表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。  作者: みぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/41

33


 連れ去られそうになったせいか、周囲の過保護ぶりが悪化する。朝もディルクが付き添っての出勤になり、どこかに買い出しとなれば、レオン、ヨリック、リュークの誰かが必ず付き添うようになった。


「自由に出かけられなくて、不便だよな」

「俺はいいんだけど、なんかみんなに悪いなって」

「気にすんなよ、レンと出かけるの楽しいんだからさ」


 優しすぎる人たちに迷惑をかけていることが、蓮は申し訳なくて、心苦しい。だからといって大丈夫と言い切ることもできず、軽くへこんでいると、招かれざる客が現れた。


「ちょっと、いいかな」


 閉店作業をしているところへ、ずかずかと遠慮もなくその男は入ってくる。対応にダーフィットが出ていくと、傲慢が滲み出る顔で、アホボン伯爵と名乗った。


 ダァーメン商会の後ろ盾になっている、評判の悪い家だ。

 それでも伯爵位を持つ貴族なので、街にいる兵では太刀打ちできず、あくどいことをしているとわかっていても、いまだ処罰できないでいる。被害に遭った多くの店や人が、泣き寝入りしているのが現状だ。


「この店で、渡り人が働いているのはわかっているんだよ」


 裏で隠れ、話を聞いていた蓮は、ひゅ、と息を呑む。

 渡り人として知られている容姿とは違うので、今までどこへ行っても気付かれることはなかった。


 なぜ、という気持ちが強くなる。


「ごまかせると思わない方がいい。渡り人の恩恵を独占し、荒稼ぎをしていればわからない方が間抜けというものだ」


 言葉の端々が、どうにもイラつく。

 元はこの世界の住人ではないとはいえ、蓮には特別な力などない。多少アイディアを出しはしたが、それをきっちり形にしたのはダーフィットを始めとしたこの店の人たちだ。


 盗みを働き、安易に利益を得ようとする人たちでは、同じことができるわけがない。その証拠に、真似で始めたシェフのデザート提供も、評判が悪くなっていた。


 対面になれば、繊細な作業を求められる。儲け主義で詰め込んだ予約では、客の望むものが提供されるわけがない。雑な仕上げでは、また足を運ぼうなどと思えるわけがなかった。


「本来保護されるべき渡り人が、働かされているなど嘆かわしい。だから私が保護しようと思ってな」


 違う、と反論したい。けれど今出ていけば、相手の思うつぼだ。

 傍らにいるリュークも、ゆるく首を振って蓮を止めた。


「今まで散々利用し、不当に利益を得たのだから、本来は処罰の対象だ。だが、素直に引き渡せば見逃してもいい」


(はあ? 利用なんて、されてねぇし!)


 理不尽な話を聞いていることしかできないのが、もどかしい。

 働きたいと願った蓮を、雇ってくれたのがダーフィットだ。


「私の寛大な措置に、感謝したまえ。ああ、別れを惜しむ猶予くらいあげるよ。また三日後にくるから、理解に乏しいその頭でよく考えておくことだね」


 言いたいことだけを一方的に話すと、勝ち誇った顔でアホボン伯爵は店を出て行く。色々な感情がこみ上げてきて、蓮は拳を白くなるくらい握りしめた。


 従業員はとっくに帰していたので、今の出来事が外に出ることはない。それを見越して、アホボン伯爵は閉店作業中に来訪したのだ。渡り人の恩恵を、独り占めしようという思惑が窺えた。


 はあ、と深いため息が落とされる。とりあえず店を片付け、全員でダーフィットの家に場所を移した。


 何かをしている方が、気が紛れるので、蓮がいつものように夕食の用意をする。仕事を終えたディルクが来ると、沈んだ空気に何か感じるものあったようで、食事を始めてすぐに話を促した。


 先ほどあったことを聞き終えると、そうか、と言ったきり口をつぐむ。


「なあ、おまえら隣国にかけおちするか?」

「するかっ!」

「かけおち……」


 真剣な顔で考え始めるディルクに、蓮は腰のあたりをばしりとたたく。

 考えんな、と呆れたように突っ込みを入れる。ディルクの経歴を無駄にする選択など、させるわけがなかった。


「まさか、こんな手にでてくるなんてな」

「卑怯なやつらは、卑怯な手段にでるもんなんだな」

「ある意味、渡せって直球だけどな」


 笑い事ではない。

 この店に、蓮によくしてくれた人たちに迷惑をかけたくはなかった。


 一年にも満たない間ではあったが、楽しい思い出はいくつもある。それらが蓮の背を押し、覚悟を決めさせた。


「あのさ」

「ん?」

「俺のこと、王宮に報告してくれるか?」

「レン?」

「だってさ、そーいう話だろ。本来はさ」


 ただの一貴族が、勝手に蓮の処遇を決めていいわけがない。どうせ今の生活が維持できないのなら、本来の王宮に保護される道を選ぶだけだ。


「あんなやつらに利用されんのやだし、でも、身分的に逆らうのは難しいだろ」


 そんな蓮の申し出も、ディルクが渋る。けれど相手が伯爵という身分を盾にしてきていることから、最終的には蓮の安全を最優先するため頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ