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33:古い物語

「ルーナ様」


「なんでしょうか、サラ様」


「瘴気はルーナ様が子供の頃から、ずっといるのですか?」


“君待ち”において。瘴気はイベントで襲来するものとして当たり前のように存在していた。そして瘴気についても「災厄をもたらす毒気」としか説明されていない。“君待ち”をプレイする限りでは、その説明だけで十分だったが……。


日常の中に瘴気が存在する世界で実際に生きると、「災厄をもたらす毒気」という知識だけでは全然足りない。長い時を生きる精霊であれば、瘴気についてより詳しい情報を持っているのではないかと思えた。かつ、それがノア王太子の穢れを祓う方法を見つけ出す糸口になるかもしれない。そんな風に思ったのだ。


「瘴気は……。私が本当に子供の頃には存在していませんでした。そして私が幼い時、ロセリアンの森も、今よりずっと広く、ダークフォレストがあった辺りは聖獣の住まいでした」


「え、あのダークフォレストに聖獣がいたのですか!?」


驚く私にルーナは静かに頷く。

そしてお茶を一口飲むと、話を続ける。


「現在、お兄様の元にいる聖獣は3体。その3体を統べる、聖獣がもう一体いるとされていました。まだ幼い私は、その聖獣に会うことはできませんでしたが。一説によると、瘴気はその聖獣により、抑えられていたと考えられています。でも何者かが、その聖獣を死に追いやった……。その結果、瘴気は世界中に蔓延するようになりました。規模の大小を問わなければ、毎日どこかで瘴気が発生している。そんな世界になってしまいました」


「その失われた聖獣とは、どんな……?」


ルーナは残念そうな顔をで答える。


「分からないのです」


「え……?」


「その聖獣は、あのダークフォレストの辺りで守り神のように存在しており、姿を滅多に表すことがなかったと聞いています。ただ、姿を見ることができても、その体は眩い程の光に包まれ、本当の姿は見ることができない……そのように言われていました」


本当の姿は見えない……。

きっとそれだけ高次元な聖獣だったのだろう。

なにせあの三体のドラゴンを統べていたというのだから。


「あの、その聖獣は瘴気を抑えていたと言うことですが、それは具体的にどのようにしていたのでしょうか?」


「そうですね。その聖獣が失われてから、本当に長い歳月が経ちました。もはやその聖獣は伝説、伝承で耳にするような存在。ただ、瘴気はその眩い姿を見るだけで、霧のように雲散霧消してしまうと言われています。その姿を見ただけで、穢れを受けた者は治癒されると言われていました」


……!

そうだったのか。そんなにすごい聖獣だったのか。


「今いる三体の聖獣には、穢れたを受けた者を治癒する力は……」


「残念ながら、ありません。恐らく、ですが、かの三体を統べる聖獣がいれば、今いる三体の聖獣も、ずっと、ずっと強かったと思われます。例えば昨日のような暴風と豪雨であろうと、レッドドラゴンの炎は燃え盛り、消えることはない。穢れを治癒することも、できただろうと」


「一体、誰が、聖獣を……」


悔しくてならない。

そんな聖獣を死に追いやった者は誰なの!?

その聖獣がいれば、ノア王太子だって穢れから解放されるのに……。


「それは分からないのです。……サラ様。失われたものを求めては、苦しくなるだけですよ。これは長い時を生きる私達精霊の、実体験に基づくことです」


「ルーナ様……」


そこでルーナは慈しむような表情になる。

それはまるで聖母マリアを思わせた。


「精霊は自然を愛する。そして人間には関心がない――そんな風に思われますが、そうではないのです。精霊と人間では、生きる時の流れが違います。精霊と人間が心を通わせても、その先に待つのは別離ですから。精霊は自然を愛します。同じように、人間のことも愛したいと思うのです。でも……」


そうか。そうだったのか。

精霊は別に人間という種族が嫌いだったわけではないのね……。


それに、失われたものを求めては、苦しくなる……確かにその通りだ。三体の聖獣を統べる聖獣は失われた。それは取り戻すことはできない。それよりも――。


「ルーナ様は、ホワイトセレネという花をご存知ですか?」


ルーナの顔が驚きの表情に変わる。

そして小さく息を吐く。


「その名を聞くのは……失われた聖獣ぐらい、懐かしいですね。まだホワイトセレネの記憶を持つ人間がいたのかと、驚きでもあります」


「それはつまりそれだけ古い話ということですか?」


ルーナはコクリと頷く。


「聖獣が失われ、その聖獣がいた森からは輝きが消え、鬱蒼とした闇に包まれるような森なってしまいました。そうなってからしばらくすると、まことしやかに噂が流れるようになりました。あの森には、どんな瘴気の穢れでも癒せるホワイトセレネという花が一輪だけ咲いていると。多くの人間が、ダークフォレストに足を踏み入れてました。勿論、止めようとしますが、皆、耳を貸さず。それは……でも仕方のないことなのかもしれません。子が親を、夫が妻を、恋人が愛する人を、助けたい一心でダークフォレストに足を踏み入れる。それを止めるのは……簡単なことではありませんから」


「ホワイトセレネは存在するのでしょうか……? それとも存在していた、なのでしょうか?」


ルーナはティーカップに残るお茶を飲み干し、考え込む。そして、ゆっくりと私を見る。


「分からないのです。私達精霊は、ダークフォレストに足を踏み入れることはできません。ですからこの目で確かめることができない。その一方で、ダークフォレストから人間は戻って来ませんから……。今もダークフォレストの闇の中で、幻と言われるホワイトセレネがひっそり咲いているかもしれないですし、咲いていないかもしれない。真相は誰にも分かりません」


「三体の聖獣はダークフォレストの上空を飛ぶことが出来るのですよね? ホワイトセレネを探すことはできませんか?」


すがる思いで尋ねてみたが……。


「飛ぶことはできますし、瘴気を見つけ、上空から攻撃はできますが……。森へ降下することはできないのです。ダークフォレストの森に、三体の聖獣が降り立つ、それは墜落した時。撃墜されたという状態です。精霊がダークフォレストに踏み入ると、力が弱まります。聖獣もまた同じです。ですから降り立つことはありません。そして一輪の花を見つけ出すのは、砂漠で一粒の麦を見つけ出すのに等しい。そもそもとして難しいと思います」


それは……そうだろう。

でもホワイトセレネは存在しないと決まったわけではない。聖獣は、ハッキリと失われたと分かっている。でもホワイトセレネは……。


「サラ様」


ダイヤモンドのように輝く瞳で、ルーナが私を見た。

真摯な眼差しに、思わず息を飲む。


「ダークフォレストに足を踏み入れ、戻った人間は一人もいません。ただの一人も、いないのです。ノア王太子様の穢れをなんとかしたい。そのお気持ちはわかります。それは……私も同じです。だからといって、ホワイトセレネを求めてはならないと思います」


それは……その通りだ。

唇を噛みしめ、息を大きくはく。


「そうですね。ルーナ様の言う通りだと思います。過去に多くの人が足を踏み入れ戻ることがなかった。そんな場所に私なんかが行っても……。よく理解しました」


ルーナはホッとした顔で微笑んだ。

本日公開分を最後までお読みいただき

ありがとうございます!


次回は明日、以下を公開です。


10時台「兄弟のような絆」

12時台「森の真珠と呼ばれる果物」

20時台「今は泣いている場合ではない!」


では皆様にまた明日会えることを心から願っています!

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