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光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。  作者: みぃ


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 恐る恐る足を踏み入れた王宮内は豪華で、煌びやかな印象が強い。所々に立っている兵士に、警備の厳重さも窺えて、王族が住む場所だと納得できた。


 こんな場違いでしかない所に、迎え入れられるまま来たけれど、これから蓮の生活がどうなるのかわからない。選択したのは蓮だが、ため息がこぼれるのはどうしようもなかった。


「疲れているだろう。部屋に案内させるから、ゆっくり休んでくれ」


 この世界へ蓮が来た経緯は、馬車の中で話してある。その報告と、伯爵たちに関する後始末を、帰城しだいすると説明されていた。


 これから先のことは、関係各所との話し合いが持たれることになっている。第一王子であろうとも、独断で蓮の処遇を決める権限は持っておらず、結論が出るのを蓮は待つことになった。


「王宮内の案内は、明日にでも」

「はい」

「では、私はここで。後は彼が」


 代わりに現れた、護衛だという騎士に蓮は案内される。身につけている騎士服に使われているカラーが、ディルクのものとは違うことに気付く。


 尋ねてみると、気さくな笑顔と口調で、所属する団によって違うと教えてくれる。軽い雑談を交えながら、特に誰かと面会することもなく部屋に案内された。


 それだけなのに、妙に疲れを感じる。部屋ではクラシカルなメイド服を着た人が、蓮を恭しく出迎えてくれた。


「こちらの部屋を、ご自由にお使いください」


 ホテルのスイートルームのような、印象を受ける。アンティーク調の家具に、絵画、いかにも高そうな花瓶に生けられた花が、華やかに咲き誇っていた。


 寝室は素足で生活できるように改装されているといい、数人で寝られそうな天蓋付のベッドが設えてある。メイドはシーラと名乗り、蓮の専属だと告げられて、言葉を失うとはまさにこのことだった。


「部屋の外に出る際は、控えている護衛騎士をお連れください。わたくしに用がございましたら、こちらのベルを鳴らしてお呼びください」

「あ、はい」

「お食事がまだだと窺っておりますが、用意いたしましょうか?」

「お願いします」


 静かに頷いた後で、シーラは言葉を継ぐ。


「差し出がましいこととは存じますが、わたくしは使用人でございますので、そのような言葉使いは必要ございません。何かございましたら、遠慮なくお申し付けください」


 綺麗な礼をして、退室していく。

 色々思考がついていけず、そのまま蓮が茫然としているうちに、シーラによって料理が部屋に運ばれてくる。王宮のシェフが、用意したものだった。


 並べられた豪華な料理を前に、忘れていた空腹を蓮は思い出す。食べてみると、文句なしにどれも美味しい。けれど一人で取る食事は、味気なかった。


 至れり尽くせり、そんな言葉がしっくりくる状況が整っている。想定外に豪華な部屋で、着替えから何もかもが用意してあった。身ひとつで来ても、まったく困らない環境だ。


 元々、この世界で蓮が持っているものは少ない。それでも数ヶ月暮らしていれば、それなりには増える。買ってもらったものが多く、どうするか迷ったが、置いていかれても困るだろうと、ディルクが持って行けばいいと言ってくれたバッグに、すべて放り込んで持ってきた。


 代わりにもならないが、今までディルクのために作った料理と甘味は、家にある保存庫と、ダーフィットのところにある時間が経過しない保存庫に置いてきている。重さなど何も代わらないのに、バッグが軽くなった気がするのだからおかしい。


「あーあ」


 全部なくなっちゃった、そんな言葉は喉の奥に貼り付いて出てこない。言った途端に現実となって蓮を襲い、悲しみに押しつぶされそうになる予感がした。


(理不尽だよなぁ)


 何もかもを蓮から奪い、ゼロから始めて手に入れたものをまた、この世界は簡単に奪い去る。分不相応な豪華な部屋を与えられてはいるけれど、先がまったく見えないから、不安の方が勝っていた。


(やめやめ!)


 このままでは後ろ向きな考えが大きくなるだけだと、蓮は風呂に入りさっさと寝ることにする。部屋にすべてが揃っているので、その点は便利だ。


 けれど、納得がいかないこともある。なんで、以前蓮が目を背けた下着類が、ずらりと並べてあるんだと目を疑った。


 もちろん冒険心などない。蓮にとって普通の、下着を手に取った。

 わざわざそこから選ばなくても、持ち込んだ下着にすればよかったと気付いたのは翌朝だ。やっぱり、冷静ではなかったらしい。


 朝も朝で、目覚めてすぐ、見慣れない場所に驚いた。すぐに理解が追いつくと、どうしようもなくため息がこぼれてしまった。


 昨夜と同じように部屋に朝食が運ばれてきて、食べ終えてしまうと蓮は時間を持て余す。今までは朝食の準備も片付けも自分でしていて、その後は店に行って、とりとめのない会話をしながら開店準備に追われていた。


(ひまだよなぁ……)


 出歩くのを禁止されているわけではないが、どこに行くにも護衛騎士がつきそうことになっている。従えているようで、どうにも慣れない。


 そのせいで部屋から出ることを躊躇していると、ひまそうにしている蓮に、護衛騎士の方から王宮内の案内を申し出てくれる。興味があったこともあり、ありがたく散策にでた。


 見るものすべてが目新しい。そして場違い感をさらに強く感じる。煌びやかな世界ではあったけれど、蓮にはまるで、豪華な檻の中にいるようだった。


 同じ敷地内に、ディルクがいるのは知っている。思い出せば、別れてまだ数時間程度なのに会いたくなる。どうしようもなく持て余す時間に、店で働きたいとぼんやり考えていると、シーラから声がかかった。


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