【一場面小説】ジョスイ物語 〜如水、兵を集め剣豪の雛を赦すノ段
思惑通り、上方で蟄居していた石田三成が蜂起した。如水は徳川内府に付き、九州で石田方を攻める準備に取り掛かった。
「ならば、汝等は来たい時に来い。」
如水は母里井上を突き離した。家老連は戦の準備を密かに進めたい。募兵の高札なぞ立てれば忽ち敵に知れてしまうが、「兵は片下駄、片草履」と主は神速を尊び出陣日を譲らない。
中津の二ノ丸馬場に浪人や地下侍らが押寄せた。武具の支度金まで貰えるから着の身着の儘で来た者さえいる。如水がその様子を満足げに眺めていると奉行の貝原が訴えて来た。二度も金を受取った痴者を詮議している、大殿と同じ播磨者だとか喚いておりますと。
如水は大局を観る。枝葉には拘らない。今は兎も角も兵を集める、これが狙いだ。如水は、その分だけ働いて貰おうではないかと貝原に目配せし、笑んで不逞な若者に其方は播州か。名は、と問うた。
「タケゾウ、武蔵じゃ。」
ニッと歯を見せ、両腕で刀を振りかざす仕草。そして吠えた。金を二度貰ろうたからには両手の刀で一度に二人を切り倒し、倍の手柄を挙げてみせますると。