2:乙女ゲーの世界に異世界召喚されました!
あまりの眩しさに目を閉じた。
眩しさが収まったと思ったら、今度はものすごい風。
息をするのもままならない。
それどころか。
かけていた眼鏡も吹き飛んだ。
なんだか着ていた服も……脱げた気がする。
下着も何かも。
え、これはどういうこと?
滝壺に落ちた。
そう思った。
あのキラキラしていた辺りに。
だから眩しく感じた。
でも滝壺といっても。
子供が遊ぶのような公園にあるものだ。
深さも私の膝ぐらいしかないはず。
イグアスの滝のような場所に落ちたなら。
このとんでもない風に吹かれるのも分かるが。
そんな高低差もスケールも、私が落ちた滝壺には勿論ない。
未だ、風が強く目が開けられないが。
もしかして今……全裸!?
それは……非常にまずいと思う。
いろいろな意味で。
というか、私、どうなってしまうのか。
そう疑問を持った次の瞬間。
突然、風が止み、目が開く状態になった。
え。
体が宙に浮いている。
そして服は着ている。
服といってもこれは日常的に着ている服ではない。
ドレス。
しかも真っ白。
これって……ウェディングドレスでは?
ボリュームのあるたっぷりのティアードは、2種類の素材でできており、パッと見るだけでも上質な素材であると分かる。ふわふわと背中あたりでも生地が揺れているから、ロングトレーンであると判断できた。ちゃんと手にはレースの白いロング手袋もつけている。ということはベールも被っているのかと思い、確認すると……。ひらひらとレースが、頭上で揺れている。
ちょっと待って。
素肌に触れ、驚く
なんだか肌艶がすごくいい。
何これ? ドレスにあわせ、ブライダルエステも完了しているの? さらにウエストがかなり細く、それでいてバストが……。ピンと張りがあり、ボリュームもあることに気が付く。
補正下着のおかげ? 何、この谷間。
あ、このネックレス、ダ、ダイヤモンド!?
しかもとんでもないカラット数の気がする。
これは女優さんや海外セレブがつけるものでは!?
あれ。
私、眼鏡かけていたのに、なんでこんなに景色がよく見えているのだろう。
眼鏡なしでもよく見えるおかげで、自分がどうやら雲の中にいると分かり、そこからなんだか街並みも見えてきた。
え、落下している……?
空から落下している!?
うん。間違いない。
落下していた。まさか。……このまま墜落死!?
どんどん迫りくる街並みに恐怖し、目を閉じた。
だが。
「お待ちしていました! なんとか間に合い、良かったです。あなたは、異世界からやってきましたよね?」
低音で深みのあるこの声は聞いたことがある。
耳元で囁いて欲しいランキング1位の、声優さんの声にそっくりだ。そう思いながら、目を開け、声の方を見て固まる。
え、え、え?
目をパチパチさせ、再度、声の主を見る。
間違いない。
か、彼は……。
“君待ち”の攻略対象の一人、賢者アークエット!
まさに三顧の礼で何代も前の国王が、ソーンナタリア国に迎えた逸材だ。魔法を使え、博学、武術にも秀でた、一人三役の賢者様。人間と精霊の間に生れたと言われ、すでに数百年の時を生きている。だがその容姿は、青年としか思えない。珍しい金色の瞳にゴールデンブロンドの流れるような襟足の長い髪。森を思わせるグリーンのローブを羽織り、その下にはシャンパンゴールドのチュニックのようなものを纏い、腰にはゴールドの見事な装飾が施されたベルトをつけている。
透明感のある肌をしており、鼻も高く、耳の形も少し変わっている。どこか人間離れした美しさは、ただ見ているだけで心を魅了されてしまう。彼ではない攻略対象を選んでも、何度も彼に陥落されそうになり、肝心の攻略対象をクリアできなかったこともしばし。それだけとんでもない魅力の持ち主なのだが。
その、賢者フィル・アークエットが私のすぐそばにいた。
夢を、見ているのだろうか?
でも、先程、「あなたは、異世界からやってきましたよね?」と、賢者アークエットは私に尋ねている。
え、もしかして私。
乙女ゲー“君待ち”の世界に、召喚されたの……?
私、“君待ち”のヒロインなの、もしかして!?
そこですぐに思い出す。
ヒロインを“君待ち”の世界に召喚するのは、賢者アークエットだ!
「失礼ですが、言葉は通じていますか? 召喚時に、この世界にふさわしい容姿と衣装、言語、知識などすべて調整済みのはずですが……」
賢者アークエットが、その人間離れたした美しい顔を曇らせた。私はそこで慌てて、返事をする。
「き、聞こえてます! 賢者アークエット様の言葉、理解できています!」
すると賢者アークエットは、輝くような笑顔になる。
「それは良かったです。あなたのファーストネームは?」
「はい。沙羅です」
「サラ、ですね。ではファミリネームはこちらで用意したエヴァンズを使っていただきます」
間違いない。
これは……。
“君待ち”のスタート画面とまさに同じ。
プレイヤーは、“君待ち”の舞台となるソーンナタリア国に召喚され、そこでファーストネームを聞かれる。そこで名前を登録し、用意されているファミリーネームを与えられた。
なんたる幸運!
金塊は見つからなかったが、私は大好きな乙女ゲー、“君待ち”の世界に召喚された。しかもヒロインとして!!
当然だが。
“君待ち”の世界にも悪役令嬢はいる。もしそっちに転生していたら……。断罪を回避するため、それはそれは苦労の連続だろう。それが免除されているなんて。
なんて、ついているの! 私!!
時間差であともう1話公開します!