36:今は泣いている場合ではない!
スープはすべて、飲んでもらうことができた。
でも。
ルーナの言う通り、ライチを食べさせようとしたが、それは無理だった。無理矢理食べさせることは……ルーナと同じ。忍びなくてできない。足りない栄養は補ってもらうよう、お願いした。
ノア王太子がスープのみの昼食をひとまず終えると、ルーナは粛清の力を使い、穢れの影響を緩和しようとしているが……。それは既に焼け石に水としか思えなかった。
根本的な解決が必要だ。
ノア王太子の部屋を出ると、あの美しい女性の召使いが、今晩滞在する部屋へ案内してくれた。通された部屋は、一面が窓になっており、美しい木々が見え、そして驚く程沢山の鳥の姿も見えている。リス、モモンガ、そして尻尾が長く白黒のワオキツネザルなんかの姿も見えた。本来この森に、ワオキツネザルがいるのは不思議でならないが、“君待ち”の制作陣に、サルを出すならこれ!と決めていた人がいたのだろう。
よく見ると、窓際には収納ベンチが置かれている。
クッションもあった。
そこに陣取る――つまり座ると、外の景色に目をやりながら、私は記憶を辿ることにした。
正直。
感傷に流されそうに何度もなった。
少ないながらも、私にはノア王太子との思い出がある。
朝食を共にし、馬車やボートにも乗った。
何よりも出陣の儀で……。
いや、これこそ、今、思い出してはならない。
あの時のノア王太子の言葉を浮かべたら最後、涙が止まらなくなる。
必死に深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
考えるべきことがある。
それは悲しむことではない。
現状を打破するための手段を見つけることだ。
この世界に召喚される直前。
私はパートからの帰りで、お気に入りのパン屋に寄るつもりだった。残り物のグラタンとサラダ、そしてフランスパンで夕食をとり、君待ちをプレイするつもりだった。
いつものように本編をやるつもりだったが、イベントが予告されていた。
その予告画面を一瞬チラッと見た記憶がある。
元いた世界とこの世界はカレンダーが同じ。
つまり、元いた世界も9月。
そして告知されていたイベントは間違いない。
嵐に乗じて瘴気が襲来するイベントだ。
そうだ。
バナーに。
白く美しい花が描かれていなかったか?
恐らく、イベントであの白い花を手に入れると、イベント限定の衣装やアイテムがもらえたはず。
しかし。
あの花は……。過去のイベントでは見たことがない。
花の下に文字が書かれていなかっただろうか……?
「 をゲットして、限定タキシードを手に入れよう!」
そう、そうだ。
そんな文字が書かれていた。
もう一度目を閉じる。
「ホ ネをゲットして、限定タキシードを手に入れよう!」
そうだ。
最初の文字は「ホ」だった。
白い花のイラストだったので。
どうしても「ホ」から始まる言葉となると……。
「ホワイト」しか思い浮かべることができない。
「ホワイト ネをゲットして、限定タキシードを手に入れよう!」
最後の文字が「ネ」だったというのはなぜか覚えているが。
ホワイトの後に続く言葉はさっぱり浮かばない。
そもそも。
「ネ」で終わる言葉って……。
イネ、タネ、フネ、オネ、ツクネ、ペンネ……。
結構あるな。
でもスペース的に多分、二文字ではない。
かといって、ツクネやペンネのわけがないだろう。
花の名前なのだから!
そうなると……。
マリネ、添い寝、いいね!、高値、鋼、クリオネ……。
うーん、結構ありそうだけど、思いつくのが花に関するものではないな。
そうだ。
ホワイトがつく花の名前で考えるのはどうだろう?
花の名前でホワイトと言えば、ホワイトリリー、白百合だ。あー、最後が「ネ」ではなく「-」だったら、絶対にホワイトリリーなのに。
だがしかし。
花の色が白くても、ホワイトという名前がついてるものが……全然思いつかない!
スズラン、シロツメクサ、カサブランカ、スイレン、スイセン、ジャスミン……。
花は白いが、ホワイトはつかない。
いや英語名だとつく? うーん、分からない。
でもスイセンはナルキッソスとかだったよね、ギリシャ神話に由来して。
どうして、分かりやすい花にしてくれないのだろう。
もっとヒマワリとか朝顔とか、コスモスとか。
せっかくヒントになると思ったのに。
そこで扉をノックする音が聞こえる。
「はい!」と返事をしてドアを開けると。
泣きはらした目のルドルフがいる。
「ルドルフ!」
「……サラ様。その……すまなかったな。恥ずかしいところを見せてしまって」
鼻も真っ赤で。
声もかすれて。
そんなルドルフを見ると、涙がこみあげてくるが、ぐっとこらえる。
「とりあえず、お茶でもする? もう昼食は?」
「さっき、食べたよ。なんか俺って単純だからさ。寝て起きたら、気分はスッキリだった。でも目は腫れぼったいし、声はかすれているし。もう恥ずかしい限り」
部屋に入りながら、ルドルフは伸びをする。
思ったより元気そうでよかった。
「今日は、ここに泊ることになったのよ」
部屋には陶器のピッチャーに、アイスティーが用意されていた。それをグラスに注ぎながら、ルドルフに声をかける。
「うん。それは聞いた。ここに来る前に、まず賢者様の部屋に寄ったから」
チラッとみると、ルドルフはソファではなく、収納ベンチに腰を下ろしている。やはり外の景色が見え、明るい窓際のその場所を気に入ったようだ。
「レブロン隊長のところは?」
桃があったので、手早くカットし、アイスティーの中にいれる。ピーチアイスティーの完成だ。
「一番最初に行ったよ。召使いの精霊に案内してもらって。もう床に額をつけて謝罪したよ……。俺、ホント、恥ずかしくて穴があったら入りたい……」
手を洗い、二つのグラスを手に、ルドルフのところへ向かう。ルドルフは鼻をひくひくさせ、アイスティーのグラスを見て笑顔になる。
「ピーチティー、俺、好きなんだよね。ほんのり甘くて香りもいい」
ふふ。知っているよ、ルドルフ。
“君待ち”の中でルドルフは、甘党キャラだから。
紅茶にも蜂蜜を必ずいれるし、瘴気討伐の時に、お菓子を持参することも知っている。
私が差し出したグラスを受け取ると、ルドルフはゴクリ、ゴクリとピーチティーを飲む。子供みたいな笑顔になり「うまい!」と微笑む。
「ルドルフが穴に入るなら、私も入るしかないわ。私だって精霊王様に失礼な言葉、沢山言ったわけだし……」
「いや、サラ様は、俺とノア王太子様との関係や立場とは全然違う。サラ様が取り乱しても、誰も文句は言わないよ」
「ルドルフは文句を言われたの?」
再びピーチティーを飲むと、ルドルフは首を振る。そしてこう答える。
「気持ちは分かる。みんな同じ。気にするな――そう言ってくれた。レブロン隊長も賢者アークエットも」
「そうだと思うわ。私も同じよ」
そこで私はピーチティーを飲みながら、ノア王太子にスープを飲ませた時のことを話して聞かせた。ルドルフは今にも泣きそうな顔になったが。ちゃんと堪えた。話している私が泣いていないのだ。だから歯を食いしばった。
「サラ様は強いな。よくその状況で……俺、その場にいたら、また……」
「私より強いのはルーナ様よ。自分のせいで、という自責の念があるのよ。それに加え、私が泣くのを見たら……ますます自分のことを追い詰めてしまう。だから泣くのは一旦止めたの。それで、解決方法がないかを考えたのだけど……」
そこで私は、ルーナに聞いた聖獣の話をルドルフに聞かせた。もしも聖獣がと思うが、それは無理であるのだけど、と付け加えながら。
「そうか。そうなるとやはりホワイトセレネしかないのかな」
「そうね。ホワイトセレネ……」
!?
ホワイトセレネ!?
ホワイト ネ……!!
まさか……!
本日公開分を最後までお読みいただき
ありがとうございます!
次回は明日、以下を公開です。
12時台「タイトルサプライズ」
13時台「手もつないでくださいね。」
20時台「思いがけない提案」
タイトルサプライズはタイトルが明日の更新で明らかになるパターンです。たまにあります!
では皆様にまた明日会えることを心から願っています!









































