトセレネを持ち帰りたいの。計画を立てないと」
「安心しろ、サラ様。俺はホワイトセレネがある言われる場所を把握している。全部で三か所だ」
これには……驚いてしまう。
「どこにあるのか、それが分かるのは大きいわね。でもダークフォレストに足を踏み入れたら、戻ることはできないのよ」
「踏み入るつもりはない」
「え……?」
ルドルフは嬉しそうに笑う。
「クロッカスはダークフォレストの上空を飛ぶことができる。降りることは無理だ。一度試したことがあるが、クロッカスが嫌がる。だからロープで体を結わき、ホワイトセレネがある場所まで降下して、手に入れたらそのまま飛び去ればいい」
「な、な、なる、ほど」
実に呆気ないが、空を飛ぶ。
その方法が取れれば、罠など気にせず行ける気がした。
いや、でも、それなら……。
「その方法なら、私がいなくても……ルドルフ一人でもできたのでは?」
するとルドルフは「違う」と首を振る。
なぜ違うのか、まったく分からない。
「クロッカスはダークフォレストの上空を飛ぶことができるが、落ち着いた状態ではない。宥めすかす必要がある。つまり、俺がロープを使いホワイトセレネがあるところまで降下する間、クロッカスを宥める人間が必要だ。クロッカスは俺に懐いているし、俺が誰か乗せれば、それに従ってくれる。でも俺以外が単独で乗ることは、良しとはしない」
「それは……矛盾をはらんでいるわよね? クロッカスを宥める人間は必要だけど、クロッカスはルドルフ以外が単独で乗ることを許さないのよね?」
ルドルフはこくりと頷く。
それってつまり……。
「もしかしてルドルフがクロッカスに乗った状態で、私がロープを使い、降下してホワイトセレネを手に入れるということ!?」
ハリウッドのアクション大作で、床ギリギリまで降下するシーンがあったが。あれが頭に浮かぶ。あんな風に、私ができるのだろうか……?
「違うよ、サラ様。そんな危険なこと、サラ様にさせるわけがない。降下するのはあくまで俺だよ、俺! サラ様にはクロッカスを宥めて欲しい」
「!? それこそ、無理よ。私、ワイバーンを育てたこともないのだから」
するとルドルフはニカッと笑う。
さらに「問題ない」と白い歯を見せ、笑顔になる。
「クロッカスは俺と同じ。俺はサラ様を気に入っている。クロッカスも俺と同じだ。サラ様のことを気に入っている。だからサラ様が乗って、宥めすかせば、絶対に大人しくなるはず」
「な……、すごく私的な感情に、クロッカスは従うわけ!?」
「クロッカスだって感情を持つからな。好き嫌いがある」
急にダークフォレストからホワイトセレネを手に入れることが、簡易なものに思えてくるが。
そんなに上手くいくのだろうか……?
もちろん。乙女ゲーのイベントなのだ。
ホワイトセレネを手に入れる難易度が、とんでもなくハードなわけがないと思うものの……。
「さすがにいきなりは無理よね? クロッカスが私だけ乗った状態で、ちゃんと飛んでくれるのか、確認は必要でしょ?」
「それはもちろん。最大の問題点は……この挑戦を許してもらえるかどうかだ。夜だったら極秘行動でできるかもしれない。……暗いからホワイトセレネを見つけ出すのが難しいかもしれないが。でもそれよりも何よりも、瘴気は夜に活動する。ダークフォレストで夜間に動くのはリスキーだ。
まあ、鬱蒼とした森の中だと、昼間でも危険だろうけど。それでも夜やるよりはマシだ。でもそうなると、丸見えだ。何せダークフォレストは、ロセリアンの森と河を挟んで隣り合わせだから。確実に精霊王様から止められるだろう」
なるほど。
手段はあるが、周囲の理解を得るのが難しいということか。
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このあともう1話公開します!
13時台に公開します。