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堅物くんと普通の喫茶店  作者: さもはさうえい
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堅物男の恋


いつもの放課後いつもの喫茶店。誰もいないから珈琲を練習がてら入れそれを飲む。そして大好きなアイドルの曲をこっそり流す、この時間が何だかんだで大好きな時間。


「いらっしゃい!」


「ああ」


いつもの変わらない時間にいつもの変わらない人。いや、ある一点でミリくらいしか変われない男が来た。


「彼女は……ななみ、さんは来ていないのか?」


「ななみは今日はバイトだよ」


そう言うと分かりやすいくらいにため息をする男。こいつとも長い付き合いになる。初めて会った恋愛相談を受けた日に裏に居たおじいちゃんとお父さんもデカい声のせいで聞こえてたのか参戦して彼の恋を応援した。


今ではメンバーが増えて家族でだ。


彼、暁 明は決断が早く行動も早く強く勇敢で男らしい。ならばもしかしたら早く話が済むと思っていたが、こいつは恋にはめちゃくちゃ奥手だったのである。


春。


「な、なみさんこの花を受け取って下さい!い、言えたぞ!友田!!」


「その台詞を練習するだけで、どんだけかけてるんですか!春終わっちゃいますよ!?」


「その呼び方じゃ皆が返事する。どうだ。ワシをマスターと呼ばんか?」



「くそ!夏の花は可憐で奥ゆかしい彼女に合わない気がする!!それに暑くて汗をかいた姿で会えない!!」


「だから言ったじゃないですか!うわ、真っ赤!お父さん!氷!!」


「えー……お父さん今、居間で甲子園見てるのに……」


秋。


「よ、よし!渡すぞ!」


「秋には可愛い花があって良かった。頑張って下さい!ところで、もう寒いんでうちの庭で練習止めません?」


「お母さんドライフラワーは薔薇がいいのに……あ!今回も失敗するなんて思って言ったんじゃないわよ!本当よ」


冬。


「ああ、ダメだ。花がない。あっても地味だ」


「だから早くしろって言ったのに!」


「おーい。暁くん。友樹兄貴の次は俺と囲碁やってよ。おもちの数。賭けようぜ?」


……こんな感じで進展せずに同じ事を次の年もやった。ちなみに二年目で同い年だし敬語も止めてやったが女相手にため口でも気にしてないらしい。


真の友になれたと喜んでいた。そして三年目。勝負の年だ。


「友田。今日のオススメ」


「あいよ。今日はナポリタンだよ」


和食以外を食べた事がない彼は初めて洋食を食べてはまった。ナイフとフォークも良く分かってないから、教える事からだったが二年でめちゃくちゃ恋愛以外で成長したと思う。彼はこの田舎の客で一番綺麗に食べていた。


しかもまた美味しそうにだ。特に洋菓子には感動してよく頼む。デカイ男が目をキラキラさせて食べるプリンはなかなか見物だ。器やスプーンが小さく見える。


「今日はバスでななみさんと沢山話せた。幸せだった」


「良かったね」


ケチャップを回し入れながら話半分で聞く。交際を申し込む為のお花は渡せないが、何とか私フォローのかいあって二人は顔見知りにはなれている。私の友達の友達程度だが、この男にしてみたら凄い進歩だ。


顔を見たら赤面震える声が上ずり逃げる。小さい声で聞こえない。とにかく言い逃げる。とまあ、散々だったからね?


「はい。ナポリタンね」


「おお!素晴らしい!頂こう!」


社会勉強の為とトレーニングの為に始めた新聞配りやお年玉はほとんどうちで使われてる。彼は美味そうに食うから客も真似て良い宣伝になっていた。父もおじいちゃんも彼がお気に入りだ。こんなやつが旦那なら……ふとバカな考えが浮かんでぶんぶんと頭を振った。こんな時にはヨシくんだとコイツしか居ないから雑誌を開く。


仲良しこよしカッコよし!仲良し☆トリオのイケメンヨシくん。


仲良しこよし愛想よし!仲良し☆トリオの可愛いニシくん。


仲良しこよし気前よし!仲良し☆トリオの男前キシくん。


今、大人気のアイドルトリオだ。クラスの女子の半分は皆、彼らの恋のとりこ。


「そういえば……ななみさんがそのアイドル?のヨシとやらが好きと言ってたがそうなのか?」


「はぁ?ななみはニシくんファンだよ。勘違いしたんじゃない?」


綺麗にナポリタンを食べ紙ナプキンで口を拭く男に雑誌を持って見せてやる。


「そう?なのか?それにしてもコイツらは痩せすぎだ。筋肉もない」


「アンタがごつ過ぎんの!今の男子はこれくらいはスマートなのが流行りなのよ。バク転だって出来ちゃうんだから!」


納得出来ないのか首を傾げる彼にため息をついて、珈琲を裏の父親に頼む。コイツは食後は珈琲と決まっているのだ。


「はい。珈琲」


「ああ、ありがとう」


砂糖はニ個ミルクは少なめがコイツの飲み方。ほぼ毎日来てるせいで覚えた。


父が元軍人。母が良いとこのお嬢さん。兄達も優秀で二人は海軍。一人は消防士をしている有名なお家だ。


最初、良い所のお嬢さんとの見合いを決められてたが彼は勘当してもいい惚れた人が居ると土下座した。父にボコボコにされたが母は良いじゃないかと許してくれたらしい。


厳しい父に似て真面目で頑固で堅物。女性を見下して居たが恋をして変わった。いい奴なんだ。いい奴だけど意識は一ミリもされていない。可哀そうな奴。


「ちょっと出るけどゆっくりしてて?注文はお父さんにね」


庭にあるオレンジジュースの瓶ケースを取り出して店に運ぶ。馴れたがちょっと重い。そんな事を考えてたら視線を感じだ。振り返るが誰もいない。


「おい」


「きゃ!」


話しかけられて驚いて前を見れば暁が立っている。やはり気のせいだったんだろうか?


「もう帰るの?」


「会計は済ませた」


なら、何故ここにと首を傾げればヒョイと軽くケースを持ち上げられた。


「手伝ってやる。マスターにも許可を得たからな」


「あ、ありがとう」


ヒョイとヒョイとケースを担いで裏に居る父親に渡す姿を見て胸がぎゅとなってしまう。中には彼が怖い何て言う奴がいるが私は知っている。優しい事も笑うと実は可愛い事もいっぱい。


だから、そんな彼をずっと応援したいんだ。普通の喫茶店の普通な友達だけど、どうか、見届けさせてくれないか?


ヒロインと君のバカみたいにキラキラしたラブストーリーを……。


店に戻るとななみが来ていて私と暁に手を振る。真っ赤になって固る奴をこつんとつつくと勇気を出したのか彼は座った。


ななみが座るカウンター席の三つ横にだ。私はため息をつく。


……ラブストーリーにはまだ程遠いらしい。


この頃には明も珈琲になった。ちなみに仲良し☆トリオのデビューソングは恋のはりきりボクら仲良し☆トリオである。B面はボクらの名前覚えてね☆自己紹介ソング。

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