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ある雨の日

虐げられて生活していた幼い令嬢と魔法使いのお話。真っ直ぐ、純真無垢に美しく育ったシェルリーは、様々な経験を積んで成長していきます。幼女から大人の女性へ。逆ハー的要素、溺愛魔法ファンタジー世界。


 この日は珍しく、朝から雨が激しく降り続いていた。窓ガラスに雨が叩きつけられ、激しい音を立てている。室内の会話もうまく聞き取れない。


 トワレ伯爵邸。伯爵家と言えども、領地も小さくあまり財はなかった。


 そんなトワレ伯爵邸では前日の夜から、妻が産気付き医師や看護師が夜通し付きっきりになってお産に取り掛かっていた。


 トワレ伯爵にとっては初めての子供になるので、いても立ってもいられない。時間のみが刻々と過ぎていく。


 ようやくガチャリと妻がいる部屋の扉が開いた。中からは、医師が血の付いた白衣をまとって現れた。


「先生……」


 医師が出てきた。しかし、部屋からは赤ん坊の泣き声は聞こえない。


 言葉が出てこない。不安で胸が締め付けられる。医師の目をジッと見つめる。しかし、医師はゆっくりと首を左右に振った。


 崩れ落ちるようにトワレ伯爵は床に座り込み、涙を流した。


「ダメだ……」

「え……」


 ギロリと光トワレ伯爵の瞳を見た医師は固まった。


「頼む……。妻を……助けて欲しい……。このまま子供が……」

「しかし、そんなことは……」

「この金で何とか……」


 トワレ伯爵は家の金をかき集めてきて医師に手渡した。


 医師はしばらく握らされた金を見つめる。ギャンブルで借金がある。今すぐにでも大金が欲しい。


 コクリと頷き、妻がいる部屋へと戻って行った。




*



 あれから十年の時が過ぎ去った。


「シェルリー!どこにいるんだい!シェルリー!」

「は、はい。お母様」

「遅いよ!あんたは本当にグズだね!」

「申し訳ありません……」


 深々と頭を下げる。手はあちこち擦り切れ、服は破れていた。靴には穴が開き、髪は三つ編みに結っているがほつれ、埃まみれだった。


「お母様、お姉様は今私の髪を結っていてくれたの。許してあげて」


 そう言ってきたのは、亜麻色の髪を綺麗に編み込みに結われ、瞳と同じ紫のリボンを飾った妹ブロッサムだった。


「まぁ、ブロッサム。お前は本当に心優しい子だね。こんなできそこないにも慈悲深いなんて」

「だって、私の大切なお姉様ですもの。私、お姉様がいないと困ってしまいますわ」

「たしかに、シェルリーはこのトワレ伯爵家にはなくてはならない存在だからね」


 同じく亜麻色の髪を結い上げた母は、下品な笑みを浮かべた。


「シェルリー、今から農場に行ってきな。野菜と果物をしっかり調達してくるんだよ!」

「は、はい……、お母様」


 再度頭を下げ、部屋を出た。


 ふぅ……。


 息が漏れる。もう、涙は枯れ果てた。泣いても解決できないことは充分理解したから。


 裏庭に回り、荷車を引っ張ってきた。木製の荷車は何も乗せていなくてもそれなりの重さがある。十歳の痩せ細った少女には重作業だったが、これをやらないと唯一の食糧にありつけない。


「くっ!ん……んん……」


 からの荷車を、気合を入れて運ぶ。数キロ先にある農場に行くためだ。この農場は、もとトワレ伯爵家に仕えていた使用人が運営している。


 父であるトワレ伯爵は二年前に事故で亡くなった。その後、財を少しでも残すためと母が伯爵家にいる使用人全員を解雇したのだ。


 使用人の代わりに、屋敷内の仕事をやる人間が必要だった。そこで白羽の矢が立ったのが長女のシェルリーだ。


「シェルリー、今日からお前が屋敷の仕事を一人で全部やるんだよ」

「え?」


 まだ幼い弟と遊んでいたシェルリーは意味が分からず、緑の瞳をパチパチと瞬かせた。美しい金の髪には可愛らしい花飾りが。シェルリーの美しさをより一層華やかに彩っていた。


「もう、こんなもんはお前には必要ないよ」


 母はシェルリーの花の髪飾りを金の髪から無理矢理剥ぎ取り、床に叩きつけ靴で踏みつけた。目の前には粉々になった花の破片が散らばっていた。


 この日から、シェルリーの人生は一変したのだ。


 朝は日が昇る前に起床する。朝食の準備と屋敷の掃除。庭の手入れ。

 

 庭の手入れは特に重要だった。外からその屋敷の優劣が判別されるからだ。庭が荒れていれば、その屋敷は没落しているとすぐに分かってしまう。


 母はそれを嫌った。とにかく、人の目を気にしているのだ。


 そのため、シェルリーにも絶対に人目のある時間帯の庭仕事はしないようキツく言いつけていた。幼い少女が一人で庭の手入れをしていると知れ渡るのも嫌がったのだ。


 シェルリーは言いつけを守り、朝日の昇る前か、日が落ちた夜に手入れをしていた。


 農場に向かう時は髪を帽子の中に入れ、ズボンを履き、少年の姿に変えて向かった。どこかの御用聞きの少年が新鮮な野菜や果物を届けている体を装っていたのだ。


 ギィ、ギィ、ギィっと、荷車は軋みながら進む。道は舗装さえていないので、時折石に引っかかり歩みが止まることもある。


「あ……」

 

 いつもの道に大きな木が倒れていた。ここが通れないとなると、少し回り道をしないとならない。


 仕方なく、シェルリーは荷車を反転させまた来た道を戻り、もう一つの道を進んで行った。



少しずつ更新予定です。良かったらブックマーク、評価をお願いします。


他作品「第二王子はへっぽこ悪役令嬢に溺愛中」があります。



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