第3話
「へぇ〜、まぁーたダンさんと所長さんのお世話になったのね。もうちょっとうまくやったら?」
「おめぇだけには言われたかねぇよ。これで教室爆破したの何回目なんだよ」
「まだ五回ですぅ。あなたが連行された回数の半分ですぅ」
「その度に俺が呼び出されたのは覚えてるか? 最初は確か『消化器の使い方が分からない! 助けて!』だったか?」
「そのことは忘れてって言ったでしょ‼︎ もう…」
先ほどの一件で黒煙まみれになった教室を慣れた手つきで早々に掃除し終えたリンナとユウマは生徒を帰した。そして今は空いている机で昼食を取りながら、駄弁っている。
彼女と知り合ったのは五年前のユウマの友人が営んでいる酒場。そこでこの国に来てすぐの彼女はメチャクチャ悪酔いしていて、偶然いたユウマに絡んできた。下戸の彼に無理やり飲ました訳だが、飲めるはずもなくダウンして裏口でずっと吐いていた。
そんな最悪の出会いから彼、そして彼の上司とも繋がりが出来て今に至る。ちなみに彼女の教師という職業も上司に斡旋してもらったものである。そのあとは彼女の実力で今の地位を向上・維持している訳だが。
「それにしても『妹さんの行方』ってどうなってるの?」
リンナはサンドイッチを頬張りながら、思い出したかのようにユウマに聞く。
「ん? ぜんっぜん進まない。まるで神様が邪魔してるみたいだ」
「意地悪ね、神様って。五年前から言ってるもんね」
「…言っとくが」
「『ママさんやダンさんには絶対秘密にすること』でしょ。ちゃんと守ってるわよ、最近はお酒もセーブしているし」
「ならいいが…」
「でも相談した方がいいんじゃない? その方が」
「ダメだ。アイツらには仕事があるんだし、こんなこと頼んで迷惑は掛けられない」
「その理屈だと私は…?」
「リンナさんならスペック高いし大丈夫でしょ」
「なに? 煽ててればいいとでも思っているの?」
そう言いつつ満更でもないと言いたげなニンマリ顔を浮かべるリンナ。そんな嬉しそうな彼女の顔は見たユウマは不思議に思いながらも、それ以上は何も言わなかった。
時刻を見れば来てから1時間ほど経過していた。彼女にも次の授業の準備があるだろうからとユウマは腰を上げる。
「そういやダンが呑みの誘い貰ったんだが、お前もくるか? 行くなら恐らくアソコだろうし」
「マジ⁉︎ 行くに決まってるでしょ! なんで先に言わないのよ!」
去り際に、ダンと約束してた内容を思い出しリンナに問いかける。すると彼女は目を剥いてそんなことを言ったかと思えば、即座に昼食を完食。かと思えば疾風が如く、自分の作業部屋に戻って行った。あのレベルだと最近はキッチリ禁酒してたんだなと思い、彼女に心の中で褒めるユウマであった。
◇◆ ◇ ◆ ◇
駐輪場に戻って来たユウマは目にした。
歯に何か詰まってるななんて考えていたことがバカらしく思えるものを。
状態を表すなら、彼の原付の側で10歳を超えたぐらいの女性の人間が倒れてる。
異常事態だが、彼にとっては天地開闢に等しい衝撃を与えるもの。
倒れていたのは5年間探し続けていた妹の美空だった。