第7-1話
「ねぇ…もっと飲みなさいよ!」
「…無理って言ってんだろ、…ウップ」
「全く、こんなほっそい身体してるからすぐぶっ倒れるんだよォ!」
「コラ!ユウ君に無茶振りしない。はい、蜂蜜レモン水」
月は空の半分が昇った頃。
ロー地区の一角にあるバー『Fortune』で飲み会に参加していた。そこはユウマの友人である優麗で母性感がある金髪のエルフ『アルナクス』で皆からはアルナと呼ぶように言っている女性がママをしている場所である。予め店に連絡していたので、ママが料理を作ってくれていて、ダンとリンナはそれを物凄い勢いで飲み食いしたかと思えば、この様である。
しかし友人たちが盛り上がっている中、酒を無理に飲んだとしてもユウマの頭からあの少女の影が離れることは無かった。
◇◆ ◇ ◆ ◇
『君の霊的適正は普通の人間と比べて異常に高い』と言われたのは八年も前のこと。ここにいるダンとアルナと知り合った直後くらいに纏に言われたことだ。
そもそもにおいて笹宮遊馬という青年の経歴は特異な経歴の持ち主である。
その昔科学が主流であった世界は突如として転移してきた五種属の異種属人によって翻弄されていく『大崩落』と言われる事件から始まる。彼は当時ニッポンと呼ばれる八百万の神々がいるとされる国に生を受け、『大崩落』時、11歳と少しだった。
やがて五種属v.s.人類の攻防において人類の負けが込んできたのがその五年後。彼曰くこの時期に自称神に修行をつけられたという。
そして世界大戦の構図が五種族間になった時に、16歳の彼は単身で当時の集団で亜流と言うべき種族混合軍隊の『イネイブル』に加入した。その後3年間職業軍人として働き、戦争集結と同時に軍を離れて、一年放浪した後にレイの探偵事務所に入って四年で現在に至る。
こんな人間など時代背景を考えても少数派であるが、特異体質に加え彼は先の対戦においてあることを成し遂げた。それは戦争終結である。実際はうやむやな休戦協定だが類稀なる功績であった。
ただ彼は言った。
『英雄なんかじゃない。俺はこの手で、妹を殺した。だからアレは止まった』
仲間は言った。
『妹って誰だ? お前は単身で向かって単身で成し遂げたのだろう』
以降彼は世間から『いないはずの妹の痕跡』を探す死追い人、狂人の烙印を押された。
それでも彼は今日まで彼女の痕跡を探し続けた。 贖罪のために。
◇◆ ◇ ◆ ◇
「というのが君が去った『であろう』日から、今日までの出来事だ。そして君の存在を知っていた私は彼をここに招き入れたと言うわけだ」
デスクライトだけ点けた明かりが暗い事務所と片眼鏡をかけたレイをボンヤリと照らす。意識を失っていた少女はパニック半分緊張半分といった表情をしながら、使命としてしっかり聞いていた。まだ続けられるとレイは考え、また語り出す。
「君は笹宮遊馬君の妹さんと言うならば、君には忠告しておかなければならない。私や纏君は偶然『君たち』がいた場所も、最終戦で彼が『何を見たのか』も想像できるから許容できる。
だが世界は君を知らない。共に戦っていた記憶・記録もなければ、存在していた痕跡もない。そして君の兄は殺したと言い切り、5年間君の『死体』を探していた。
「レイ、いったん止めて。規定値を超えたから」
つまり世界は君の存在を拒絶している」
レイはそう付け加えた。これは彼女が知っておかなければいけないと思ったから、レイは語った。纏は忠告を聞かなかったレイを睨みつける。
こういう役回りほど損なものはないだろうと自分も嫌いつつも、でも彼女と5年間探し回っていた兄のために。
しかし彼女は荒い呼吸を数回してから言い切った。
「でも…私は…兄さんに会いたいです」
その答えを待ってたかのようにレイはニッコリと笑った