知ってる?黒くなる目のその噂
ねぇ、知ってる?
黒くなる目の、その噂。
教えてあげようか?特別だよ。
かたたん、とたん。
昨日の夜、二人でベッドの中で散々くっついて、今朝の電車の中でもこうして隣同士座っていると、我ながらよく飽きないなって、思う。
「ねぇ、今度は忘れてない?」
「大丈夫。ちゃんと、入ってるよ」
「そっか。よかった」
よかったのか、良くない気もする遊びは、けれど、一番幸せな時間だ。
二人の時に、一番温かさを感じる。鼓動を、熱を。
それがきっと、生きているって実感なんだと思う。
「なにそれ。哲学?」
「えっ、違うよ。んーだから、そうだなぁ、あっ。うん、ありがとうって、こと」
「ええ?大丈夫?」
そんなことを言ったら、笑われた。
彼女は分かっていないなぁ、と苦笑する。
そういえば、と。
こうして電車の中で彼女と談笑している時、いつもあの時のことを思い出す。
助けてくれた、お姉さんのことと――。
「あ、そうだ。知ってる?黒くなる目の噂」
「ええ?なにそれ」
「なんかね、黒い目をした人に襲われると、自分の目が黒くなって、こっち側の世界に帰ってこれなくなるんだって」
「えー、何か、作り話っぽい。それにそんな感じの話、どっかで聞いた事あるような気もするし」
「そうかなぁ。うん、なんか、そんな気がしてきた」
そう、あの時は確か、変な人に絡まれたところを、お姉さんが助けてくれたんだ。
あの後は、お姉さんがウチに来て、ご飯を食べてから帰っていったんだっけ。お母さん、娘をありがとうございますって、ちょっと泣いてたっけ。
そういえば、あの時お姉さん、なんて言ってたっけな。
「あ、着いた。降りよ」
「うんっ」
連絡先、聞いておけば良かったな。
お姉さん、元気かな。
「そうだ、今日の課題、私が当たる番だから見せてよ」
「ええ、またやってこなかったの?休み時間教えてあげるから、自分でやった方がいいよ」
「えー、めんどくさーい」
「もうっ、仕方ないなぁ」
また、会えたらいいな。
ぽっかり空いた二つの席には、なぜか、その日、誰も座ろうとしなかった。
どうして、とその日たまたまそこに居合わせたどの人間に聞いても、明確な答えは返ってこないだろう。
立ってみたかったとか、座る気分じゃなかったとか、女子高生の後に座るのは気が引けるという者もいるかもしれない。
そして、中には。
その席に座る、黒目の人間を見た者も、いるかもしれない。




