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初めての誕生会

 月下美人のエリアにある一級魔法士グレイの部屋に戻ると、メイメイがいつも以上ににこやかな笑顔で待っていた。


「さぁ、シェルリーちゃん。お着替えをしますよ」

「え?どこかへ行くの?」

「はい。なのでキレイにしないとねー」

「どこに行くの?」

「んー。それはまだ秘密ですよー」


 楽しげな会話をしながら、メイメイは手際よく着替えと髪型をセットしていく。

 胸元にはリーリーとお揃いの青い石のペンダントが光る。


 このペンダントと同じ色が入ったドレス。つまり、グレイの瞳の色のドレスをまとう。前回の赤いドレスとはまた雰囲気がかなり違った。


「キレイなドレス……」

「でしょ?勿論、グレイ様がシェルリーちゃんの為に用意されたものよ」

「こんなにステキなドレス着てどこに行くのかしら?また、ルイのお茶会があるの?」


 シェルリーはドレスの裾を摘み鏡の前でクルクル回って、自分で全身を確かめた。着実に身長も体つきも成長をしている。それが自分でも分かって嬉しかった。


 コンコンコン


「着替え終わったかな」

 ガチャリと扉が開き、シェルリーの部屋にグレイが入ってきた。前回のお茶会の時のように髪をアップにしていたので、思わずシェルリーは頬を赤らめる。


 先日の初めてのグレイからのキス以来、なぜかグレイを見ると心がトクンと弾むようになったのだ。


「グレイ、これからどこかに行くの?」

「あぁ、そうだよ。だから君を迎えに来たんだ」


 場所まではまだ教えてもらえない。そして、グレイはいつものようにシェルリーを抱き上げるのではなく、手を取り淑女をエスコートする様に並んで歩き始めたのだった。


「グレイ?」


 訳もわからず、そのまま一緒に歩続ける。そして、いつも他の一級魔法士やその弟子達が集う部屋の前までやってきた。


「さぁ、シェルリー。扉を開けてごらん」

 

 グレイに促され、扉のノブに手をかける。こんなことは初めてだったので、少し不安げな表情で隣に立つ魔法使いの顔を見上げながら扉を開けた。


 ゆっくりと何かを確認しながら開いていく。扉が半分まで開いたところで、突然、パーンと言う破裂する音が響いてきた。


「きゃっ!」


 驚いてグレイの胸の中に飛び込んだ。


「シェルリー、お誕生日おめでとう‼︎」


 部屋の中から一斉に現れたのは、ルルカにムーラン。その弟子のリュークとリーリー。


 さらに、先程まで一緒に散歩をしていたラルク。そして、この国の第一王子ルイハーグリットまでもがいた。


「え?え?え?」


 訳が分からず、皆の顔を順繰りと見て、それから隣にいるグレイを見つめた。


「シェルリー、誕生日おめでとう」


 そう言って、いつものようにグイッと抱き上げ皆が待つ部屋の中に入った。室内は美しさと可愛らしさを兼ねそらえた飾り付けが施され、テーブルにはたくさんの美味しそうな料理が用意されていた。


「わぁぁ」

「シェルリー、本当は今朝一番に君におめでとうを伝えたかったけど、みんながサプライズパーティをやりたいって言ってね」

「え?」

「さぁ、シェルリー、みんなでお祝いしましょう!」

 

 ルルカが嬉しそうにグレイからシェルリーを奪っていった。珍しく素直に渡すグレイ。


  執事のアークとメイドのメイメイがグラスを渡していく。ルルカに降ろされたシェルリーは皆に囲まれて少し放心状態の様子だったが、ジュースの入ったグラスで乾杯し次々に「誕生日おめでとう」と声をかけられると、ようやく自分を祝ってくれていることに実感が湧いてきた。


「誕生日……」

「ん?」


 リュークが水色の少し長めの髪をかき上げ、シェルリーの顔を覗き込んだ。


「私の……、誕生日……。なのね……」

「そうだよ、シェルリー。君の誕生日だ。みんなお祝いしたくて集まったんだよ」


 リュークの言葉に、シェルリーは緑色の大きな瞳を潤ませた。こんなにもおめでとうの言葉をかけられたのは人生で初めてだった。


「おい、シェルリー。オレからのプレゼントだ!」

「え?ムーラン様から?」


 テーブルの上の大きなお皿にてんこ盛りに置かれているチキンの山。


「フライドチキンだ」

「フライドチキン?」


 初めて見る。とても食欲をそそる良い香がしてきた。ムーランが一つ取ると、豪快に食べ始めた。


「んー!うまい!早くお前も食え、シェルリー」

「まったく。シェルリーにはまだこんな脂っこいもの食べさせてないと言うのに……」

 

 グレイがため息を吐く。

 他メンバーも美味しそうにバクバクとジューシーなフライドチキンを堪能している。第一王子ルイハーグリットも初めて口にしたようで、目を輝かせながら「うまい!」と感動していた。


 シェルリーの口に中で唾液が溢れてくるのが分かった。

 確認するかのようにグレイの顔を見る。


「食べたいのか?」


 その質問にウンウンと何度も頷く。まるで、おやつを待つ子犬のようだった。


「少しだけなら……」

 そう言って小さめのフライドチキンを取り、グレイの手からシェルリーの口元に持っていき食べさせた。


 パクリと小さな口でチキンをかじる。ジュワーっと口の中いっぱいにフライドチキンのジュシーな油が広がった。


「んー!おいしい‼︎」


 頬を手で押さえてモグモグと味わうシェルリー。その姿を見たグレイも、シェルリーのかじったチキンを自分も食べてみる。


「んー、確かにうまいな」

「だろ?オレ様の一番のオススメだ!」


 ムーランは満足気に頷いた。


「シェルリー、これは私からよ」

 そう言ってルルカは可愛らしい小瓶に入ったキャンディを渡した。

 色とりどりの小さな粒はシェルリーサイズだった。


「可愛い!」

「フフ、シェルリー。これはねただのキャンディじゃないのよ。魔法がかかっているの」

「え?魔法が?」

「ルルカ、お前妙なもの渡すなよな」

「あら?これはグレイのためでもあるのよ?」

「はぁ?」


 妖艶な笑みを浮かべる一級魔法士ルルカは、赤い髪を指にクルクル巻き付け楽しそうにシェルリーに顔を近付けた。


「いい?この青いのがネコ。ピンクがウサギ。茶色はサル。黄色が翼。そして赤が大人よ」

「ん?」


 ルルカの言っている意味が分からずキョトンとした表情でキャンディの小瓶を見つめる。


「まぁ、説明するよりまず口に入れてみて。ピンクからどうかしら」

「ピンク?」

「いい。あとで食べさせる」


 小瓶を開けようとする手を止めて、グレイが取り上げた。グレイにはルルカの言っている意味がしっかりと理解できていたので、あえてやめさせたのだった。


「あら?私も見たかったのに、残念。いい?これは、これからの旅で必ず必要になるものよ」

「え……」


 ルルカは大きく頷く。

 知っているのだ。シェルリーが虹の花を求めて、危険なドラゴンの谷に向かうことを。


「ただし、この赤いのは本当に必要な時だけ。無闇に口に入れてはいけないわ。キャンディの効力は約1時間」

「はい」

「赤は確か大人でしたね、ルルカ様」


 そう言ってきたのは王宮騎士のラルクだ。

 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、シェルリーの金色の頭をぽんぽんと撫でる。


 グレイよりも前に、ペシッとすかさず黒ネコのもふもふの毛のフィーがラルクの手をはたく。フィーのここ最近の役割は、ラルクからシェルリーを守ることになり始めていた。


 その行動にグレイも満足げな様子だった。


「ラルクの前で食べるのはやめておいた方が良さそうね。これはグレイの前だけにしておきなさい、シェルリー」

「はい、ルルカ様」


 素直に頷く。


「私からは、これよ」

 リーリーが可愛らしいリボンの付いた包みを渡してきた。シュルリとリボンを引くと、中からは以前リーリーがお茶会で来ていたデザインのドレスが入っていた。


「ふぁぁ!可愛い‼︎」

「シェルリー用のチャイナドレスよ。きっとグレイ様が喜ぶと思って」


 楽しげにリーリーが説明する。


「魔法がかけられているから、このドレスを着たままルルカ様の赤いキャンディを食べても大丈夫。服のサイズがちゃんと体にフィットする様になっているからね」


 バチンとグレイに向かってウィンクしてくる。ウッっと声を上げ、シェルリーとチャイナドレスを見比べた。


「リーリー。お前もか……」

「シェルリーにとっての一番のプレゼントは、グレイ様が喜ぶことですから」

 

 若干十三歳とは思えない発想だ。さすが、王宮育ちでもある。王宮侍女は噂話などの男女の色恋話が大好物だ。


 ムーランとリーリーは当時一級魔法士として活躍していた現国王陛下に命を助けられて以来、この王宮で生活をしていたのだ。生まれたばかりのリーリーはある意味、生粋の王宮育ちでもあった。


「じゃあ、今度は僕から」


 少し遠慮がちに水色の髪のリュークが飾り細工が施された美しい箱を手渡す。陶器のようなきめ細かい美しい肌に線が細く、儚さがあるリュークは女の子と見間違うほどにキレイだった。


「ありがとう、リューク」


 箱の中にはガラスペンとインク壺。そして、金や銀、色とりどりのマーブル模様が入った紙がセットになっていた。


「きっとこれから本格的に勉強が始まるだろうからね」

「はい!いっぱい勉強します」


 笑顔でリュークに返事をする。


「じゃあ、オレからのプレゼント」


 緑に髪のラルクが近付き、小箱を渡す。ちょうどシェルリーの手の平サイズだった。リボンと花が飾られている。


「ラルク……、お前まさか……」

 

 グレイが睨みつける。


「ち、違いますって。そんなことまだしませんから」

 

 慌てて両手を前に突き出し、手を振る。

 シェルリーが小箱のリボンをほどくと、中からは可愛い黒ネコの耳飾りが現れた。

 瞳にはダイヤモンドが使われていて、愛らしさと豪華さがマッチしていた。


「わぁ、黒ネコだ!」


 喜ぶシェルリー。複雑な気持ちのグレイ。

 もともとシェルリーが黒ネコを好むのは、ルルカのユリのエリアの魔法で、ネコ耳姿になったグレイが黒ネコだったことが発端だった。


 だから、ぬいぐるみを選んだ時もシェルリーはあえて黒ネコをチョイスしたのだ。


 その事実を知らないラルクは、単にシェルリーが黒ネコ好きだと思っている。


「グレイ、着けてください」


 自分では、やり方が分からないのでグレイにおねだりする。


「オレが着けようか?」


 ラルクが手を伸ばすが、スッと小箱ごとグレイが持っていく。金色の艶やかな髪をかき上げ、小さく形のキレイな耳に黒ネコを着けてあげる。


「うん、可愛い」


 シェルリーはメイメイが持ってきてくれた鏡で自分の耳を見て少し恥ずかしげにちょんちょんと、耳飾りに触れる。


「ありがとう、グレイ」

「プレゼントしたのはオレだけどね……」


 そっと呟く。

 リーリーはラルクの肩をポンと叩き、ご愁傷様と一言伝える。


「じゃあ、オレから……」


 第一王子ルイハーグリットが少し顔を赤らめてシェルリーに近付いた。他の者の視線が一斉に集まる。

 フライドチキンをむさぼっていたムーランの手も止まった。


 王族から直々に誕生プレゼントを贈られた者はここには誰もいないからだ。一級魔法士でさえそれは例外ではない。


 唯一賜るのは、その地位とそれに似合った宝石の勲章のみ。

 

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