1 私を崇める美人の幼馴染がいまして
新連載です、よろしくお願いします!
「フリージア様、ごきげんよう! 今日もとても素敵ですわ、オーラが違います!」
「ジャスミン様、ごきげんよう。あの……、そう思っているのはジャスミン様だけなので、ね? 家に入りましょう?」
「いけません、私ったら……! フリージア様の肌が焼けてしまったら大変です! 今後お出迎えは結構ですから、中にいてください、中に!」
「お、おほほ……」
お分かりいただけただろうか?
私、フリージア・ドントベルンを、彼女、ジャスミン・ユルート伯爵令嬢は、何故か小さな頃から崇拝している。
これを崇拝と言わずして何と言おう。うっかり、本当にふざけて、靴をお舐め、と言ったらやりかねない。本当にその勢いで慕われている。
私は侯爵家の娘で、ユルート伯爵家はいわゆる分家だが、お互いの家の関係は良好。王都に居ることが多い私たちは、小さな頃から同い年の良い遊び相手で、そして今も3日と空けずに遊びに来る。
淑女教育はお互いに受けているし、それに差し障ることは(なんせ、彼女は私の不利益になる事はしない)ないにしても、お陰で一度も他のご令嬢のお茶会だとかに参加できた試しがない。先んじて私の予定を自分で埋めていく、それが彼女だ。
彼女がいうには、フリージア様を下手に人前に出すと私が独り占めできなくなる、という訳の分からない理由で敢えてやっているらしい。押し切られる私も私だけれど、私は彼女より自分のことを評価していない。
私の髪はブルネット色で特徴もないストレートに、茶色の瞳。対してジャスミン様は金髪に夏の青空色の瞳。
顔の造作も……周りのご令嬢に失礼なのは百も承知で、私はテンプレート顔、どこにでもいる顔、平凡、と思っているが、ジャスミン様は余りに整いすぎていて眩しいくらいだ。本当、王太子に見染められてもおかしくない。
だが、彼女は私が一番好きなのだ。残念なことに。恋愛的な意味は一切なく、人間の中で、あらゆる生命の中で、ジャスミン様は私を最優先にしている。
そして、私にそれを求めない。私には幸せになって欲しいらしく、何故王太子殿下が放っておくのかわからない、むしろ近隣諸国の王族がこぞって婚約を申し込んでもおかしくない、と本気で信じている。落ち着いて欲しい。
これは全て妄言ではなく、もうすぐ17歳のデビュタントを迎える私が、これまでジャスミン様に言われてきた言葉だ。本当に、もう、こんなものは可愛い位に、崇拝されている。
「フリージア様? 聞いてらっしゃいます?」
「はっ……、ごめんなさい。何のお話だったかしら?」
「デビュタントのドレスの話です! フリージア様は何色のドレスにされるのですか?」
いけない、思考を飛ばしていた。3日と空けずに来るものだから、さすがに話題もない……と思うのだが、何かしら話を持ってくる。社交性の高さもジャスミン様はずば抜けていると思う。
「そうねぇ……、白と青のドレスにしようかしら。髪色がどちらかといえば暖色だから、沈まないように」
「では、私は茶色にいたします! フリージア様の瞳のお色で、お揃いですね!」
しまった、無難な色をあげたと思ったが、お互いの目の色でちょっとしたお揃いにしようとしているが、これは不味い。
こんな美人に茶色のドレスでデビュタントに出させる? そんな訳にはいかない。
「あの、良ければ、私のおススメの色ではだめかしら?」
「おススメしてくださるんですか……? どんな色でも必ずその色のドレスに致します!」
困った、何色でも目立つぞ? 何でもいい、とは言えないし、かと言って奇抜な色を着せるわけにもいかない。
「光沢のあるアイボリー……ちょっとした金色ね。それに、お揃いの白のリボンではどうかしら?」
「あぁ……! センスも最高ですのね、フリージア様! わかりました、私はそのドレスを着ます……!」
手を組んで瞳を潤ませて感動されたが、思い付きである。
決して……私が私を下げない限りは……私の敵にならない、美人で優しくて社交的で明るい彼女を、私が嫌うわけもなく。
このように崇拝されながらも、私たちはとても仲良くやっている。
私は彼女の崇拝の理由は何度も尋ねたのだが、彼女から返ってくるのはいつも同じ答えで、もう聞くのはやめにしている。
曰く、「フリージア様は天使であり女神でいらっしゃいますから」だそうだが、うん、そう思った根拠までは怖くて聞けないのだ。
その後は、普通に雑談を楽しみ、日焼けするのでお見送りも結構です、というジャスミン様をサロンで見送って、私は夕方からの教養の授業の支度を始めた。