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堅物くんと普通の喫茶店  作者: さもはさうえい
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責任取ります。結構です。


夏。田舎だからまだマシだが暑い。そんな暑さを紛らわしたくて、ななみと蛍を見に行く事にした。


暁は「夜にななみさんとなんて破廉恥だ」と訳の分からない事を言ったので数メートル後にでもついてくれば?と言って誘ったが来るだろうか?。


そんな三人?での初お出かけ。ちょっと早めの夕方にななみと向かう穴場の途中。自転車が勢い良く目の前に行く手を阻むように止まった。何だと驚く間もなく、ななみが腕を引かれる。


「は、離して!」


「ちょっとアンタなに!?ななみを離しなさいよ!」


サングラスにマスクの男はななみにしか用が無いらしく、私は突き飛ばされた。怖い。震える手で立とうとすると、私の真横を風がビュンと通った。


「貴様……絶対に許さん!」


低い低い地の底の様な声。暁だ。 暁が来てくれた。泣きそうだ。何でこんなに嬉しいんだ。私。


「あか「くらえ!この下衆がぁ!!」」


何とか立った私に見えたのは暁が男を投げ飛ばす瞬間。そして同時に飛んで来る何か……それはスコーンと私のおでこにヒットした。後ろに倒れる私にデカイ声と可愛い声が同時に響く。


デカイ声に近隣の者が集まり、男が絞り上げれて駐在さんが慌ててやって来る。さすさすとおでこを擦り下を見ればぶつかった物が見えた。


鈍く光る弾丸。ではなくボタン。ああ、あの筋肉ではち切れそうな暁の学ランのかと手に取れば黒いズボンが見えた。暁が珍しく青ざめている。


「お、おまえ、大丈夫なのか!?」


「平気よ。あ!それより、ななみ!ご家族が来るまで励ますのよ!早く!」


チラチラとこちらを見ながら、ななみの方に向かう暁を見送りスカートの土を払う。ちょっと手が赤いけど怪我はない。


「大丈夫?」


「あ、はい」


分厚いぐるぐる眼鏡のお兄さんにハンカチを渡された。気になってたおでこを押さえればちょっと血がついてしまっている。


「あのハンカチが汚れて……」


「構わないよ。安物だからあげる。君は一応病院ね?ななみも強く捕まれたから一緒に行こう。治療して診断書貰ったら申し訳ないけど警察に話に行くよ」


早口で的確な指示をもらい動揺してるとお兄さんは警官に話をしに行った。暁に慰められていた、ななみが「お兄ちゃん」と呼びながらしがみつく。


ななみのお兄さんだったんだ。しがみつくななみを見た暁は頷いて、こちらに早足で来る。どかどか五月蝿い。


「友田。傷を見せろ。他に怪我は?歩けるか?」


「ちょっと、暁!」


ぐいと引っ張り顔を寄せてやれば「な」と暁は真っ赤になった。相手が私でもウブすぎる。


「馬鹿ね!ああいう時はお兄さんに良い男アピールして、ななみの傍に居てやりたいんです!ってポイントを稼ぐの!」


「え、いや。でも」


いつもより覇気がない。ずっと私のおでこを見てそわそわしてる。そんな事をしている間にななみのお兄さんが私達を呼ぶ。


「まあ、今日のはカッコ良かったわ。ちょっとくらっと来たんじゃない?」


「あ、ああ」


反応が薄い。この反応の薄さはこの後に続くまさかの事件の幕開けだった。



あの蛍の事件からしばらく。平和な田舎は事件の話題で持ちきりだった。犯人は何と喫茶で、ななみ見てからずっと狙ってた隣村の男。ななみのお兄さんが色々としてくれて慰謝料やら警察やらの話はスムーズにいった。暁は警察から賞状を貰い。事件は解決していった。


「よ。看板娘。男前になったじゃねぇか!」


ちなみに私の手の怪我は大したことないがおでこにはちょっと傷が残っている。絆創膏で隠れる程度だし医者曰く消える物なので問題はない。


が、私のおでこは暁の学ランのボタンが弾け飛んだ痕。理由が理由なのでからかわれている。


「おじさん。最近仕入れた『タバスコ』入れようか?目玉飛び出るくらい辛いよ」


「はは。こりゃ怖い!知り合いの男紹介してやるから、怒るなよ?な?」


知り合いなんて皆おじさんじゃないかとふんと首を振ってやった。


「おーい。シゲさん俺なんて本当に入れられたんだから、やめてやれ」


父が裏からちょっと出て来て、いらない事を言う。おじさんは「や、本当に悪かったな」と苦笑いで謝ってくれた。


実際、善意なのか良く紹介しようかと言われる。傷も残らないし余計なお世話だ。


「いらっしゃい!」


「ああ」


久しぶりの男が来た。暁だ。彼は何故か喧嘩でもしたのかボロボロで顔を腫らして絆創膏だらけで来た。


「今日、店が終わったらご家族に会わせてくれ」


「ん?いいけど?」


暁はたまに洋菓子や洋食について祖父や父と語り、たまに帰ってくる兄と囲碁をする仲だ。その事かと了承すれば硬い顔のままぺこりとお辞儀された。珍しい。


それから夕方過ぎに暁が菓子折りを用意してうちに来た。


「いらっしゃい。どうぞ上がって?」


「あ、ああ。失礼する」


靴を脱ぎ、きちんと揃え、真っ直ぐに茶の間に向かう。キビキビと動きテレビを見ていた家族が「いらっしゃい」と口にする前に視界から消えてしまう。


「嫁入り前の娘さんの顔に傷をつけてしまい大変申し訳ありませんでした!」


土下座だ。皆、ぽかんとしている。


「責任を取らせて下さい!!」


バカにデカイ声が小さな家に響く。お茶を落とすお母さん。眼鏡がずり落ちたおじいちゃん。口をあんぐりあけるおばあちゃん。


久しぶりに帰って来てた兄は驚きの後で笑う。父も放心してたが正気に戻り、そして……家族皆が爆笑した。


「いやいや、傷ったって一ミリにもみたない傷だ。すぐ消えるし気にすんな!こいつドジだからしょっちゅう青あざ作ってるんだ。今更増えたって平気だよ」


いや、増えるのは困る。それにそんな青あざはと膝を見ればケースを蹴飛ばした青あざ。それは慌て座って隠す。まあ。皆、父と似た言葉を口々に言うが暁は硬い表情のままだ。


「あのね!傷なんて気にしないし……アンタは私や、それにななみを助けたの!警察の人に賞状もらったし誇っていいのよ!」


私の言葉にハッとしたが、また俯く。


「しかし、父には嫁入り前の娘さんの顔に傷をつけてたと、責任を取りたいと言ってしまった。今は勘当中だ」


「はーい。友田家集合作戦会議!」


ボロボロの姿はそれか!とりあえず友田家は母と祖母を残し暁家に行った。デカイ門と屋敷に怯んだが、ちゃんと説明をした。


結婚前の娘さんの顔に傷をの辺りでぶっ飛ばされ「男ならけじめをつけろ」と怒鳴られ、我が家へ来たと言う暁。が、怖い人と怯んでいたが実は常連で祖父と父と海外かぶれ仲間な事が発覚。


息子は洋食が嫌いだと思ってたからと実はこっそり洋食を夫婦で食べに来てた事も分かって、暁は呆然としていた。


お見合い拒否の件で冷めていた(彼の母曰く。良い話だったのにと夫がしつこく拗ねてだけ)だった関係もちょっとは回復しつつあるらしい。


紅茶派と珈琲派でまた揉めたらしいけどね?


暁。父は紅茶アイス派。明は珈琲派。母はどちらでも。暁。父は甘くない洋食。明は甘いお菓子派。母はどちらでも。合わない親子である。因みに上の兄二人は父と弟と違って酒豪なので酒。三男兄は実はコーラ派。

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