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第5話


「あぁ、おかえり。今回の収穫は…ありそうだね」


静寂な林に囲まれている丸太で構成された2階建の建物−事務所にユウマは少女を背負いながら入る。

中は広々としていて壁に書類棚が並び、応接用の机とソファー、ここの主人の書斎机と高そうな革製の椅子がある。そこに座って優雅に紅茶を(たしな)む白髪の初老がこの探偵事務所の主人であるレイ=バートンその人である。


「もうちょっと妹さんのことで、色々引っ張り回そうとしていたのに…」

「おい、なんかゲスいこと聞こえたぞ」

「これは失敬。ただ今回も君と私の手紙で無駄な犠牲が出ずに済んだようなものなのだから、もうちょっと…」

「当時の俺みたいなやつを拾ってくれた恩がある。そして今も普通の仕事にありつけねぇ俺に金払ってくれるから、むしろこっちが逃してたまるかってんだ」

「…そうか、ありがとう」


そしてユウマは彼の助手にして小間使いとしてここに所属しているわけだが、出会い等は話が長くなるので割愛する。ユウマは近くにあったソファーに少女を降ろし、寝転がらせる。相変わらず意識は戻っていない。レイも少女を観察しに、少女の元に来る。そして手慣れたように脈と呼吸を見る。


「君はこの女性はどこで拾ってきたんだい?」

「学院。リンナのところに寄った帰りに倒れていたところを見つけたんだ」

「それはなんという幸運というべきか、悪運というべきか。神と言うものはこういうところで気まぐれだから嫌いなんだ」


 レイは愚痴りながらも触診を続ける。胸部に耳を当てるなどして1分後。一連の処置を終えた彼は少女に毛布をかけて、ユウマの方に向く。


「…紳士二人がこう淑女の絹のような滑らかな肌を眺めるというのは実に罪深く耽美なものだろうか」

「それ以上言ったらしばくぞ」

「はーひ、ほほっはほほほひっははへは(なーに、思ったことを行ったまでだ)」


ユウマはレイの頬を思いっきり言って、レイは悪びれることなくのたまう。やがてレイが見終えるとおおよその見解を述べる。


「私はこの手のものに関してド素人なので大したことはいないが、結果から述べる。

彼女は『人為的に』この世に産み落とされたものだ。だから『ハズレ』だ」

「やっぱりな。そうじゃないと困る」


 ユウマは特に落胆した様子はなく、話の続きを促す。レイもそのまま続ける。


「だがそんなものが落ちているのを見過ごすのは、我々『探偵事務所』として。そうだろう? 君には引き続き調査をお願いしたい」

「ってなると、まずは彼女を『先生』に診せるのが妥当だな。つっても意識がないヤツを動かすわけにもいかねぇし、ちょっと電話してくるわ」


 そう言ってユウマは屋内から出ていく。目を追っていたレイはユウマが出ていくのを確認してから、書斎机にある椅子に静かに座り冷え切った紅茶をすする。




「君に言った『ハズレ』、あれは私たちにとって『ハズレ』なんだ。まったく…だから神というのは嫌いなんだ。時間の問題とは思っていたが、君はどうやら最高に運がいいらしい」



そう独言ひとりごちて、レイは机の上のダイアル式電話に手を掛けた。



「…やぁ、君に連絡するのは随分久しぶりだね」


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