第4話
タダでさえ目の前で起きていることが分からない上に、探していた物が落ちている状況をユウマは即座に飲み込むことが出来なかった。
「…逃げよう」
結果思考回路はショートし、弾き出した結果は誘拐犯と同様の思考を弾き出した。
彼は50ccの原付で来たことを後悔しながら、自分の上着を妹とソックリな少女に被せてお姫様抱っこで再びリンナの部屋に戻る。
「リンナ!」
バタッと扉を開けると地面に研究資料を山積みにし、その中央にこれまた山積みの書類が占有している机で仕事をしているリンナが顔をあげる。
「なに? 忘れ物なら勝手に持って帰って。もうすぐ授業だから行かないと」
そう言いながら時計をチラチラ眺めるリンナ。どうやらギリギリまで粘って、作業をしてたらしい。ただそんな彼女もユウマの異変に気づく。
「どうしたの、それ。さっきまで持ってなかったでしょ?」
「拾った。詳しいことは今話せねぇから、後で話す。それで話なんだが、車貸してくれ。コイツをボスんところまで持って来たいんだ」
「そんなこと…! あー、もう!絶対事故なんて起こさないでよね! あと向かいに来ること‼︎ いい⁉︎」
どうやら授業開始までもう時間がなく、問答するくらいなら後で聞くことを選んだらしい。彼女は車の鍵をユウマに投げ渡すと教材を持って飛び出していった。心の中でお礼をして、ユウマも走って飛び出した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
借りた車に少女を乗せ、走らせるユウマ。目的地は彼の上司がいるミドル地区・林地帯。彼の上司は居住地兼しがない探偵事務所を構えている。
この辺りから流石に罪悪感が滲みはじめたが、やはり人が人だけに引き返すことは出来ない。文字通り降って来た答えのようなヒントをみすみす逃すことなど彼には出来なかった。
車を更に走らせて、林地帯に入って行く。ここら辺からは人通りがパッタリ消えて行く。そのおかげでバックミラーに映るものがしっかり見える。
「そりゃ『訳あり』ってことだよな。分かってた…って言いたいとこだけど、流石に地雷だったよな」
映るのはスモークガラスで中が見えない仕様の黒塗りのセダン。ナンバーが取られているのが正しくヤバイ人ですと物語っている。独り言を吐き捨てると、法定速度を少し上回るスピードを出して引き離すように走る。
ただ向こうはあくまで監視が目的らしくて、必要以上追ってこない。この道を使っている時点で行く場所は二つに絞られる。
追ってきていた車は次第に離れていく。
「まじでこの後どうなっていくんだよ…」
後ろで未だ気を失っている少女を一瞥して、ため息をつく。二人を乗せた車はこの先にある事務所に向かう。