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はじめまして

「で?なんでここに汚いガキがいる?」

「だから先程もお伝えしたように、お腹を空かせていたのでお連れしたんですよ」


 このやり取りはもう六度目だ。


「はーい、お待たせしました。キッシュですよー」

「メイメイ、お前まで……」


 はぁっとため息が聞こえるが、今は目の前の豪華なお菓子やサンドイッチ、キッシュが優先だ。


 コツコツコツと指でテーブルを弾く音が響く。

 これは苛立っている時のサインだ。


「で?腹が減っているガキをここでもてないしている理由を聞いているんだ。アーク説明しろ」

「お可哀想ではないですか。こんなに小さいのに」

「そうですよー。手だって傷だらけで」


 アークとメイメイは各々しゃべり出す。


「だー。二人一気にしゃべるな!メイメイは黙ってろ。オレは今、アークに聞いているんだ」

「だってー、グレイ様。見てください、ホラ」


 サンドイッチを食べていた手を捕まれ、シェルリーの傷だらけの手を見せる。

 薄汚れていて、あちこち切れていた。


「わぁ」

  

 急に掴まれ驚いて声が出てしまった。


「ご、ごめんなさい……」


 先に謝ったのは、声を出したシェルリーだった。普段から大きな声を出したら罰を受けることになっていたので、条件反射で謝る習慣がついていた。


「え、いえ……。私の方こそ、急に掴んじゃって……ごめんね」


 シェルリーの反応を不審に思い、グレイは立ち上がり近付いた。


 ぶたれる……。


 恐怖でぎゅっと目を閉じ俯いた。力を込めれば痛みも多少は感じない。


「何もしないから、目を開けてごらん」


 その声は穏やかで優しかった。シェルリーはそっと目を開ける。目の前には同じ目線に合わせてきた、綺麗な青い瞳とシルバーの髪の美しい顔立ちが飛び込んできた。


「わぁ、キレイ……。お、お姫様みたい……」

「お姫様……」


「ぷっ」

「ダメですよー、メイメイ笑っては、ぷぷっ」


「アーク、お前もだ」


 ギロリと青い瞳で従者二人を睨みつけた。


「オレは、グレイ・マーモット。十四歳、男だ」


 大きな青い瞳に雪のような白い肌。線が細くスラリとしているから、てっきり女の子かと見間違えてしまった。


「ご、ごめんなさい。とってもキレイだから……」

「いや、いいんだ。で?君は?お嬢さん」


「え?」


 アークとメイメイは、耳を疑った。


「グレイ様?今、お嬢さんって言いましたか?」


 アークがシェルリーをジッと見つめた。


「ほら」


 深く被っていた大きな帽子をグレイが取った。すると、三つ編みにしていた長い髪がポロリと左右にこぼれ落ちる。


「あ……」


 てっきり小さな少年かと思っていアークとメイメイは言葉を失う。


「お、女の……子……」


「名前は?お嬢さん」

「しぇ……、シェルリー……、です……、グレイ様……」


 下の名前は言えなかった。トワレの名前を出したら伯爵家の娘とバレてしまう。そうなったら、母からどんな仕打ちを受けるか想像しただけで恐ろしい。


「様はいらないよ、シェルリー。グレイと呼んで。こっちは執事のアーク。メイドのメイメイ」


 二人はシェルリーに微笑みかけた。


「アーク様、メイメイ様、お、美味しい食べ物やお茶ありがとうございます」


 シェルリーは深々と頭を下げ、二人にお礼を伝えた。そんな健気なシェルリーを見て、メイメイの瞳は涙で潤み始める。


「シェルリーちゃん、私もメイメイと呼んでね。様はいらないから」

 

 そっと傷だらけの手に、自分の手を乗せた。


「私のことも、どうかアークとお呼びください。シェルリーさん」


 そして、アークも大きな手をそれに重ねる。二人の温もりを感じ、自然に笑顔がこぼれるシェルリーだった。


「手を見せてごらん」


 グレイに言われるがまま、小さな傷だらけの手を見せた。

 新しい傷、古い傷と無数にある。


 その小さな手をグレイの少し大きな手が包み込む。ふわりと柔らかい光を放ち、みるみるとシェルリーの傷を癒していった。


「す、すごい……」

「治癒の魔法だよ」

「魔法……」


 おとぎ話でしか魔法についての知識はない。まさかこんな自分が、本物の魔法使いに出会えるとは夢のようだった。


「あ、ありがとうございます。グレイ」


 泥だらけの顔で微笑むシェルリーだった。


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